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038  作者: Nora_
5/10

05

 風呂から上がってリビングに戻ったら俺の母と三鈴の母さんが話している声が聞こえてきた。


「あ、篤希、ちょっと来て」

「おう」


 行ってみると先程の相良みたいな泣きそうな表情の三鈴母が。


「篤希くんっ、うちの三鈴知らない? まだ帰ってきてないのよ」

「え? 普通に夕方に帰るって走っていきましたけど……」

「どこに行っちゃったのかしら……」

「俺で良ければ探しますよ」


 別れ際があんなんだしまず間違いなく俺の原因でもある。


「ほんと!? ありがと――と言いたいけれど、もう夜も遅いし……」

「気にしないでください、あいつは大切な幼馴染ですから」


 赤羽が関係していないのなら動く理由ができる。

 これは単純に心配しているからというものでしかない。

 これだったら確かに三鈴が言ったように、他はどうでもいいという状況だ。


「……頼んでもいいかしら?」

「うちの篤希なら大丈夫! ぱぱぱっと見つけてくれるわよ」

「それじゃあ……よろしくね。私は家で待ってるわ」

「はい、任せてください」


 さて、三鈴がいそうな場所ってどこだろう。

 神社の奥? ちょっと上にある展望台? それとも今日の店か?

 ……まあいい、全部それっぽいところを探してみれば十分だろう。

 あの様子だと連絡だって取れていないんだろうしスマホも邪魔だから置いていく。


「三鈴ー! どこだー!」


 うんまあ夜だと神社とかって不気味だな。

 それでも帰るなんてことにはならない。

 不気味さなんかよりあいつが帰ってこなかった場合のショックの方が大きいから。


「神社はいねえか」


 となると展望台、あそこは昔よくふたりきりで行った場所だった。

 ここからの景色を見るのが好きなんだってよく言っていたしいてもおかしくない。


「はぁ、はぁ……だが疲れるな……」


 風呂入った後に全力疾走しなければならないとかツイてないな。


「三鈴ー!」

「……あっくん」


 小さいが間違いなく三鈴の声。

 ゆっくりと近づくと、ベンチの上に体操座りをしているやつがいた。


「三鈴、ここに来るんだとしても連絡してからにしろよ。お前の母さん心配してたぞ」

「あっくんっ!」

「わっ……危ないだろ。それと……ちょっと休憩させてくれ」


 抱きついてきた彼女を再度座らせ、俺はその横に腰掛けた。


「いいよなここ、なんか懐かしい」

「最後に来たのは中学二年生だよ」

「よく覚えてんな」


 ここは暗いが目の前の光景はキラキラ光っていてステキだと言える。

 もし赤羽のことが好きじゃなかったら抱きしめてやるんだけどなここで。

 だってそれっぽいだろ? 拗ねてどこかに行ったヒロインを探し当ててーなんてさ。


「疲れた……」

「ご、ごめんねっ? でも、なんか帰りたくなくて……」

「今度同じようなことをする時は連絡してくれ。満足した頃に迎えに行ってやるから」

「……なんでここだって分かったの?」

「ここは思い出の場所だからな、神社も探したけどいなかったから来たんだ」


 見つかったいま一番問題なのは相良からの連絡がもうきているのではないかということだ。

 泣きそうな顔で反応してくれと言ってた、それなのに一切反応がなかったら?

 間違いなく嫌な気分になるよな、それくらいは俺でも分かる。

 だけどこっちを放っておくわけにもいかなかったんだ、だってこいつなにかやらかしそうだし。


「よし、帰るか」

「待って、まだふたりきりでいたい」

「なあ、さっき怒鳴ったのは謝るよ。だからやめてくれ……相良が言ってくれたのは全部いまの俺の気持ちだよ」


 欲張りなのはやめてほしい。

 赤羽だけで満足しておけばいいんだよ。

 馬鹿みたいに急いで探しにきた俺が言うのもなんだが、捨てたいんだよいい加減に。

 しかしこのようなことを言われると結局最後まで捨てきれずにいてしまう。


「……私がやめたらいてくれるの?」

「や、やめたらってなにをだ?」

「赤羽くんといるの」

「やめろ、俺はもう帰るからな」

「ま、待ってよ、私も帰る……だって怖いもん」


 はあ……だったら夜に逃げ込むなよこいつ。

 馬鹿みてえに急いだ俺は文字通り馬鹿だったな。


「ね、あの後珠奈ちゃんと一緒に帰ったの?」

「いや? 醤油を届けるという任務があったからな」

「そっか」


 それから三鈴は沢山母さんに叱られていた。

 別にいいのにこちらにお詫びとして美味しそうな食べ物までくれて、申し訳なかったくらい。


「そういえば篤希、置いてあった携帯、何度も鳴っていたわよ?」

「あー……おう、サンキュ」


 確認してみると二十件以上のメッセージ及び着信履歴が。

 もちろん全部相良のものだ、かけるべきかどうか――かけるしかないよな。


「あ、あー相良か?」

「篤希の馬鹿! なんで出てくれないのっ」

「いや、三鈴が家出しててな……いままで探してたんだよ」


 何気に遠くて家を出た時から二時間も経っているし、最悪なことに汗だく。

 こんなことってあるか? どれだけ振り回されればいいんだよ俺は。


「え、見つかったの?」

「まあな。それでなんだ?」

「ビデオ通話しよ」

「別にいいが、裸とかやめろよ?」

「うん」


 あ、どうやら普通の私服のようだった。

 少しだけひらひらと可愛らしい感じ、自分の武器というのを理解しているな相良は。


「この服どう? 実はさっき買ってきたんだけど」

「似合ってるぞ」

「……可愛い?」

「そうだな」


 服に金をかけるタイプではないからいくらかしたのかは分からないが、高かったんだろうなということはよく分かる。


「あのシュシュは学校から帰った後限定なのか?」

「うん、あんまり汚したくないから」

「汚れたら洗濯すればいいだろ?」


 どうせならつけてほしい。

 なんか俺に勧められたから嫌みたいに感じてしまうから。


「篤希がもっと見たいって言うならつけてってあげるよ?」

「はは」

「な、なに?」

「やっぱお前はそうやって人をからかっている時が一番だな」


 笑っていたら「失礼な、からかってないよ」と不満そうに唇を尖らせていた。

 ならちょっとからかってみるか、いつもされてるんだから俺にも権利があるはず。


「じゃあ見たいからつけてきてくれ」

「うぇ」

「ん? 聞こえなかったか? 見たいからつけてきてくれって言ってるんだ」

「わ、分かったからもう言わなくていい……」

「あー似合ってるから見てえな、学校で見たら目の保養にもなるし。それに俺、お前の髪型好きだし」


 ポニーテールは房が揺れて目で追っているだけで楽しい。

 本人は暑かったり揺れて大変だったりしそうだが、男の俺としてはロングに続いてグッとくる髪型。


「ま、自由だからな、相良の好きにしてくれ」

「…………」

「つか、服を見せたかったのか?」

「うん……」

「なら見せてくれてありがとうな。だが俺は生憎と汗だくなんでな、風呂に入ってくるぞ」


 少しだけ調子に乗りすぎたようだ。

 押しに弱いのか、こういう展開になるとあからさまに口数が少なくなる。

 俺に(赤羽が)好きだと言ってくれた時の三鈴みたいに顔を赤くしているし。


「お風呂の間も通話しようよ」

「別にいいが……って、なるかよ。後で連絡するから待ってろ」

「やだ、切ったらどうせ反応なくなるでしょ?」

「信じられない気持ちも分かるが、気持ち悪いんだよこのままだと」

「だからその時も通話状態にしておいてくれれば……もちろんビデオモードじゃなくていいから」


 面倒くさいのでそのまま持っていくことにする。

 大きめなパウチにスマホを突っ込んで浴室に持ち込み。


「ふぅ……お前は寂しがり屋だな」

「篤希が悪いんだよ、他を優先しているから」

「ま、了解って了承したの俺だからな、悪かったよ」


 こいつにとっては友達ふたりとの距離ができたようなものだから寂しいんだろう。

 それを俺と関わることでなんとかしたいというところなんだと俺は考えている。


「でも、そうやって動けるのが篤希らしいね」

「直前に言い合いしていたからな、俺が原因だったから仕方なくだよ」

「それって相手が私でも動いてくれるの?」

「動くさ、自分に責任があると思ったらな」


 申し訳ないことをしたのでジンジャーエールを今度奢ろうと思う。

 あの甘ちゃん舌の三鈴でも飲めたんだ、相良だって気にいると信じている。

 つかどうせならどんどん好きな人間を増やしていきたい、あの店にも大きな経済効果があるわけだし明迷惑ということでもないはずだ。


「今度またあの店に行こうぜ」

「ふたりきりで?」

「その方がいいならそうしよう」

「約束だよ? あと、今度は私もジンジャーエール飲む」

「おう、約束だからな」


 つか勝手に飲んできたりしていたし本当は飲めるんだろうな。

 今日のを見ていたということなら、三鈴に影響されたということなのかもしれない。

 三鈴たんには負けない! みたいな。


「それじゃあな」

「え、もう?」

「おう」

「……うん、それじゃあおやすみ」

「おやすみ」


 良かった、なんか一緒に風呂に入っていたみたいで嫌だったんだよな。

 前のタオル姿のあれとか、際どい自撮りとか思い出して……良くない反応が起こるところだったから助かった。


「同級生で変な妄想すんな馬鹿っ」


 非常に申し訳ないので今度飲み物だけではなく欲しい物を奢ってやろうと決めたのだった。




 委員会の仕事をサボっていたせいで先輩に滅茶苦茶怒られた。

 いやまあ悪いのは忘れていた俺だ、だから言い訳をすることは許されない。

 そのために放課後を利用して罰という名の掃除をしていたわけだが、


「お、こんな本がうちの高校にあったとは」


 ……掃除の時に限って他のことが気になったりとか、あるよねという話。


「はは、これ面白いな……あ」

「大武君、なんで悠長に本なんて読んでいるわけ? もしかして私、本を読んでいてください、なんて言ったかしら?」

「あーこれは……あ! ほら、片付けていいのかを内容を見て判断的な――はい……すみませんでした、これからは真面目にやります」


 こちらは三年生の佐藤涼華りょうか先輩、言うまでもなく俺を叱ってくれたその人。

 俺の好きな髪型一位であるロングストレートヘアでそれに見合う美人ではあるが、性格がキツイ。

 他の先輩から聞いた話ではせっかくの美人なのにそのせいで非モテだとか。


「ひとりで大丈夫ですけど」

「そう? なら任せようかしら……って、していたらこうなっていたのよね、どうしたらいいと思う?」

「じゃ、じゃあ、そこで見ていたらいいんじゃないですか?」

「そうね、じゃあさっさとやって」

「はい……」


 ちなみに今日初めてまともに会話をした。

 恐らく俺だからとかではなく真面目にやらない人間が嫌なんだろう。


「大武君」

「はい?」


 手はちゃんと動かしながら耳だけそちらに意識を割く。


「なんでサボったの?」

「すみません、完全に忘れていました」

「そう。まあ謝れるのなら別にいいわ、これからは気をつけて」

「はい、すみませんでした」


 掃除をすることがメインの活動ではないものの、掃除をするという行為は別に嫌いではない。

 なんというかやるだけで気分がスッキリするし意外と複雑な気持ちなんかも片付けられる。


「お疲れ様、もういいわ」

「はい」


 本を読む前は一応真面目にしていたため、それに気づいてくれたのかもしれない。

 偉そうかもしれないが付き合わせてしまったので「お疲れ様です」とこちらも言っておいた。


「あなたこの後って暇? ちょっと気になるお店があるのよ」

「別に暇ですよ、気になる店ってどこのことですか?」

「ちょっと付いてきて」


 で、彼女が足を止めた場所は俺達がよく利用しているあの店だった。


「ここならよく利用いていますよ、入りましょうか」

「え、ええ」


 俺がいつも通りの注文を済ますと佐藤先輩も同じのを注文、それから受け取って席に。


「ジンジャーエール、好きなんですか?」

「よく分からないから利用したことのあるあなたのを真似しただけよ。いただきます……うっ!?」

「ん? どうしたんですか?」

「うぇ……か、辛い……」

「はははっ」


 いまの顔最高。

 同級生の人だって恐らく見たことがないだろう叱られた子どもみたいな顔だ。

 こういうしっかりしている人ほど崩れた時はギャップで可愛らしく見えるもんだよな。


「ちょっとっ、そんなに笑わなくたっていいじゃないっ、もう馬鹿!」

「いえいえ、俺の同級生だって『美味しいっ』って飲みますよ? 子ども舌すぎるんじゃないですか?」

「ぐっ……もうお嫁にいけない……」

「大袈裟ですよそれは。でもそうですね、克服しておいた方がいいですよ。結婚する相手が好きかもしれないんですから」


 嫌いな人間とか見たことがないけど。

 にしても今日まともに会話をしたような相手とここにいるって不思議だ。

 綺麗なロングストレートが素晴らしい。


「佐藤先輩の髪、綺麗ですね」

「髪? そんなの当たり前よ、一応これでも女なんだから」

「ですよね、俺の幼馴染もよく言っていますよ、髪は一番大事って。命より大事じゃないと思いますけどね俺は」

「それはあなたが男の子だからよ」

「ですね、余計なことは言わない方が良さそうです」


 つい心の声を出してしまった。

 ほぼ初対面で褒められても気持ち悪いだろうに。


「ん……でも癖になる味ね」

「はい」

「これならなんとか飲めそう……」

「ゆっくりでいいですから」


 終わった後は笑ってしまったお詫びとして払わさせてもらった。

 佐藤先輩もどこかスッキリしたような感じで「今日はありがとう」と言ってくれたのでなんてことはない。


「帰るか……」


 罰の上に奢りだと? もう余裕がないってのに格好つけてんじゃねえよ俺……。

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