00 序章
遅れましたが、なめたけも星花女子プロジェクト第九弾、始動いたします!
「君藤会長。意見箱用紙の仕分けが完了いたしました」
「いつもありがとう日塔さん。助かるわ」
君藤芽依は差し出された書類の山を受け取ると、副会長の日塔氷舞理にあでやかで優しい微笑みを投げかけた。
芽依が66期生徒会長になった際に設置された意見箱。各学年に1箱ずつ用意され、悩み事や学校への意見があればそこに用紙を入れ、放課後に生徒会が回収する仕組みになっている。
回収するのは会長自身が直々に行なっている(校内の見回りも兼ねていた)が、分類に関しては、毎週金曜日に他のメンバーにも協力を仰いでいた。今週は芽依が多忙のため、一年後輩の氷舞理に全権をゆだねていたのだった。
君藤会長の賞賛に、日塔副会長は謙遜で応じた。
「私よりも五行さんの手際のおかげですよ。おかげさまで予想していたよりかなり早く仕上げることができました」
氷舞理の同学年である五行椿姫は、伝説の生徒会長と謳われた五行姫奏の妹であるが、彼女自身は生徒会に所属していない。それでも機会を見れば、生徒会の仕事や伝言などを手伝ったりしてくれて、彼女がどうして生徒会に入らなかったのか、氷舞理は訝しがずにはいられないのだ。
以前、君藤会長にも口にしたものだが、彼女は微笑しつつも後輩の意見に消極的だった。
「理純さんの件もあるからね。たとえ所属してくれなくても、周りに尽くしてくれているというだけで十分じゃない」
悪しき前例を作ったのではないかと氷舞理は不服だったが、さすがにそれを口に出すのは差し控えていた。
理純智良は、先代会長・御津清歌の影の立役者とも言われている。芽依の言葉通り、生徒会には属していないが、何かにかけて顔を出してくる。受験期であるにも関わらず、自演ラッキースケベでしょっ引かれたという話をよく聞くが、捕まった回数よりも清歌のためになった回数の方が遥かに多いため、芽依も智良に一目置いていたのだ。
まあ、ラッキースケベの奇癖な先輩はともかく、椿姫の有能ぶりは氷舞理もよく知っていた。それだけに彼女を生徒会に引き込めないのが惜しいと感じていたのだ。
生徒会室を出る前に、氷舞理はダメ元でその話題を蒸し返してみた。
「やはり、椿姫さんも生徒会に入れられませんでしょうか。そうすれば『そこまで手伝うならどうして所属しなかったの?』と後ろ指を差されずに済むかもしれませんのに」
「こだわるのね、日塔さん。当の椿姫さんが乗り気でないなら、ここで話し合っても意味がないのはわかるでしょう?」
「ですが、姫奏さまの才能を活かしきれないというのは……。…………ッ」
「ど、どうしたの日塔さん。いきなり」
ふいに黙り込む氷舞理に芽依は戸惑いを隠せない。
敏腕明哲な会長とはいえ顔色をうかがうことしか出来ずにいると、ややあって氷舞理の静かな声が返った。
「……いえ、会長の言うとおりなのかもしれません。才能があっても、道を選ぶのはその人の気持ち次第なのですから」
「……あなたについては触れないほうがいいのね? わかったわ」
会長の配慮に、氷舞理は内心で安堵感に包まれながら一礼して生徒会室を辞したのだった。
◇
廊下を歩く氷舞理の表情は焦りと沈鬱に彩られ、芽依が見たらそれこそ空気を読んで放っておかなかっただろう。
日塔氷舞理が星花女子学園に編入した理由を知るものは一人もいない。この学校で寮生活するにおいて、深刻な事情を話す必要性は今まで一度も感じたことはなかった。それだけ、このお嬢様学校は暖かで、優しかった。
氷舞理の抱えている問題は自分で解決しなければならないものだった。他人に押しつけていいものではないし、共有させたところでどうしようもない。自分で納得できる答えを見出し、決別しなければならないものであるはずだ。
(なんであんな風に思い上がれたんだろう……)
力ない足取りで玄関に向かいながら、氷舞理はうつろげな顔をうつむかせる。
(私が……人の才能にあれこれ口出しできる権利はないのに……)
だって私は、自分の才能を自分の手で殺してしまったのだから。
外に出ると同時に一月の乾ききった冷え込みに迎えられ、少女はさらに息苦しい郷愁感に苛まれた。
ゲストキャラ
星花女子プロジェクト【第二弾】より
理純智良(考案者:斉藤なめたけ)
※代表作品「純情チラリズム(https://ncode.syosetu.com/n7015dw/)」
五行姫奏(考案者:五月雨葉月様)
御津清歌(考案者:楠富つかさ様)
※代表作品「あなたと夢見しこの百合の花(https://www.alphapolis.co.jp/novel/8211366/179108926)」
【第九弾】より
五行椿姫(考案者:五月雨葉月様)
※代表作品「好きになるってどういうこと?(https://ncode.syosetu.com/n8127gf/)」