10
「お前髪……」
「うん、たまにはいいかなって。どう?」
「いや、最高……」
ロングが一番だからなまじで。
あとこいつ、なんかいつもよりいい匂いな気がする。
それと服もシンプルではあるがだからこそ全面的に珠奈の可愛さを出していけているというか。
「ちょっと、どうして目を逸らしてるの」
「……可愛すぎてやばい」
「そんなの当たり前でしょ」
……とりあえずさっさと本命の場所に行ってしまおう。
早くしないと遅くなるし危なくなってしまうから。
「篤希、手を繋ぐんでしょ」
「あ、ああ」
黙々と歩いてあの場所へ。
早足になっているからなのか「ちょ、ちょっと」と言われてやっと気づいた。
「悪い……もう抱いていってもいいか?」
「はいぃ!? わにゃー!」
移動していると沈黙が目立つからさっさと移動してしまいたいのだ。
気にせず彼女をお姫様抱っこ状態で運んでいく。
「速い速い!」
「そうか? 普通だろ」
くそ、今日はあくまで普通にっていったのにお洒落なかしてきやがって。
「はぁ……着いたな」
「急ぎ過ぎだよ……」
って、また全然人が来ない展望台近くの方になってしまったが。
「悪い、いつもの癖でこっちに来てしまった」
「いいよ、下ろして?」
「おう」
疲れたから休憩したい、あまりに急ぎすぎて動きたくない。
珠奈は軽いから問題ないのだが、問題なのは今日の雰囲気だ。
「いつ見ても飽きないねここは」
「だな」
ここを先に見つけたのは三鈴だ。
それで俺も入り浸って、喧嘩して拗ねて逃げ込んでとかっていう思い出がたくさんある。
それでもいまいるのは珠奈だ、だからそんなのは捨てて新しく上書きしたい。
「まあ座れよ」
「私はここでいいよ」
「いや、危ねえからそこ」
「危ねえって……普通に鉄柵があるよ」
分かれよ、隣に来てほしいってことだろうが、こんなことを言うのはださいから言わないでおくが。
「篤希って本当にロングストレートが好きなんだね」
「まあな。お前だって今日は可愛いより綺麗に見えるぞ、喋っていないと完璧だな」
「は?」
「い、いや……」
余計なことを言うんじゃねえよ馬鹿、結局同じようなことの繰り返しになっている。
彼女はここに来てからずっと俺の方を見ていない。
それはつまり後ろに警戒はしていないということだ。
つまりここで男を見せるのを待っているということじゃないのか?
だってあのお洒落具合、そういうのを期待していなければ有りえないことだ。
やけにいい匂いなのも風呂に入ってきたからだろうことは分かる。
だからここまで抱いて運んできた、せっかくしてくれたんだから汗をかいてほしくないしな。
「珠奈、いまから抱きしめてもいいか?」
「そういうの聞かなくていいよ」
「そうか」
しっかしまあ後ろから抱きしめていると犯罪を犯しているみたいだな。
珠奈が小さいというわけではないが、美少女に忍び寄る怪しい影! みたいに。
「……あったけえなお前」
「うーん、逆に暑い気がするけど」
今日おかしいのは俺だけってことかよ。
でもまあいいか、お互いにぎこちないよりかはずっといい。
「なあ珠奈」
「んー」
「告白して振られちゃえって言ったの、こういうことのためにか?」
「だってそうしないと篤希はずっと心が向こうに向いたままだったでしょ?」
「実際そうだったな、だからスッキリしたぜ」
どうせならまだ付き合い始めていない時にしたかったがな。
ずっと側にいたのに、他の誰よりも距離が遠かったのかもしれない。
なにやっていたんだろうって後悔もした、分かっていたことなのにダメージも受けた。
それでもあの後珠奈と喧嘩して、偶然か必然かここに来る途中で出会って抱きしめて。
家でゆっくりしていたら先程のはなんだったのかというくらい、なくなっていた。
前も考えたが可愛いとか言っていたのは表面上だけじゃねえ。
こいつは確かに可愛くて、思えばずっといてくれてるやつだったから惹かれていたんだ。
……最初はまあ女として見られねえとか考えていたけども? ……過ごしていけば変わるんだなって。
「力強すぎ。あ、それと今日泊まるからね、お母さんにももう言ってあるから」
「へえ、いいのかよ? やらかすかもしれないぜ?」
「篤希にはできないよ、そんなこと」
舐められたもんだな俺も。
実際できなかったからこそいまの俺があるのだが。
「珠奈、俺はお前のことが好――」
「好き、篤希のこと」
「おい! お前はもう言ってたんだからいいだろ!」
「ふふ、最近の女は強いのだ!」
やっぱり可愛くねえ、可愛いのは見た目だけだ。
「本当に喋ると残念だよなあ、赤羽を見習えよ」
「篤希くん、私も好きですよ?」
「気持ち悪いな! やっぱりやめろ!」
「どうすればいいんだよー」
これは罰を与えなければいけない。
というか、約束を守らなければいけない。
「こっち向け」
「うん。って、ここから向くの大変なんだけど」
「ちょっとでいい」
少しだけ厳しかったがアレをする。
その最中、ジンジャーエールを買ってくるの忘れたと気づいた。
「さ、帰るぞ」
「ふふふ、モンスターを育てるよ!」
「お前なあ……まあいいけど」
俺らしくていいんじゃねえかな、こういう緩い感じでさ。
日曜の朝、珠奈母が訪れた。
月曜日の朝、また委員会の仕事を忘れたせいで佐藤先輩に怒られた。
「あなたは駄目ね、学習能力がないわ」
「すみません……」
放課後に掃除をさせられて、十八時くらいまで拘束された。
「大武君」
「はい?」
「珠奈ちゃんと付き合い始めたようね、おめでとう」
「ありがとうございます。……え、どこから聞きました?」
「三鈴ちゃんから聞いたわよ?」
あいつ……本当に喋りたがり症候群だな。
「だからアレを奢ってあげるわ」
「ありがとうございます。それじゃあ遠慮なく」
校門で待たせてある珠奈と合流していつも通りあの店へ。
「やはりいいわね」
「ですよね」
「むう」
「なんだ?」
見るからに私不服ですとでも言いたげな顔。
「なに綺麗な涼華先輩をお持ち帰りしてるの」
「は? いや、祝いとして奢ってくれるっていうからさ。お前も好きだろ?」
「それはそうだけど……」
そんな態度を取らなくたって好きなのは珠奈なんだが……。
いや、可愛げがあると思えばいいのか? これくらいの方がいいか。
「ふふ、お邪魔なようね」
「そんなことないですよ。土曜からずっと一緒にいますからね」
そのせいで待ちきれなかった珠奈母が急襲してきたんだ。
だから男のくせにぎこちなく対応することしかできなかった。
三鈴母と同じようにとはいかない、なぜならこちらは彼女の母だから。
もし不快感を与えたらと考えたら……ああそれはもう恐ろしかったな。
「いいわ。はい、ここにお金を置いておくから」
「いえいいですよ、俺が出すんで」
「そう? なら私の分だけ」
やはり奢ってもらうのは情けない。
どうせなら無理にでも格好つけて払ってやりたいんだ。
「おい珠奈、変に嫉妬したりすんなよ」
「いやいきなり浮気かと思った」
「ちげえって……俺が好きなのは――」
「ロングストレートなら誰でもいいんでしょ」
「珠奈が好きなんだ、別にポニテとかロングとか関係ない」
こんなところでこんなこと言わせやがって。
しかし不安にさせたのならこれくらいいくらでも言おう。
「じゃあここでキスして」
「それはできねえな、他の人に迷惑だからさ」
「なら帰ったらしてくれる?」
「おいおい、まだ泊まるつもりかよ」
「それはしないけど……家の前で」
「……了解、辛いだけではなく甘いのもいいからな」
馬鹿なのは分かっているが、これも俺らっぽくていいんじゃないかね。
会計を済まして外に出る。当たり前のように差し出してきた手を握って歩いていく。
「というかさ、わざわざ涼華先輩に自慢したんだ」
「いや、三鈴が言ったらしくてな」
「三鈴ちゃんってお喋りなところがあるね」
「本当だよ。でもまあ感謝しているがな、そのおかげで珠奈とも出会えたんだし」
こうなるなんて思っていなかったが。
「ふふふ、私のこと好きすぎー」
「好きだぞ? なにが悪いんだ?」
「はぁ……もういいから行こー」
これからも馬鹿やって過ごしていこう。
変に頑張るのは俺ららしくないからな。




