表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話

この度は、この「幸せの形に、愛をこめて」をご覧下さり、誠にありがとうございます。

  「セシール、貴方の幸せはあそこにおられる、婚約者のアナクレト様と永久を誓うことよ…そしたら貴方は本当の愛を、幸せを手に入れられる。

 それが貴方が生まれてきた意味であり、生きる意味よ」










 幸せの形に、愛をこめて











  タッタッタッ……。


「待っ……待って!ルリュー」

「セシール早く、こっちよ!!」


  ヨールリヤ王国とアーベル帝国の国境近くで、2人の少女がルティーユ山に向かって走っていた。先を走るのはヨールリヤ王国では珍しい、白銀の髪を靡かるルリューと言う美しい少女。ルリューを追いかけるのは、セシールと呼ばれた、プラチナブロンドの髪をもつ少女だ。


「どこまで行くの!?」

「いいから、いいから」


  答えになっていない曖昧な回答をするルリューは、国境添えの深い森の中へと、セシールの手を取り、引っ張っていく。どこから来ているのかわからない自信をもつルリューに、セシールは空いた方の手で自分の額に手を伸ばした。


「まぁまぁ、奥様諦めも肝心よ」

「ルリューの事なら、とっくに諦めてるよ」

「酷い!こんなに楽しい遠征なのに」

「半場無理やり、連れてこられたんですけど」

「気にしなさんな、気にしなさんな!」


  セシールの背中の方に回り込み、その小さな両肩に手を置くルリューは、強く背中を押して、前方に向かわせるように急かす。

  諦めてるセシールは、黙って反抗せずに進めば、木々で埋め尽くされた視界が開け、そこにある美しい光景に目を奪われた。


「わぁ!!」

「ね?凄いでしょ?」

「なんかムカつく」

「酷い!!」

 

  そこは青と薄緑のグラデーションのかかったような、透明度の高い湖があった。その場にある木や草、水の音までも、その湖の美しさを引き立てるような感覚さえする。


「たまには、こういうのも良いでしょ?」

「センスだけは、ルリューに負けるわ」

「えー」

「でも、本当に凄い…よくこんな所、みつけたね」

「……うん」


  湖の近くに腰を下ろし、2人はじっとその美しい水面を眺めていた。嫌に長い沈黙が、流れ始めるとルリューがセシールに「ねぇ」と言葉を零した。


「こうして2人で自由に…気ままにお屋敷を抜け出すことは、もう無理なのかな……」


  水面を反射している、ルリューの美しい瞳は迷いと、戸惑い、悲しみ、苦しみに揺れていた。セシールは困ったように眉をひそめ、顔を伏せ始めるルリューの近くに座り直す。

  そんなセシールの肩に頭を乗せるルリューは、キュッと着ているアンティークドレスを皺になるほど、強く握りしめた。


「そうだね、だってルリューは王妃候補として、王宮に行くんでしょ?」

「…うん」

「……何が不安なの?」


  ルリューの揺れる瞳に、セシールの姿が写り出す。しかしそれは直ぐに、瞳の中のセシールの姿は揺らめき、崩れ、無くなった。


「セシールは覚えてる?お母様たちの言葉」

「『婚約者様と永久を誓えば、必ず幸せになれる、それが貴方達の生きる意味であり、生まれてきた理由』てやつ?」

「……セシールは信じてる?」


  あまりにも真っ直ぐな、ルリューの瞳がセシールの瞳をじっと見つめている。セシールは、ソワソワとした目付きになり、口ごもる。


「それは……」

「なーんて、嘘」

「え?」


 ルリューはその顔に笑顔を浮かべ、立ち上がり、アンティークドレスをひる返して両手を後ろに隠す。


「この国の王子の妃になれるかもしれないから、嬉しくないわけがないよ!……たとえそれが愛人としてだろうが……ね?」

「ルリュー……」

「ほら、もう日は暮れるよ、帰ろ?」


  綺麗なまでに整ったルリューの美しさは、国の中で一番だった。だからこそ、下級貴族でありながら王妃候補へと選ばれた。もしも彼女が自由に生きられたのなら……きっともっと美しくなれたのだろう。


  どこか引き攣るような、重そうな顔つきでいるルリューに、セシールはいつもを装うように、冷静に心を落ち着かせる。そうして差し伸べられた手を、セシールは戸惑いながらも掴んだ。


  その日は何もかもが違かった、普段は屋敷から出してくれないのに、軽く親達は出してくれた。やけにルリューは話したがっていた。いつもは「またね」と言ってくれるのに……ほら……


「セシール、さよなら」


  ルリューがこちらに向かって手を振ってくる、そして迎えの馬車に乗り込み、その馬車が消えるまで私は手を振り続けた。


「さよなら、ルリュー」


  セシールは自分の両手をじっと見下ろし、口角を下げて、笑顔のない表情を作った。まだセシールには強く根強いている、あの純粋なルリューの疑問。


『セシールは信じてる?』


  信じてると伝えれなかった、まるで心の中にある何かが拒んでいるように、苦しくって何も言えなかったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ