8話 魔王様(女)の四天王は心強いらしいですよ?
今僕がいる場所は、魔王城唯一の食堂だ。時間はお昼時。僕はいい感じにお腹が空いたので昼ごはんを食べにきていた。相変わらず食材の断末魔が響いている。こんな暮らしにもはや慣れてしまっている僕はもう手遅れなのだろうか?
「このご飯も、魔王様達が頑張って日本の材料に近い食材を集めてきてくれたおかげなんだよね……」
今日のお昼はオムライスだ。……見た目はオムライスだ。だけど、材料が根本的に違うのだ。例えば卵。鶏なんてもちろんこの世界にはいない……だからドラゴンの卵を使っているらしい。うん……スケールが違いすぎる……、どこから持ってきたんだこんな物……。
続いてご飯。これは米ではなく豆なのだ。確か名前は魔海の豆だったかな?なんとも紛らわしい名前だ。この豆は、水分を吸収すると、粘りが強くなり甘みが増すのだという。なんとも都合の良い豆なのだろう……。
トマトケチャップも本当は、緑妖樹の森という場所で怪木になっているアカヅツミの実という果物から出来ているらしい。てかなんで魔界ってこんな怖そうな名前の場所しかないの?魔海とか行ったら絶対死ぬやつじゃん……。
「ごちそうさま」
僕は空になった皿をカウンターへと持っていく。そこに持っていけば厨房にいる小さな魔物が片付けてくれるのだ。「今日もありがとう」と言いながら返すと、その魔物は嬉しそうにニカッと笑う顔が可愛らしい。ちなみに見た目はチワワみたいな感じ。
僕は食堂を出て自室に戻ろうとすると、向こうから何かが近づいてくるのが見えた。
「あれって……」
近づいてきたには、僕をこちらの世界に連れてきた張本人のシャドウデビルだった。見た目は真っ黒で、立体感がない。フヨフヨと浮いており、口がなく目だけしかない。
(そういえば、こいつが学校で噂になってた“黒い人影”なのか?)
人影には見えないけどな……なんて考えてると、あることに気づいた。確か噂だと何人かさらわれたらしい……。じゃあその人達は今どこに?
(もしかしたら……!!)
僕は魔王様の所に全力疾走した。それはもうこれ以上ないくらいに。もし……もしこの世界にさらわれた人がいるならこの世界のどこかにいるはずだ。それに僕を呼んだのは魔王様……。もしかしたら魔王様がみんなを?それならどこに?色々な疑問が頭をよぎる。悩んで分からないなら本人に聞くまでだ……!
ーバタンー
「魔王様!!」
「ひ……ひゃい!!」
いきなり呼ばれたからなのか、声が上ずっていた。彼女もそれに気づいたのか顔が赤くなっている。……可愛い。おっと、今はそんな事をしている場合じゃなかった。
「魔王様。聞きたいことがあるのですけど……」
「なっ……なんでござりましょうか!!」
なんか変に緊張しているのか変な言葉遣いになっている。まぁ、急に改まって真剣な顔で聞かれたらそうなるのも無理ないのかな?
「僕以外にこちらの世界に連れてきた人がいたと思うのですが、その人達はどこにいるんでしょうか?」
「…………え?」
「え?」
魔王様は何を言っているのか分からない様子。どういうことだ?
「あの……私がこちらに招いたのは菜糸君だけですよ……?」
「………は?」
それは思いもよらぬ事実だった。
「いやいや!噂から察するに、こっちに来た人は少なくとも数名はいるはずだよ!」
「でも……私は菜糸君しかこちらの世界に連れて来てませんよ……?」
どういう事だ……?魔王様がこちらに呼んだのは僕だけって……、じゃあ他のみんなはどこに……?
「まさか……」
「ん……?」
魔王様の顔が強張っている。もしかして心当たりが……?
「もしかしたら……連れ去られた人は今回の事件の関係者が連れ去ったのかも……」
「……!?」
まじかよ……。でも言われてみればそうだ。この世界でこちらの世界に人を呼べるのは魔王様と関係者だけ……。
「じゃあ連れ去られた人たちは……?」
「………」
魔王様ただ首を振った。それは分からないという意思表示だった。僕は魔王様に守られているからこんなに平和に過ごせているのだ。でももし、連れ去った奴が魔王様みたいな人じゃ無かったら?酷い目にあわされていたら?僕の脳内に先日魔王様が言っていた言葉がよぎる。
『以前魔界召喚でこちらの世界に来てしまった人がいて……その人はすぐに魔物達に……』
もし……僕がそいつに連れ去られていたら……?今連れ去られた人はどうなっている……?……これ以上考えたくない。次々と最悪の事態が思い浮かぶ……。もしかしたらもう……
「大丈夫ですよ」
「えっ……?」
僕の気持ちを察したのか、そんな言葉をかけてくれた。気づけば自分の手は小刻みに震えており、冷や汗で服がぐっしょりと濡れていた。
「恐らく、人々を連れ去ったのは何か目的があるからでしょう……。それなら簡単には殺されないと思いますよ?」
「そう……だよね……」
その言葉にホッと安心する。しかし、酷い目にあわされているかいないかは別問題だ。それに、いずれ殺されるかもしれない……。そう考えると、早く助けてあげたいという気持ちになる。もし自分だったら……と考えてしまう……。
「魔王様……」
「……はい」
僕には連れ去られた人を助けてあげられる事はできない。それは自分がよく分かる。でも……今僕の目の前には、その人達を助けられる人物がいる……。もし……彼女が僕のお願いを受け入れてくれるならば……。
「連れ去られた人達を……助けてあげられないでしょうか……」
僕は腰から上を曲げ、頭を下げた。こんなもんで大勢の人が助かるなら安いものだと思ったからだ。このお願いを魔王様が受け入れてくれたらだが……。
「……分かりました」
「……!!本当ですか!!」
「もちろんです!」
魔王様は優しく微笑んでいる。しかし、すぐに真面目な顔になったかと思ったら、右腕を前に差し出した。何をするんだ?と見ていたら魔王様は息をスゥーと吸い込み……
「魔王幹部四天王 白髪の騎士グンセオ!」
「はっ!お呼びでございますか?魔王様」
グンセオの名前を呼んだかと思うと、一瞬でグンセオが現れ、魔王の目の前で膝をついて、頭を下げている。
「魔王幹部四天王 悪魔の王メイガル!」
「呼んだ?魔王様」
メイガルは宙から突然姿を現し、フワフワと浮いている。その背中からは大きな羽が生えており、以前見た服の裂け目はこれのためかと納得した。
「魔王幹部四天王 吸血鬼の女帝リアス!」
「はぁ〜い魔王様〜。お呼びになって?」
いつの間にか壁に寄り腕を組んでいる女性がいた。妖艶な美貌を持っており、どっちかというと吸血鬼よりもサキュバスみたいだな……なんて呑気な事を考えた。その口元には吸血鬼の名に相応しい尖った牙が見えている。
「魔王四天王 銀狼の長ガムイ!」
「おう!呼んだかい?魔王様」
魔王様の影がヌーっと伸びたかと思うと、その影の中からすっごいマッチョな男が出てきた。手の甲には、とてもごついナックルが付いていた。
「……?この人が銀狼?」
銀狼というからてっきり銀色の毛を持つ狼だと思っていたんだけど……。すると、男がその様子に気づき、ガハハッと笑い始めた。
「俺はないわゆる狼男ってやつだ!月か、球体を見ると銀狼に変貌するって事だ!」
なるほど。この部屋には丸いものが無いから今は狼の姿じゃ無いという事か。一人で納得していると、魔王様が四人に向かって口を開いた。
「今から敵の住処を探し出してもらいます。しかし、人々が捕まっている可能性があるので、もし見つけたら敵の殲滅よりも保護を優先させてください」
「「了解!!」」
返事を合図に四天王の人達は、一斉に散らばった。自分の役目が分かっているようだ。さすがは四天王、魔王様に認められるだけはある。……僕何様だよ。
「これで住処が分かるのも時間の問題でしょう。私の部下はすごいのですから!」
腕を腰にあて、胸を張っている。やめて!二つの果実の自己主張が激しくなっちゃうから!でも……
「ありがとうございます!」
「ふふっ、やっぱり菜糸君は優しいですね。あの頃と何も変わってないです……」
「ん?ごめん、最後の方よく聞こえなかったんだけど?」
「なっ、なんでもないですよ!!」
なぜだろう?顔を真っ赤にしている。でも、これで助けられるかもしれない……!僕は、魔王様と一緒にみんなの報告を待った。