7話 魔王様(女)の伴侶(仮)が何か言うらしいですよ?
大広間にたどり着くと、外からの声が一層大きく聞こえてくる。大広間にある大きな窓から外を見てみると、そこにはあらゆる種族が魔王城前に集まっている。ざっと数えるだけで数万体以上……やばい。
「なんでこんなデモが……!?」
「まさか……魔族の件を知られた……?」
「えっ!?」
そんなバカな……!この事件は魔王様が密かに調べていたはず……。魔王様の部下達も、情報漏洩なんてヘマはしないだろう。だとしたら考えられる可能性は……。
「裏切り者か呼び出された者が情報を流した……?」
「それしか考えられまい……」
まじかよ……。そんな事を話している間も外から罵声が聞こえてくる。
『魔王様は何やってんだ!!』
『たるんでるんじゃねぇのか!?』
『しっかりしろよ!!』
好き勝手言ってくれるな……。こんなの誰も予想できる訳ないし、魔王様も万能ではないのだ。それに、この魔王様は少し抜けているところがある。……僕が帰る方法を考えていなかったりと。だから、こんなに言われる必要は無いんじゃないか?僕は、そんな子供みたいな事を考えてイライラしていた。そんな僕の様子を気づいたのか優しくふっと笑い……
「仕方のない事なのです……。私はこの魔界を治める者……魔界の異変にいち早く気づけなかった私の責任です……」
そんな事……!と言い返しそうになったところをシュリに止められた。
「やめておけ」
「っ……!」
彼女の顔は、とても辛そうで今にも泣き出しそうな顔だった……。恐らく、シュリは知っているのだろう。魔王様の決意の意味を……。本当ならここで大人しくしている方が良いのだろう。だけど僕は……!
「……!?待て!!」
「……!?菜糸君!!」
僕は窓を開きバルコニーへと出る。僕がバルコニーに立つと、罵声が一瞬で止み、全員の視線が僕に注がれる。向けているのは人ではない。魔物の類だ。視線もギラギラとしており、見られるだけで足がすくむ。それでも……。
「さっきからギャーギャーうるさいんだよ!!」
「「!?」」
僕の正直な気持ちをぶつける。魔王様とシュリが目を見開き驚いている。だけど僕は構わず続ける。
「さっきから黙って聞いてると好き勝手言いやがって!魔王様はしっかり問題を解決しようとしているだろ!!それをたるんでるだぁ!?しっかりしろだぁ!?テメェらは何かしたのか!?自分で何もしないで魔王様だけに責任を押し付けてるんじゃねぇ!!そんな事してる暇あったら少しぐらい自分で動いてみろよ!!」
一気に話したせいで息が切れる。今の僕の行為は魔王様にとっては迷惑でしかないだろう。だけど、僕は言いたい事は言う。それに、僕は相手に責任を押し付ける奴が大嫌いだ。僕は奴らをもう一度一瞥すると、大広間へ戻った。そしてすかさず……
「ごめんなさい!!」
「へっ……?」
魔王様に頭を下げる。僕の突然の行動に魔王様は呆けた声を出した。でも、本当に謝らないといけない……。
「勝手な事をしちゃったし、多分僕の行動で面倒な事になるかもしれないから……」
僕のさっきの行動で、奴らの怒りが僕だけじゃなくて魔王様にも向いてしまうかもしれない……。そうなると、今まで築き上げた信頼などが揺らぐ可能性があるからだ。
「ふふっ…。大丈夫ですよ!どちらにしても彼らの疑念などは避けられないですから……。それに……先ほどの菜糸君は……その……」
「ん?」
どうしたのだろう?魔王様の頬がほんのり赤くなっている。魔王様は恥ずかしそうに体をよじらせて、こちらをチラチラと見てくる。そんな風に見られると恥ずかしいのですが……?
「かっ……かっこよかった……です……」
「っ……!」
僕は見えない何かに撃ち抜かれた。それはもうドキューン!と……。やばい……魔王様の顔をまともに見れない……。二人とも顔を赤くして、お互いをチラチラと見ている。視線があれば勢いよく逸らすというのを繰り返している。
「イチャつくのはそこまでにしてくれんかのぉ……?」
「「!?」」
そんな変な空気を切ったのはシュリだった。シュリの顔もほんのり赤くなっている。あれ……?シュリってもしかして初心なの……?なにそれ可愛い。そんな事を考えてると、魔王様がこちらを頬を膨らませて睨んでいる。怖いどころか凄く可愛いです。
「ど……どうしたの?」
「いま……シュリを見つめてませんでしたか……?」
「そっ……そんなことないよ!」
「本当ですか〜……?」
「もちろん!!」
そんな会話を見ていたシュリがふっと微笑む。その表情は優しかった祖母を思い出させるくらい柔らかいものだった。
「シュリが……笑った……?」
「えっ?」
魔王様が信じられないものでも見ているような表情をした。たしかにシュリは表情は固かったけど、初めて僕とあった時は結構表情豊かだったような……。
「シュリが笑うってそんなに珍しいの?」
「シュリは昔両親を目の前で殺されてしまって……その時のショックで上手く笑えなくなってしまったんです……」
「えっ……」
それは、僕にとって衝撃な告白だった。ニュースなどで親が殺されたという話はよく聞く。だけどそれは僕にとってあまり現実味がなかった。だけど、今僕目の前にいる子が……と考えると、 一気に現実味が増す。
「今わしの話はいいじゃろう。それよりも、これからどうするのじゃ?」
彼女はあまり思い出したくないのか話を逸らす。これ以上追求するのは無粋というものだろう。
「そうですね……。とりあえず調査に行っている部下たちを集めます。このデモの鎮静は私達だけでは無理ですからね……」
「その方が良いじゃろう」
二人は今後の予定を立て行動に移す。当然、僕にできる事などあるはずがなく、僕は窓の陰からデモの様子見ている。
『………』
「ん?」
なんか一瞬人間っぽい奴がいたような……?気のせいかな……?なんかモヤモヤした気持ちを抱きながら僕はその場を後にした。