第1章 第1話 襲来
初めての投稿です。よろしくお願いします。
「戦える者だけ私についてこい、それ以外の者はシェルターへ避難しろ」
学校の教員であり元近衛兵士であった五十嵐は生徒にそう呼び掛けた。
今日は学校の卒業式の日であったが、魔物による襲撃を受けており、教員だけでなく生徒も対応に駆り出されることになったのだ。
魔物による襲撃は過去にもあったのだが、ここまで規模が大きいものは初めてであった。
「五十嵐先生、奥の方に見たことのない魔物がいますが・・・。」
押し寄せる魔物の集団の最奥に3体の巨大な魔物がいた。
「あ、あれは2層の魔物!いままでの襲撃では1層の魔物しか出てこなかったのにどうして・・・。とりあえず戦士科と魔法科の生徒は戦う前に聖術科に補助魔法をかけてもらうように伝えてくれ。」
「わかりました。皆に伝えておきます」
この学校「アストア学園」は1000年ほど前に落下した隕石から出現するようになった魔物に対抗するために設立されており、物理攻撃を主とする戦士科、攻撃魔法を主とする魔法科、治癒・補助魔法を主とする聖術科に分かれている。
「みんな、準備はいいか。奥にいる2層の魔物は俺を含む教員パーティが対応する。お前らはそれ以外の魔物を狙え。ただし、1人では絶対に戦うな。戦士科、魔法科、聖術科の全員を含む3人以上のパーティで対応することを徹底しろ」
「はい!!!」
「行くぞ!」
「おぉー!!!」
五十嵐の声に応じて全員が走り出し、魔物との戦いが始まった。
――――――――――――――――――――――――――――
そんな中、俺はというと校舎の屋上にいた。俺の名前は天地 明日<あまち あす>。今日この学校を卒業する予定の聖術科の3年生だ。少し早く学校についてしまったので屋上で昼寝をしていたのだが、起きたらこんな状況だった。
「魔物の襲撃に生徒まで駆り出されてんの?まぁ五十嵐先生もいるし大丈夫だろ」
今更みんなと合流するのも気が引けたので、言い訳をしつつここで戦況を見守ることにした。
――――――――――――――――――――――――――――
戦況は互角に見えたが、時間が経つにつれて劣勢になっていった。決して実力が劣っているわけではないのだが、回復が追い付いていない。
「状況によっては範囲魔法でも構わない。回復を優先させろ」
同じパーティの中で伝達スキルを持つ教員により生徒たちに情報が拡散される。
魔法には≪対象指定魔法≫と≪範囲魔法≫の2種類がある。対象指定魔法は個人を指定して魔法を使用するため、一度の魔法で単一の対象にしか効果がない。一方、範囲魔法は範囲内に効果を発生させるため一度に複数の対象に効果があるのだが、敵味方の区別なく効果が発生するため、状況によって敵を回復してしまうというような欠点がある。戦場内の込み入った状況では基本的に対象指定魔法を使うのが原則とされている。
「くそ、ジリ貧だな。このままではまずい」
五十嵐たち教員パーティの戦っている2層の魔物についても苦戦を強いられていた。1体はすでに倒したが、残り2体。パーティのみんなも息が切れはじめている。
「ちっ、スキル使ってとりあえずもう1体仕留めるか。」
ごく稀に特殊能力を持って生まれる者がいる。その者たちをアビリティ保有者と呼ぶのだがアストア学園ではアビリティ保有者を選別して生徒にしているため、全員がアビリティ保有者である。五十嵐の持つアビリティ≪サンクチュアリ≫はSSランクに分類される。アビリティ保有者はアビリティに関連する複数のスキルを持っている。
五十嵐が走り出し、魔物に迫る。魔物が攻撃してくる隙を狙い飛び上がり、スキルを発動した。
「スキル≪巨大化≫」
スキルを使用すると持っていた剣が100倍以上に膨れ上がった。その巨大な剣が魔物をめがけて振り下ろされる。
「うおぉおおーーーー!」
「グゥォー!」
魔物はおたけびをあげながら倒れこんだ。
「よし、これで残りはあと1体」
そう思った瞬間、後頭部に痛みを感じ、意識が途絶えた。
――――――――――――――――――――――――――――
「まじかよ。五十嵐先生がやられちまったじゃんか」
屋上から見ていた天地は焦りをあらわにしながらそうつぶやいた。
どう見ても劣勢であり、このままでは敗北は必至であった。
「このままだとまずいな。あれを使うしかないか」
そういって天地は周りを見渡し、人がいないことを確認した。
「できれば使いたくなかったけど、そんなこと言ってられそうにないな」
そういいながら天地は魔法を唱え始めた。その魔法は別に強力なものではない。ただの中級回復魔法である。ただ違うのは、唱えたのが≪全体魔法≫であるということだけ。
「≪全体魔法≫メガヒール」
――――――――――――――――――――――――――――
全体魔法によって戦況は一変した。中級回復魔法のため全回復とはいかないが、”味方だけ”が全員回復したのだ。半ば諦めかけていた教員や生徒たちも戦意を取り戻していた。
回復により意識を取り戻し、3体目の2層の魔物を倒した五十嵐は戦況を見て驚愕した。誰かが俺だけに回復魔法をかけてくれたのだと思っていたがそうではなかった。先ほどまで満身創痍だった教員や生徒たちが全員回復している。範囲魔法かとも思ったが魔物は一体も回復していない。その事実に驚きを隠せなかった。
しばらくして魔物達は撤退を始めた。終わってみれば大勝だった。誰一人死ぬことなく魔物の襲撃を乗り越えたのだ。しかしあの不可解な回復魔法がなんだったのか。誰が唱えたものなのか。それは謎のままであった。