27話 魔王様(女)は不安らしいですよ?
「ん……」
「あ!起きた!」
朦朧とする視界の端に、ひょこっと顔を出すリルムの姿があった。そっと、自分の状況を見ると、ベットの上で寝ていた。ここは……救護室だろうか?以前、ここにリルムを運んだ時に見た光景と同じだったから、すぐに分かった。
「菜糸様……大丈夫?」
「うん……、僕はなんでここに?」
「リルムが発見したんだ。魔王様の部屋の扉が少し空いていて、隙間から覗いたら菜糸様が倒れていたんだ。それで、グンセオを呼んでここまで運んでもらったんだよ」
「そうだったんだ……」
あの時、誰とも知らぬ声が脳内に聞こえたと思ったら、そこからの記憶が一切ない。でも、確かに覚えているのは……『俺は、お前だ』ーーその言葉が耳の奥で響いている。
(どういう事だよ……)
僕は、あの声の主なんて知らない。そもそも、あれは僕自身ではない。それは、自分がよく分かっている。でも、何故か赤の他人とも思えない……そんな複雑な感覚に僕は惑わされる。
「……何か考え事?」
先程から黙っている僕をみて、リルムがそんな事を聞いてきた。不安そうな瞳でこちらを見つめていた。そんなリルムに心配をかけたくなかったから、「大丈夫だよ」とリルムの頭を撫でる。リルムは、気持ちよさそうに目を細め、うっとりしている。……なんか猫みたいでほっこりする。
「……どうしてあそこにいたんだ?」
「……!いたのかグンセオ」
しかし、突然後ろから声をかけられ振り向くと、壁にもたれかかり、腕を組んでいるグンセオがいた。その顔は、僕を心配している顔ではなく、怪しんでいる顔だった。僕は、初めて向けられたその視線を感じながらも、事情を説明した。
「“なんとなく”か……。魔王様の部屋は、そう簡単に入っていい場所ではない。それを肝に命じておけ。もし、次入ったらぶった斬ってやるからな」
グンセオはそれだけ言って、静かに部屋を後にした。僕達は、その様子を見て、グンセオがいなくなった瞬間はぁ……と肩の力が抜けた。
「なんかグンセオ、魔王様が拐われてからピリピリしてるんだよね……」
「グンセオは、魔王様の事大好きだもんね」
「ふふっ、そうだね」
僕とリルムは、そんな他愛もない話をする。多分、僕に気を使ってくれてるのだと思う。リルムによると、四天王の皆さんは、ここで僕を責めても意味ないと思っているらしい。でも、僕からしたら、責められた方が幾分マシだったかもしれない……。
「……もう少し休んでいたら?」
「いや、もう大丈夫だよ」
起き上がろうとした僕に、リルムは心配そうな顔で僕を見ている。でも、体のどこかに不調があるわけでもないし、じっとこうしているのも耐えられないだろうし。自分が何もできないのは知っている……。それは、ロズイルとの戦いで、嫌という実感させられた。
「でも、うじうじもしてられない……」
嘆く事なら誰にでもできる。でも、そこから変われるかはその人次第……何かの本でそんな言葉を聞いた気がする。僕も同意だ。僕は弱い……でも、魔王様を助けたいって気持ちは、誰にも負けるつもりはない。
「…………」
そんな僕の様子を、リルムは静かに見守っていた。それは、まるで愛しい人を見るような……そんな優しい目で。
◇ ◇ ◇
ガシャンガシャン!!
「くっ……!」
私はロズイルに連れられ、ロズイルの屋敷にいる。屋敷に入るなり、私に鉄の手錠と首輪をつけ、ベットに繋げられている。片手両足は自由だが、右手とベットに繋がれた手錠のせいで、身動きが取れない。
「魔力が出ない……!」
連れてこられた時の手錠ではなかったから、魔力が発動できると思ったが、どうやらこの首輪が魔力キャンセルの効果があるらしい。くっ……この首輪さえなければ……!
「おやおや、魔王様とあろう人が、往生際が悪いですね」
すると、扉の向こうから、余裕の笑みを浮かべているロズイルがこちらに歩み寄って来た。私がロズイルを睨みつけると、ロズイルは肩を竦めた。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。私はあなたに何もしませんから」
「……そんなの、誰が信じると思うの?」
ここに来るまでの一件を見て、ロズイルの事を信じることなんて出来るはずがない。菜糸君に酷いことをしたアイツを信じるなんて……!
「本当ですよ。だってーー」
ロズイルは一呼吸おき、私の体を舐め回すように見た。私は、その行為に寒気と鳥肌が立った。そして、嫌悪感を感じ、顔を顰める。ロズイルが私に近づき、私の顎をクイっと上げて、
「私の物になるまでの期間を楽しみたいのですから」
「離して……!」
咄嗟にロズイルの手を弾き、ベットの隅に避難した。今の私にできる防衛策はこれぐらいしかない。
「結婚式は一週間後。楽しみにしていてくださいね」
ロズイルはそれだけ言い残し、去って行った。一人になり、ようやく肩の力を抜く。正直に言えば、今はすごく不安だ。普段、当たり前のように使っている魔力が出せないのだから。その不安な気持ちは次第に膨れ上がっていく。
「……菜糸君……」
その不安さを落ち着かせるために、愛しい人の名前をポツリと呟いた。
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