03
適当に本を読んで過ごしていたら「篤希、新しくできたお店に行こうよ」と相良が急に誘ってきた。
「え、でもあの店って女子向けの雑貨屋じゃなかったか?」
疑似カップル状態なら大丈夫とかそういうことではない。
男が入っているのは見たことがないし、流石に遠慮しておきたいところだ。
「女性専用車両だってあくまで女性優先ってだけで男の子が乗っても違法ではないんだよ?」
「いや、なんでいまそれを出してくるんだよ。なんか怖えよ、だって追い出される可能性があるってことじゃねえか」
「篤希は格好いいから大丈夫だよ。ほら、イケメンは大丈夫ってことがあるでしょ?」
「だったら赤羽を連れて行け」
こいつに格好いいと言われても嬉しくないのはなんでだろう。
三鈴のと違って笑顔が嘘くさいからか、それは納得といった感じ。
「いいから行こうよ、行ってくれないと裸に無理やりされたっていま言うから」
「……三鈴じゃ駄目なのかよ?」
「翼君といるようになってから付き合いが悪くなったんだよー、うぅ……」
「くそ……分かったよ、放課後になったらな」
「やたー! さすが篤希っ」
あぁ、赤羽の良さを少しでも見習ってほしいところだ。
その後は少しだけ微妙な気分を抱えながらの時間となった。
「行くよー」
「ほいほい」
それで来てみたのだが、ざっと見てみた限り普通の女子しかいない空間。
追い出されることはないみたいだが、こちらをギロリと見てくる女店員。
居心地が悪いことこの上ない、なのに隣の相良は「うひゃー可愛い!」なんて呑気にはしゃぐ。
「篤希篤希、これ似合う?」
「おう、似合うんじゃねえか?」
なんかやたらとキラキラしたシュシュ? という物を持って笑顔を浮かべていた。
普段からそういう可愛い笑顔でいればいいのにと思わずにはいられないものだった。
「でも、三鈴たんだったら?」
「三鈴だったらもっとシンプルなのでいい。派手さはいらないんだよ」
「はぁ……まだ諦めきれてない」
「そうか? 事実を口にしただけだが」
つかこいつ、どれだけ三鈴のことが好きだということにしたいんだ。
そんなことしたってメリットはないだろう、時間の無駄でしかないというのに。
「こういう宝箱とかなんか可愛いよね」
「ちょっとした収納箱になるのもいいな。宝箱を開けたらカードの束とか、ワクワクするな」
昔は男友達と暗くなるまでよくやったもんだ。
神社でやったりしたからカードの裏面が傷ついたりしたものの、あれほど楽しかった時間はない。
どのようにすれば相手に勝てるようになるのか模索する毎日。
小遣いを全部使って新しいパックを開封する時のワクワク感。
いまでこそやる相手がいないから押入れの奥にしまってあるが、いつまでも捨てられない物となっている。
だってそれを捨てるってことは思い出まで捨てるみたいに感じてしまうから。
「私だったらプリクラの写真とか入れるけど」
「お前そういうのするんだな。え、ソロでか?」
「三鈴たんとに決まっているでしょ。撮りたいって言うなら一緒に撮ってあげようか? ほら、男の子だけでは利用できないし」
「お前とか? はは、まあいいかもな、いまから行くか」
この雑貨屋にいることよりは気が落ち着ける。
というか今更ではあるが、これってまるでデートみたいだな。
「あ、待ってっ、あのシュシュ買ってくる」
「似合うとは言ったがちょっと派手すぎないか? そうだな……お前にもこういう単色でシンプルなやつが似合うと思うんだが、どうだ?」
「じゃあそれも買う」
「分かった、なら外で待ってるぞ? ここはやはり俺のいる場所じゃないからな」
恋愛って早いもの勝ちだよな。
これからもこのまま続くだなんて考えている間にも、もしかしたら他で運命の相手と出会っているのかもしれない。
他人は自分ではないのだから様々な行動を取るだわけだしそれこそ人間は沢山いるからどちらにとってもビビっとくる人間とすれ違う可能性がある。
そこで行動できるかどうかはその当人達次第、が、気になってしまえば人ってこれまでのはなんだったのかってくらい積極的になるもんだ。
「お待たせー」
「持ってやるよ」
「え、かばんにしまうからいいよ、ただの紙袋だし」
「そうか。えっと、ゲーセンは」
一番近いのは駅前だったよな? ここからだとどう行くのが最短なんだっけ?
「こっちだよっ、しょうがないから手を引っ張ってってあげる」
「なら頼むわ」
うーむ、やはりこいつも女子なんだなあ。
小さいし無駄に体温が高い、熱なんじゃねえのかってぐらい熱かった。
「着いたー」
「サンキュ。でも、手は離せよ?」
「え、別にこのままでもいいじゃん」
「そうか? ま、お前がいいならいいけど」
なるほど、カップルらしさを出しておけばあの筐体の中にも入りやすいと。
仮に人気だったら待っている時に笑われなくて済むという感じか。
「良かった、あんまり利用している人いないね」
「まあ平日だからな」
中に入ってみると予想外の狭さに驚いた。
あと照明が眩しい、もう少しエコにいこうやゲーセンよ。
「後は任せたぞ」
「うん」
こんなの三鈴ともしたことねえな。
いや、誘われたことはある、しかし恥ずかしいからという理由で断った。
思えばそういう誘いを断っていたせいで――違うか、単純に赤羽に惹かれただけなんだ。
だって一度も俺らの間にそれっぽいことはなかったからな、小六の時にあいつが「ちゅー……してみる?」とか馬鹿なことを言いだしたことはあったが。
「ちょっと、笑ってよ」
「はっ……わ、悪い、考え事してた」
「そんな悪い人にはこうだにゃっ」
「お前、マジで好きな男ができた時に困るからやめろよ」
単純に三鈴が構ってくれないからなのか、実は赤羽が気になっているが本人は三鈴に夢中だからか――どちらかは分からないが、とにかくなんらかの感情を片付けるためにしているようにも見える。
「練習だよ練習、ほら、もう始まるよ?」
「おう」
撮られる時はもっと眩しかった。
「あー全然笑ってないじゃんっ」
「しょうがねえだろ、作り笑いとか苦手なんだよ。つかお前は……なんでこんな笑顔なんだ」
女って写真を撮る時とかに無駄に笑顔になれるから凄いと思う。
男が満面な笑みを浮かべていたら怖い、なんかこれからやらかすんじゃないかって迫力がある。
でも女のそれは嘘くさく感じない時もあるのだから不思議な話だろう。
「そ・れ・は、篤希がいてくれたからだよーん」
「はいはい。それは全部お前が持っておけよ」
「え、やだよ、半分は篤希の! こういうのはお互いが持っていないと意味ないし」
「お前……嘘ついてないよな?」
顔を近づけて睨みつける。
大体こういうことをしておけば現状維持はできない。
「ついてないよっ、疑うんなら三鈴たんに聞いてみればいいじゃん」
「分かった」
邪魔するのは申し訳ないが三鈴に聞いてみることに。
そうしたらすぐに『そうだよー』とメッセージが返ってきた。
「そうみたいだな」
「……なんで信じてくれないの」
「ん? いや、分かってたけどな。すまん」
「別にいいけど……」
だってよ、こんなの気恥ずかしいだろ。
同級生の女子とふたりきりで撮った写真なんてよ。
際どい自撮り画像とかは顔が見えなければネットに転がってるやらしいやつと同等の扱いができる。
しかしこちらは普通に顔が見える上に、腕は抱かれたままなんて……なあ。
「篤希っ」
「なんだ? はぁ……悪かったよ」
「あ……ふーん、そういうの三鈴たん以外にもしちゃうんだ?」
「ちょうどいい場所に頭があったからな。帰るぞ、これはまあ机の引き出しにでもしまっておくわ」
見えないところに置いておけば気恥ずかしさもないだろう。
「えー貼ってよースマホの裏側にとか」
「無理だ、持って帰るだけでありがたいと思え」
にしても俺がこんなのをするなんてなあ、相良が男友達みたいなのではなかったら無理だろうが。
「えへへっ、元気いっぱい!」
「そうかい、まあお前は嘘っぽい笑顔を浮かべている方がらしいしな」
「酷いよっ」
事実なんだから仕方がねえ。
三鈴だけじゃなくて結局はみんな笑顔が似合うということなんだろうな。
「あっくんっ」
「よう、なんか久しぶりな感じがするな」
「え、大袈裟だよ、ちょっといい?」
「別にいいぞ」
まあ毎日毎日赤羽といられるというわけではないか。
「どうだ? 緊張することはなくなったか?」
「うん、赤羽くんが優しいからね」
「そうだ、相良が寂しがっていたぞ、付き合いが悪くなったーって」
別にどうでもいいんだが、その寂しさから暴走されるのは困る。
不意に触れられたりすると健全な野郎としては意識してしまうからだ。
あいつ何気にいい匂いするし、なんか柔らかいし、それに温かい。
見てくれだけは最高だから好意がなくたってドキッとすることは間違いなくある。
「あ、そうだね、メッセージのやり取りはしているんだけど……顔を合わせてお話しすることは減っちゃったかな」
「赤羽優先もいいがたまには友達を優先してやれよ」
「そういえばあっくん、ありがとね」
「は?」
「いや、赤羽くんを助けてくれたんでしょ?」
自分のことではないのにお礼を言うなんてことは過去にもあった。
でも、今回のそれはそれくらい赤羽がもう大切な存在になったということだと分かる。
「そうやって他人のために動けるのステキだよ」
「はははっ、だったら赤羽の方がそうだろ? ちゃんと同じように言ってやれよ」
「でも……いきなり言ったらおかしいと思われるかも」
それでも俺には言えるって……なんか残酷だな。
「あれ、珍しくふたりでいるね」
「お前、まだ帰ってなかったのか」
「今日は委員会のお仕事ーよいしょっと……ふぅ、座っているとやっぱり落ち着くね」
ああ良かった、こいつが来てくれて。
こいつは問題ばかりは起こすが、時にはそういう勢いも必要なことがある。
「ごめんね珠奈ちゃん、赤羽くんとばかりいて」
「そうだよーたまには友達を優先しておくれよー」
「ごめん。そうだっ、これから一緒にあそこに行かない? ほら、新しくできたお店!」
「いいねっ、それじゃあ行こうか! あ! 篤希はおひとりで下校してどうぞ」
「あそこなら行かねえよ、俺には似合わない場所だ」
もう無理だ、あそこに行くのは並の男では無謀。
「あれ、あっくん行ったことあるの?」
「ああ、そいつとな。そうだ、赤羽を誘ってやるよ」
「えっ、でも今日は珠奈ちゃんとだけ過ごすデーだから」
「そうだぞ篤希、余計なことするにゃー」
あれま、まあ友達優先しろと言ったのは自分だから今日は大人しく帰ることにしよう。
「大武君」
「お、赤羽か、いま帰るところか?」
「はい、ご一緒させてもらってもいいですか?」
「おう」
まだ学校にいたのかこいつ。
三鈴を誘ったはいいが連日すぎて断られたというところか?
「三鈴とはどうだ?」
「そうですね、三鈴さんが優しい方ですから楽しいですよ」
「ここだけの話だがな、三鈴も赤羽がって言ってたぞ」
「それではいい感じなのでしょうか? 初めてで分からなくて……」
まあそうだよな、なんでも初めてのことって緊張するか。
それにこういう今後に関わってくることなら尚更のこと、こいつでも困惑するのかって意外だけども。
「え、というかお前、これが初めてなのか?」
「はい、誰かを好きになったことも、誰かに好きになられたことも初めてです」
後者は嘘だろ、意に介していなかっただけだな恐らく。
というかちょっと待てっ、まだ三鈴は好きだとは伝えてないはずだ。
なのにこいつはいまハッキリと断言しやがった、そういう能力でも備わっていると?
「待てよ、三鈴が好きだってなんで分かるんだ?」
「え、だって僕がお誘いしても断らないで来てくれるんですよ? それって多少であったとしても好きでなければできないことだと思いますが……あ、違うんですかね、凄く恥ずかしいことを言いましたよね」
「はははっ、まあそのままでいいんじゃねえのか、相手が自分のことを嫌いだと考えて行動しているよりもいい。だがまあ、度が過ぎたら駄目だけどな、ちゃんと順序を守れよ。まずはとにかく仲良くなることだぞ? それでふたりでいるのを当たり前にする、いいか?」
ま、実際にいまの発言だけで見れば両想いなんだし。
だったらさっさと決めちまえよこいつ、それができるのはイケメンの特権だろ。
「分かりました。いつもありがとうございます」なんて律儀に感謝してきやがって、全部三鈴のためなんだから勘違いするなよまったく……。
「それにしても大武君は凄いですね、恋愛経験豊富なんですか?」
「嫌味かよ……モテたことはねえよ、お前に偉そうに言っているがそれを役立てることができたわけでもない」
「嫌味なんかではありませんよ。だって大武君が教えてくれた通りにすると三鈴さんが喜んでくれるんです。でもまだまだですよね、僕が己の力で喜ばせることができたわけじゃない……それは少し悔しいですね」
「悪い、いつも余計なこと言って」
「いえ、それは僕に力がないからです。だから、慌てずゆっくりと三鈴さんと仲良くなりたいです。それで相応しい存在になれたと思えた時は、その時は僕の方から告白させてもらいます」
もうそのまま告白すればきっと受け入れるくれるだろうが、納得できないんだろうな自分が。
俺の言葉を聞いてはいるものの、誰かの助言通りに行動して上手くいっても複雑さが残ると。
「頑張れよ」
「はい!」
頑張るのは俺もか、そろそろいい加減捨てることにしよう。




