第1話
この度は、この「幸せの形に、愛をこめて」をご覧下さり、誠にありがとうございます。
「セシール、貴方の幸せはあそこにおられる、婚約者のアナクレト様と永久を誓うことよ…そしたら貴方は本当の愛を、幸せを手に入れられる。
それが貴方が生まれてきた意味であり、生きる意味よ」
幸せの形に、愛をこめて
タッタッタッ……。
「待っ……待って!ルリュー」
「セシール早く、こっちよ!!」
ヨールリヤ王国とアーベル帝国の国境近くで、2人の少女がルティーユ山に向かって走っていた。先を走るのはヨールリヤ王国では珍しい、白銀の髪を靡かるルリューと言う美しい少女。ルリューを追いかけるのは、セシールと呼ばれた、プラチナブロンドの髪をもつ少女だ。
「どこまで行くの!?」
「いいから、いいから」
答えになっていない曖昧な回答をするルリューは、国境添えの深い森の中へと、セシールの手を取り、引っ張っていく。どこから来ているのかわからない自信をもつルリューに、セシールは空いた方の手で自分の額に手を伸ばした。
「まぁまぁ、奥様諦めも肝心よ」
「ルリューの事なら、とっくに諦めてるよ」
「酷い!こんなに楽しい遠征なのに」
「半場無理やり、連れてこられたんですけど」
「気にしなさんな、気にしなさんな!」
セシールの背中の方に回り込み、その小さな両肩に手を置くルリューは、強く背中を押して、前方に向かわせるように急かす。
諦めてるセシールは、黙って反抗せずに進めば、木々で埋め尽くされた視界が開け、そこにある美しい光景に目を奪われた。
「わぁ!!」
「ね?凄いでしょ?」
「なんかムカつく」
「酷い!!」
そこは青と薄緑のグラデーションのかかったような、透明度の高い湖があった。その場にある木や草、水の音までも、その湖の美しさを引き立てるような感覚さえする。
「たまには、こういうのも良いでしょ?」
「センスだけは、ルリューに負けるわ」
「えー」
「でも、本当に凄い…よくこんな所、みつけたね」
「……うん」
湖の近くに腰を下ろし、2人はじっとその美しい水面を眺めていた。嫌に長い沈黙が、流れ始めるとルリューがセシールに「ねぇ」と言葉を零した。
「こうして2人で自由に…気ままにお屋敷を抜け出すことは、もう無理なのかな……」
水面を反射している、ルリューの美しい瞳は迷いと、戸惑い、悲しみ、苦しみに揺れていた。セシールは困ったように眉をひそめ、顔を伏せ始めるルリューの近くに座り直す。
そんなセシールの肩に頭を乗せるルリューは、キュッと着ているアンティークドレスを皺になるほど、強く握りしめた。
「そうだね、だってルリューは王妃候補として、王宮に行くんでしょ?」
「…うん」
「……何が不安なの?」
ルリューの揺れる瞳に、セシールの姿が写り出す。しかしそれは直ぐに、瞳の中のセシールの姿は揺らめき、崩れ、無くなった。
「セシールは覚えてる?お母様たちの言葉」
「『婚約者様と永久を誓えば、必ず幸せになれる、それが貴方達の生きる意味であり、生まれてきた理由』てやつ?」
「……セシールは信じてる?」
あまりにも真っ直ぐな、ルリューの瞳がセシールの瞳をじっと見つめている。セシールは、ソワソワとした目付きになり、口ごもる。
「それは……」
「なーんて、嘘」
「え?」
ルリューはその顔に笑顔を浮かべ、立ち上がり、アンティークドレスをひる返して両手を後ろに隠す。
「この国の王子の妃になれるかもしれないから、嬉しくないわけがないよ!……たとえそれが愛人としてだろうが……ね?」
「ルリュー……」
「ほら、もう日は暮れるよ、帰ろ?」
綺麗なまでに整ったルリューの美しさは、国の中で一番だった。だからこそ、下級貴族でありながら王妃候補へと選ばれた。もしも彼女が自由に生きられたのなら……きっともっと美しくなれたのだろう。
どこか引き攣るような、重そうな顔つきでいるルリューに、セシールはいつもを装うように、冷静に心を落ち着かせる。そうして差し伸べられた手を、セシールは戸惑いながらも掴んだ。
その日は何もかもが違かった、普段は屋敷から出してくれないのに、軽く親達は出してくれた。やけにルリューは話したがっていた。いつもは「またね」と言ってくれるのに……ほら……
「セシール、さよなら」
ルリューがこちらに向かって手を振ってくる、そして迎えの馬車に乗り込み、その馬車が消えるまで私は手を振り続けた。
「さよなら、ルリュー」
セシールは自分の両手をじっと見下ろし、口角を下げて、笑顔のない表情を作った。まだセシールには強く根強いている、あの純粋なルリューの疑問。
『セシールは信じてる?』
信じてると伝えれなかった、まるで心の中にある何かが拒んでいるように、苦しくって何も言えなかったのであった。