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神様がやってきた

 どうせ書くなら、今までの作品をそのまま書いては面白くない。

 やるなら、新しい物語だ。

 まあ、どこかで見た様なものにはなってしまうけど、そこは仕方ない。僕、想像はするけど、創造する力は乏しいんだもん。


 さて、世界を創るには、まず始まりからかな。


 創世、いや、創造神話か。

 多くの宗教において神話に語られる、世界の始まり。

 人類、星、生命、そして宇宙の起源は何かと、多くの人々が考え出した物語。


 あるものは、創造主が天と地を作り出したというもの。

 あるものは、ひとつの卵から世界が生まれたというもの。

 あるものは、原初の海の海底に沈む泥から作られたというもの。

 あるものは、神や巨人の死体から作られたというもの。

 あるものは、最初は混沌であったものが、徐々に天と地に分かれたというもの。


 同じ世界で生まれた神話なのに、その考えは実に多岐にわたる。

 いろいろな神話を読むたびに、なんと面白い発想かと興奮したもんだ。


 では、僕の場合はどうしようか。


 やはり、神様が世界を創った方がしっくりくるなぁ、僕的には。

 神様、創造主、うーん。


 世界を創るのは僕だけれど、僕自身が神様になるのは嫌だなぁ。

 だって、それこそ本当に黒歴史だ。

 新世界の神になる、だなんて、なかなか言える事じゃあない。


 よし、だからまずは神様をつくってしまおう!


 僕が前世で住んで居たところの神話は、天地の始まりのところにどこからか神様がやってくる、という感じだった……はず。あれ、急に生まれるんだったか。

 まあいい、どこからかやってきたことにしようかな。


 世界の始まる場所は、まあこの何もない空間にだろう。

 いや……違うな。ここ、何もないように思うけれど、混沌というか、何か不思議な力があるように思う。

 何だろう、これ。

 おそろしい様な、あたたかい様な、不思議な感覚だ。


 きっとこれが、世界の“もと”なのだ。

 ビッグバンの前の虚無のような、かたちを成す前の泥のような、そういう目に見えない何かがここにはある。


 よし、いいぞ、神話の始まりだ。

 ペンが思い通りに動くように念じて、っと。


『はじめに、大いなる力があった』


 うん、書き終わったと同時に、感じていた不思議な感覚が、より鮮明になった。“大いなる力”として明確にしたからだろうな。


『そして、大いなる力しかなかった。人もおらず、獣もおらず、木もなく、大地もなく、海もなく、天もなかった。光もなく、闇もなく、時もなく、神もいない』


 よし、最初の設定はこんなところだ。

 では、いよいよ、神の創造だ。うわぁ、むずがゆい。


『いずこからか、二柱の神がここへ降り立った』


 よし、こんなもん……かな。

 僕は多神教の方がしっくりくるし、この方が考えていて楽しいしね。


 ん? なんだ? お? おお?


 何もなかった空間が、裂けていく?!

 おおー! これはすごい!

 この本、本当に世界を創り始めているんだな!

 こういうゲームだと思えば、何となく楽しみ方がわかってくる。


 あ、裂け目から手が出てきた。ん、随分と曖昧な輪郭だなぁ。

 体が出てきた。曖昧な輪郭というか、輪郭だけだ。よく漫画である線だけで出来た人型みたいな。

 設定がまだあいまいだからかな。

 それにしても、神が降り立ったって書くだけで、人間と同じ姿形の神様が出てくるなんて、随分とご都合の良いことだ。


 とか考えているうちに、二人目も同じように、無事にここへやってきた。


 さて、では神様に役割を与えよう。


『二柱の神は、始祖たる父神と始祖たる母神として、ここに世界を創ることを決めた』


 途端、曖昧だった輪郭が形を成していく。

 ゆったりとした白いローブを纏う、見目麗しい男神と女神がそこに現れた。


 なんとなく、神様と言えばこんな感じだろうという僕のイメージを忠実に再現した、まさに僕にとっての神様だった。


 ふと本を見ると、僕が書いたはずの文章にはない文字が加えられていた。


『始祖たる父神ガリアスタラナと始祖たる母神カリナネメスナ』


 あれっ、勝手にネーミングされているじゃないか!

 ええー、そこは自動的にされるのかよ。

 なんでだろう。

 ま、まあ、仕方ない。この二柱が創造の神様だ。

 さぁて、お次は。


『ガリアスタラナは初めに自らの髪を引き抜き撚り合わせ槍を作ると、大いなる力にその槍を突き刺し、かき回した。槍によってかき回された大いなる力は、やがてその僅かな一部が丸くなり、二つの宝玉となった。ガリアスタラナとカリナネメスナはその宝玉を飲み込むと、大いなる力を得た』


 おっ、男神の方が自分の神で槍を作り始めたぞ。

 書いたことが実行されるのは確かだな。


 よし、じゃあ次は、光、太陽かな!

 古来より太陽は特別な存在だし、やっぱり僕としても光は欲しい。


 どうしようかな、急に太陽が生まれてもいいけど、うーん。

 太陽神。

 そうだ、太陽神を生もう。


『始祖なる神々は交ぐわい、七日後に一柱の神を生み、ガリオーンと名付けた』


 さっきはかってに名前を付けられちゃったから、今度は先に書いておこう。

 親の名前を少しもじっておけば、まあそれっぽいかな。


 あ、男神と女神が……あっ、ああー、これは……うわっ、すごい……いや、僕の知識が乏しいせいだろうけど、これは……どう見てもそういう映像作品が元に……ふぅ。


 なんとなく、七日後なんていう設定を付けてはみたけど、この空間に時間の概念なんてあるのかな。

 あ、もしかして、この言葉で時間という概念が生まれたのか?

 だとすれば、ちょっと迂闊だったなぁ。もう少し設定を練ればよかった。


 しばらく見ていると、女神のお腹が大きくなっていく。

 七日とは書いたけど、精神だけの状態じゃ体感時間がわからないもんなぁ。

 お、生まれそうかな。女神の顔が苦しそうだ。


 えっ!?

 も、燃えてる!?


 生まれてきた赤ん坊が、燃えている!!?


『ガリオーンは生まれた時より体が炎に包まれていた。その炎はあまりにも熱く、父神と母神をも焼くほどであった』


 また勝手に加筆されている!

そ、そうか、もしかして、表現が曖昧だったりするところは、僕の意識を勝手に読み取って加筆しちゃうのか、これ?!

なんて親切で、不親切な機能なんだよ!


 あ、ああ、燃えている。女神の下半身が、燃えている!

 何とかしなくちゃ! ええと……あ、そうだ!


『ガリアスタラナは大いなる力に触れた槍にドラグリアと名付けると、それは細長い体を持つ神となった。ガリアスタラナはドラグリアに炎を弱めよと命じた。ドラグリアはその巨体をくねらせると、燃え盛る女神の下半身とガリオーンに目掛けて大きな咢から水を吐いた』


 よし、槍が姿を変えて……よしっ、これぞまさしく龍! 龍神の誕生だ!

 いいぞ、女神の方の火は消えた! けど、ガリオーンの方は、駄目だ。

 太陽神だもんな、こんなことで消えることは無いか。


 熱を感じる体は無いけど、ものすごい熱量なのがわかる。このままだとこの神話が終わってしまいかねない。


『ガリアスタラナは仕方なくガリオーンを遠くへと掲げた。ガリオーンは太陽となり、世界に光をもたらした。光は同時に闇をもたらした』


 こ、これでよし。

 ふう、どうなることかと思った。

これは考えているより大変だぞ。僕のイメージと、文字におこした表現とのギャップを埋めようとするのかな、この本は。

そして、僕の想像が曖昧であるほど、今のような事件が起こるんだろう。


これは、心してかからないとな。


このペースだと一瞬で書き溜めが消し飛ぶ…

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