魔法使いじゃないから!『レベル9―これで卒業!?検証セレモニー ―』
これは、七生の災難のお話第九弾!
基、『魔法使いじゃないから!』の九作目です。
このお話だけでも、わかるようにはなっています。
―1―
ど、ど、どしよう!
大変な事になったぁ!! マジやばい!
横をチラッと見ると、大勢の観客がいる。もとい、卒業式に参加した方々だ!
もうミーラさんが、二人になったら全く勝てないよう!
「じゃ、いくわね」
いくわね。じゃないよ! 安達先輩!
安達先輩の横にいるミーラさんに、杖を渡された彼女は嬉しそうに杖を振るう!
勿論、その杖は、ミーラさんが作ったモンスターが出る杖!
何でこんな事になったかと言うと……僕が持っているこの杖が原因です!
ギュッと僕が握りしめた杖は、すこし立派になっていた!
昨日までは、先がくるんと丸まっている普通の杖だった――。
僕は、審七生。今年高校生になったばかりだ。登校初日の帰り道に、銀色に光る水色の髪に瞳の少女ミーラさんと出会った。
僕はミーラさんが持参した『杖』で、彼女の世界から召喚したモンスター倒しを押し付けられた! その『杖』はよりによってレア物だったらしく、僕にしか使えないものだった!
向こうの世界では、その杖を造れば名が轟く程の逸品らしい。でも地球じゃ使わないものだし、杖なんて持って歩けない! と言ったらミーラさんの師匠のパスカルさんは、ペン型にしてくれた――大きなお世話だ!!
パスカルさんは、その杖をレベルアップさせたいが為に、ミーラさんを送り込んで来た。彼女は、杖野ミラとして、僕の学校に来た! お蔭で僕は、この世界で杖のレベルを上げるために、モンスター狩りをするはめになったのだった!!
そして、とうとうその杖がレベルアップして、形成を変えたのだ!
なのにどうして、試し打ちなんだ~!!
―2―
この学校のマドンナで、生徒会副会長の安達陽乃先輩が、入部宣言をした次の日の放課後、本当に部室にやってきた。
僕が所属している部は、かそう部。そして何故かお飾り部長をさせられている!!
『かそう部』――この部は、趣味全開! 魔女っ子大好きの大場幸映と同じクラスの二色愛音さんがエンジョイする為に作った部だ!
ミーラさんも部員になった。ついでに今日、安達先輩も部員になってしまった!!
「あら、イスが足りないわね」
そう言ったのは、二色さんだった。そう言って、何故か僕を見た。
譲れと言っている。目が言っている!
「どうぞ……」
「え、でも……」
「今、イス貰って来るので……」
僕がそう言うと、「ありがとう」と安達先輩は僕が座っていた席に座った。
はぁ……。
このまま、こっそり帰ってもいいだろうか?
仕方がないので、職員室で倉庫の鍵を借りていると、後ろから声がかかった。
「あぁ、審。ちょうどよかった」
振り返れば、担任の先生と僕を睨み付けている稲葉先輩がいた。
この先輩も、生徒なら誰もが知っている人物だ! 何せ生徒会長様だから!
眼鏡の奥の目が僕を睨んでいる! 原因は、わかってる。安達先輩だろう。――でも入部したのは、僕のせいじゃないから!
「君が、かそう部とかいう、ふざけた部の部長の審さんですか……」
何故かそう言うと、上から下までジロジロと目踏みされた!
「ここでは何だから場所を変えようか?」
「え? あ……僕、ちょっと用事があって……」
「あぁ。倉庫に行くみたいだね。そこでもいいよ」
「………」
逃げられなかった!!
何故、いつも僕はこういう役回りなんだろう……。
ダン!!
倉庫について、ドアを閉めた途端、稲葉先輩に怖い顔つきで壁ドンされたんですけど!
「君、彼女の何なの?」
わぁ、カッコいい人が言うと様になりますね……。
って! あの先輩、何て僕の事言ったの?
「えっと……」
「もしかして、付き合っている?」
「え!? まさか! そんな事あるわけないじゃないですか!」
「だよな。確か君に恋人いたもんね?」
うーん。その噂広まってるの? それとも調べたの!?
「いえ、恋人はいません! 噂の子は、親戚なだけで……」
「ふーん。じゃ、安達さんと君の関係は何? 彼女、君の事、特別な人って言っていたけど!」
何でそんな誤解を受けるような言い方をしているんだ!
きっと、僕が魔法使いだから特別な人って意味なんだろうけどさ!
さて、どう説明しよう。そのまま言っても信じてもらえないよね。
はぁ……。
「僕が魔法使い役なんですよ……」
「はぁ?」
「だから部活の中での役割です。魔法使いって特別な役なんで……」
「………」
睨んだまま僕を凝視ている。
言い訳が、これしか浮かばなかったんだから仕方がないだろう! 後は、言いようがない!
「なんだよ、そ……」
バン!
突然ドアが開いた!
「もういつまでかかっているのよ。体育館に行くわよ!」
ドアを開けてその台詞を言ったのは、二色さんだった。
で、なんで体育館?
「あら、稲葉くん。何しているの? あ、もしかして……」
安達先輩も一緒に来ていた。って、全員一緒だ。
稲葉先輩は、安達先輩に話しかけられてビクッと肩を震わせている。
「体育館に誘ってくれていたの? ちょっと人足りないもんね。それ話したらかそう部の皆も手伝ってくれるって」
「そ、そうなんだ。なあ、審」
「はぁ……」
そう言えば、明日は卒業式だった!
その用意か……。取りあえず、助かったぁ!
僕達は、そのままぞろぞろと体育館に向かったのだった。
―3―
僕が、来客用のイスを並べていると突然、辺りが静かになった。――なんなんだぁ!!
顔を上げると、ミーラさんの横に師匠のパスカルさんに、本物の魔法使いのミントさんがいた。
そして、見知らぬおじさんが二人……。
ミーラさん以外は、向こうの世界の一般的な服装だと思われる、水色のワンピースの様な格好をしている。
で、誰も周りの人たちが騒いでないと言う事は、彼らの姿は見えていないみたい。基本的に、何故か見えないらしい。
「何しに来たんですか? お客さんまで連れて……」
嫌な予感しかしない。
ミーラさんの師匠のパスカルさんも、ミーラさん以上に厄介な人だ。こちらの事情なんてお構いなし!
「実はな。その杖が、技を繰り出せるまでになったと聞いてな。監査官の方々に、杖の査定をして頂こうと思ってお連れした」
今、何とおっしゃいました!?
それってあれだよね? モンスターを必殺技で倒す所を見せるって事だよね!? ――ここでやらせる気かぁ!!
「大丈夫です。色々この世界の事を勉強しました。今、音を遮断する結界を張ってあります! 気兼ねなく出来ます!」
と、ミントさんは、真面目な顔でいいました……。
いや、音だけ遮断してもねぇ。
それって、僕の姿は見えているって事かな?
「あのさ。もうちょっと後でもいいかな? もう少ししたら終わるからさ」
「何を言っておる。わざわざお越し下さったのだ!」
だったら先に連絡よこしてよ!
さて、どうしよう。もうやる気満々な彼らは止められない!
「あぁ、じゃ場所を変えませんか?」
「私が張った結界ではダメでしょうか?」
ミントさんが、ショックを受けた顔つきになった。
あぁもう!
「ねえ、七生くん。何をしているの?」
げ! 安達先輩!
結界ってどこからかわからないけど、普通に僕の横に来たんだけど!
「何かわからない事があるの?」
「いや、えーと」
まずい。また巻き込んでしまう。
「あ、安達先輩だ! 師匠! 彼女が出したモンスターが凄く強かったんです! それで、七生くんが必殺技を編み出したんですよ!」
って、余計な事を言わなくていいから!
「安達先輩! 悪いけど、離れて!」
「え!?」
「そうか。彼女が……では、同じモンスターの方がいいか」
「はーい!」
僕が言った言葉で安達先輩が驚いている間に、何か良からぬ話が進んでいるんですけど!
「ちょっと待って!」
「え? 何?」
「あ、いや。安達先輩じゃなくて!」
「安達先輩!」
「きゃ!」
僕と安達先輩が、漫才の様なやり取りをしていると、杖を持ったミーラさんが安達先輩に声を掛けた。
たぶん今は、安達先輩に見える様になっているんだと思う。
って、何でしがみつくんだぁ!!
「ちょっと何!?」
「誰、なんで?」
「え? まさか、全員見えるの?」
「見える様にした」
僕の質問に、ミントさんが答えた。
余計な事をしないでほしい!! ――もう誤魔化せなくなった!
「お願いがあるんだけど。この杖でこの前のモンスターを出してもらえないかな?」
「スライムですか?」
「うん。それそれ」
「ちょっと待って! ここ……」
「うん。杖用意するまで待ってるね」
待ってるって言ったのは、ミーラさんではなく彼女から杖を受け取った安達先輩だった。とても嬉しそうに、早くしてと目で訴えて来る。
いいのか? ここがぐちゃぐちゃになっても!!
あぁもう、知らないから!
「るすになにする!」
胸ポケットに入れてあった杖を取り出すと、大きさを戻す言葉唱えた!
杖は、元の大きさに戻る。
「スライム召喚!!」
「「おぉ!!」」
監査官達は、安達先輩が召喚した見た目カワイイスライムを見て感動? している。
さてと、ちゃちゃっと終わらせよう!!
「必殺技!」
僕は、スライムに向けて杖を振るった!
「おぉ!!!」
パスカルさんは、歓喜の声を上げた!
スライムは、一発で消滅していた!
必殺技ってすごい!
前回は、普通に攻撃を何度もしてスライムは、水色から赤色に変わった。
ゲームでいうならある程度HPが削れると、狂暴化する状況と同じ現象らしい。本当は、赤くなるのは目なんだけどね!
それで、必殺技を使ったら一回で撃破!
って、目が回る……。
僕はフラついて、倒れた。
ガシ!
と、誰かが僕を抱えてくれた。
「お前、何先輩と遊んでるんだよ!」
支えてくれたのは、大場だった。
やっぱり僕と安達先輩の姿は見えていたんだ!
「もしかして……モンスターを出したの? 二人で!? ずるいわ!」
「あ、あのね……」
「あら? その杖……」
抗議していた二色さんが、杖を指さした。僕は握っていた杖を見て、驚いて起き上がった!
先がくるっと丸まった何の変哲もなかった杖が、とぐろを巻いた様にねじれ、先はコウモリの様な羽の形になっていた!
そして、羽の間には、小さなオレンジっぽい宝石がついていた。――この宝石は、どこから?!
いやいや、そうじゃない!
杖の形が変わった! これで、役目も終わる!
僕は、顔を上げた。そして、居るはずのパスカルさんに話しかけようとするも誰もいない!
「はぁ!? なんで! 居ないの!」
「お前、元気じゃん」
「君達、手伝う気がないなら帰っていいから!」
ムッとした声に振り向いて顔を上げると、睨んで見下ろしている稲葉先輩がいた。
あぁ……言われた通り、帰りたい。
パスカルさんが消えていた事で、だるさが二倍になった!
「もうそんなに怒らないで。大切な作業をしていたのよ」
安達先輩が、稲葉先輩に言うも彼は困り顔だ。
「そうなんです! 大切な検証だったんですよ!」
「あ! ミーラさん! パスカルさんは! 杖見てよ!」
居ないと思っていたミーラさんが現れて、僕は変化した杖を掲げた。
ミーラさんは、パチパチパチと手を叩く。
「そっか。変わったのね!」
「すげー!! 本当にかわったのかよ」
二色さんと大場は、驚きながらもミーラさんと同じく拍手する。――その拍手いらないから!
「師匠からの伝言。明日、その変化を遂げた杖の効果の検証をするそうです!」
「……え? えぇ!!!」
まだするのかよ!
ちょっと待て! 明日って卒業式じゃないかぁ!!
これは、学校これないな。はぁ……。
「そうだわ! その検証、皆さんに見て頂きましょうよ!」
「………」
驚きの言葉を安達先輩が言った!
それ、ミーラさんが言う台詞だよ? それを先輩が言っちゃうんですか!!
「いいわよね? 稲葉生徒会長!」
「こういう時だけ、生徒会長って……。それ、俺だけじゃ決められないし」
「あら、教頭先生だわ!」
二色さんの声に振り向けば、教頭先生が様子を見に来て、僕達を見つけ近づいてきている!
タイミング、良すぎですからぁ!!
そして、安達先輩筆頭に、あーだこーだと教頭先生に言った結果、最後の余興として、ステージの上で披露する事になった。
もう知りません――。はぁ……。
―4―
次の日、粛々と卒業式が進められ、急きょプログラムに組み込まれた、僕達かそう部の催しが披露される事になった!
あぁ、やりたくない!!
ステージ奥には、来客があった。パスカルさんにミントさん。そして、監査官二名。
ステージ上がった安達先輩が、僕を見て頷く。
「じゃ、いくわね」
仕方なしに、僕も頷いた。
「スライム召喚!」
今日もまた、安達先輩の手によってスライムが召喚されました。
観客席? からは、おぉっと言うどよめきが聞こえて来る。
大変な事になる前に、倒しますか。
杖の威力を見る為、普通に攻撃する様に言われていたので、必殺技は使えない。
「消滅せよ!」
ちょっとだけ、格好よく台詞を言って杖をスライムに向けた。
スライムは、プルンと揺れると水色から赤色に変化した!
うん。威力は上がっている!
また、どよめきが起こった。
「消滅せよ!」
もう一度杖を振るうとスライムは消滅した!
かなり威力は上がっている!
これで十分でしょう!
で、この杖、発動する時に宝石が一瞬光るらしい。何となくリアリティーも上がった!
スライムが消えた事で、拍手が起こった。
パスカルさん達も拍手している!
あぁ、これでお役目御免だ!
お辞儀をして、ステージを降りた。
「すげー。手品部だったんだ」
そういう言葉が飛び交っている。
いや、手品じゃないんだけどね。
その後、無事卒業式は終了した。
僕は、パスカルさん達が何かしてきたらどうしようかと、緊張からぐったりだ。
無事、検証も終わったし、これでモンスター退治から解放される!
僕は、『これで僕も卒業させて下さい』と、伝えてあった。しかも、ちゃんと朝直接、パスカルさんに伝えたんだ!
うむっと、確かに頷いていた!
―エピローグ―
「話が違う!!」
僕の大きな声が、部室中に響き渡った!
隣の職員室から先生が飛んでこようが関係ない!
僕は、今、絶望に叩き落とされたのだ!
「僕をモンスター退治から卒業させてくれるんじゃなかったの! うんって言ったよね?」
「おめでとう! 見習い卒業だ! 伝説の杖になった使い手として、胸を張って魔法使いとして活躍してほしい!」
「おめでとう! 七生くん!」
おめでとうじゃない!
ミーラさんが、おめでとうと拍手すると、大場達も僕に拍手を贈った! ――拍手なんかいらないから!
「僕は、魔法使いじゃないから! この杖の形が変わるまでって約束だったよね!? 変わったよね!」
「そうだ! これからなのだ! 本当にこの杖は素晴らしい杖だと評価された! いいか? これは、もっともっと変化する! 至高の杖なのだ!」
「君、見習いの魔法使いだったの? 卒業試験合格おめでとう!」
「だぁ!! 何が卒業試験だ! ……って、なんでいるの?」
よく見れば、稲葉先輩だよ!
この人まで巻き込んじゃだめだろう!!
「ひどいなぁ。打ち上げ行くって言うから一緒にってなっただろう?」
いや、知らないけど、そんな話!
また僕が知らない所で、勝手に決めている!
「では、また。楽しみにしている」
「あ、待って!!」
パスカルさんは、フッと消えてしまった!
もう、冗談じゃない!
「消えた……。君より魔法使いっぽいね」
「だから、僕は魔法使いじゃないから!!」
って、稲葉先輩って順応力高いな。普通に接している……。
はぁ。
僕のモンスター退治は、もう少し続くようです――。
卒業の季節ですね~。
卒業を迎えた皆さま、おめでとうございます!
七生くんは、まだまだ卒業できそうもありませんね!
このシリーズも一年経つんですね。早いです^^
シリーズをまだお読みでない方で、興味を持たれた方は是非レベル1からどうぞ☆
今回もお読みいただき、ありがとうございました!