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初めての人

 それから僕は、次々と神を生み、世界を構築した。

 書けば書くだけ反応があるのはとても楽しい。


『カリナネメスナは子を産んだ時に焼かれた下半身は、どろどろと溶け、大いなる力と溶け合わさって、大地となった。大地が生まれると、ガリオーンのいる場所が天空となった』


『ガリアスタラナがガリオーンを天に掲げたとき、炎に左腕を焼かれた。炎を消さんと、焼けた左腕に息を吹きかけると、灰は数多の星となり、たくさんの小さな女神が生まれた。ガリアスタラナはそれらをメルラトポスと名付けた』


『大地が隆起し山が出来ると、そこから一柱の逞しい神が生まれた。カリナネメスナはガフラムと名付けた』


『大地から一つの大木が生まれ、そこから見目麗しい女神が生まれた。ガリアスタラナはドンダールと名付けた』


『こうして、二人の間に太陽神が生まれ、ガリアスタラナの身体から二柱、カリナネメスナの身体から二柱の神が生まれることになった』


『ガリオーンの炎は、やがて自分を焼いてしまうほどに強かった。日に日に弱まるガリオーンの身体を抱くために、ガリアスタラナとカリナネメスナは自らの毛を編み、決して燃える事のない布を織った』


『ガリオーンは母の腕の中で燃え尽き、やがて一握りの灰になると、父の吐息を受けて灰から再び生まれ出た。ガリオーンが生まれ、死に、また生まれるまでを一年とした』


『ドラグリアが吐いた水は、やがて海となった。ドラグリアはとても厳しい神で、後から生まれた神々を見守った。彼の在り様から、秩序が生まれた』


『メルラトポスが空で遊ぶと、風が生まれた。メルラトポスは自由を尊び、歌を愛し、詩に涙した。彼女の有様から、文化が生まれた』


『ガフラムが原初の大地を歩くと、どろどろとした大地が固く踏みしめられ、今の大地が生まれた。ガフラムは自らを鍛え、創造することを喜んだ。彼の在り様から、情熱が生まれた』


『ドンダールが生まれた大木から花が咲き、果実が実り、種が大地に落ちると、世界は緑に包まれた。ドンダールは慈悲深く、優しかった。彼女の在り様から、愛が生まれた』


僕は、目の前に広がる光景を見て、とても満ち足りていた。

どこまで吹き抜けるような青い空に輝く太陽、見渡すばかりの広大な大地に吹く風、そして咲き誇る美しい花々。


理想郷に近づいたと言える。


 しかし、大事な要素が抜けている。

 すなわち生命の存在。


 いや、植物も生命なのだけれど、意思あるものと無いものとではやはり思い入れが違う。

 植物にも意思がある! という主張もあるだろうが、まあそれは置いておこう。


 とかく、やはり元々人間だった身としては、人間という要素は欲しい。


 とはいえ、ここで一つ悩みがある。

 一言で人間と言えば、元の世界では一つのことを指す。


 が、僕もおとぎ話に目を輝かせていた一人としてはやはりここは元の世界のままでは終われまい。


 そう――幻想的な人種の存在である。


 数多くの物語で登場する彼らは、様々な解釈で描写され、もはやファンタジーとは切っても切れない存在と言っても……過言ではない、よね?


 どうせ世界を一から作るなら、こういう要素も入れたいと思うのは、年頃の男の子なら仕方ないと思うのだ。


 問題は、それをどうやって表現するか。


 うーん……うーーーん……


 …………


 ひ、ひとまず、他の生命からつくっていこうかな! そうしよ!




『神々は、やがて自らが作り上げた水、風、大地、火の中に、新しい意思を感じた。神々はそれらに精霊と名付けた。』


 ふふふ、やはり精霊は大事だよね。


『名付けられた精霊たちは自由に生きていたが、やがて自らの姿かたちを得たいと願った。まず、水の精霊が剥がれ落ちたドラグリアの鱗の欠片に宿り、生命の源となった』


 ん、まあ、生命の誕生としてはこんな所か。


『ドラグリアは精霊の宿ったものに名を与えた。するとたちまち、一匹の鱗を持つものが生まれ出た。初めての生命が生まれたことから、ドラグリアは生命を司る神ともなった』


『それを見た他の神々も、精霊の宿ったものに名を与え、生命を生み出していった』


『ガフラムは、自らの身体から出た細かい砂粒に宿った精霊に名を与えた。とても小さな、目に見えない生命が生まれた』


 菌類の祖はガフラム、と。


『ドンダールは、枯れ落ちた葉に宿った精霊に名を与えた。姿かたちが様々な生命が生まれた』


 よし、虫は植物と相性の良いからドンダールだ。


 ちなみに、ドラグリアは魚やなんかの、鱗あるものの祖だ。


 で、あとは動物かな?

 動物はメルラトポス……うーん、あの女神様のイメージではないなぁ。


 んー……よし、もう一柱、作ろう。


『始祖たる父神ガリアスタラナは、自らと同じ姿形の神を生み出そうと、大いなる力を捏ね上げた。しかし、四足の毛深い女神が生まれた。父神はエピランパと名付けた』


 よし、獣の神様はこれでいいかな!


 さぁて、いよいよ次は、人間だ。


『見かねた始祖たる母神カリナネメスナが大いなる力を捏ね上げると、二本の足で立つ神が生まれた。母神はガロクリードと名付けた』


 おお、随分と男前な神様が生まれたぞ!

 人の神様、ということにしよう。

 さぁて、ではいきますか。


『ガロクリードは父神、母神の願いを聞き、ドンダールから固い枝を貰い、ガフラムから良い土を貰い、人の形を造り上げた』


 枝が骨、土が肉、のつもり。


『ドラグリアの海から水を貰い、メルラトポスから息吹を貰い、人の形をしたものに与えた』


 水が血、息吹が呼吸、のつもり。


『そして、初めての人が生まれた』


 …………


 お。


お、お、おおおー!!


 生まれた! 生まれたぞ!!


 この世界で、初めての人間が!


 きっと体があれば、今頃感動で泣いているのかもしれない。


 これは、この本はすごい。


 本当に世界が作られていくんだ。


 ああ、自分で考えた世界が創り上げられていくなんて、なんて幸福なんだろう。


 ああ、そうだ、名を付けよう。この初めての人間に、名前をつけてやらなきゃ。


 アダム、イヴ……うーん、ありきたりだなぁ。


 ……せっかくだ、最初の人間なのだから、僕にちなんだ名前を付けてやろう。昔生きていたころの、僕のあだ名。


『初めての人間は、神々によってトリッシュと名付けられた』


 これでよ……し……あれ?

 なんだ? 急に、いし、き……あ、これ、やばいやつ……うぐ――


感想とかお待ちしております。

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