24話 魔王様(女)が決断するそうですよ?
「おいおい……どういう事だよ……」
僕は思わずそんな事を呟いた。だって、煙がリルムを包み込んだと思ったら、そこにいたのはーー
「何でグンセオがいるんだよ……」
煙から出てきたのはグンセオだったのだから。僕は今の状況が飲み込めず、ただただ困惑した。グンセオは、僕のそんな様子を見て、声をひそめて僕に言った。
「私だよ、リルムだよ」
「えっ……?」
その言葉の意味を理解するのに、少しの時間がかかった。グンセオがリルム……?言葉の意味は分かる。でも、言っている意味は分からない。頑張って理解しようとしている間にもリルムが言葉を続ける。
「ここはリルムの話に合わせて。今は分が悪い」
まだ状況は理解できていないが、ここはリルムに従ったほうがいいと思い、小さく頷く。すると、リルムはロズイルの方に向き直り、こう叫んだ。
「ロズイル!ここを引け!今なら見逃してやる!」
ハッタリ。恐らく今は戦うべきではないとリルムは思っているらしい。僕だってそう思う。僕ではロズイルに傷一つ付けることが出来なかったのだから。僕とリルムでは戦力不足、リルムはそう考えているらしい。先程、話を合わせてと言ったのは、ロズイルを見逃すという行為を、すぐ僕が受け入れるか分からなかったからだろう。
「何故君が現れたか分かりませんが、この私に剣を向けることができるのですか?」
「ぐっ……!」
ロズイルに剣を向けるということは、ロズイルの家系に敵意を向けたという事と同義だ。ロズイル自身もそれを分かっているからこその余裕なのだろう。
「何も……出来ないのかよ……!」
悔しさのあまり、下唇を噛む。僕には……何も出来ない……。ここでもし、ロズイルに剣を向ければ、魔王様や、皆に迷惑をかけてしまう。分かっている……分かっているんだけど……!
「さて、ご挨拶もしましたし、これから魔王様のところにでも……」
「待て!」
「ん?」
僕は大声で叫ぶ。ここで行かせてしまったら、魔王様は連れて行かれる。僕は、それを我慢できるほど大人じゃない。僕の脳内に、魔王様がロズイルと結婚する光景が横切る。その瞬間、胸の奥に靄がかかる。絶対、コイツに魔王様を渡したくないと訴えている。
「ここは行かせない!」
僕は、朝の稽古の時に使っていた木刀をロズイルに向ける。
「ほほぅ?私に剣を向けますか……。ならその命、貰っても仕方のない事ですよね!」
「っ……!?」
その瞬間、ロズイルが僕の目の前に現れた。右手を前に突き出し、指を伸ばし爪を尖らせた。くっ……!避けきれない……!
「何をしているのですか?」
「「!?」」
ロズイルの攻撃は、僕の顔の目の前で止まった。僕達は、声のする方へ目を向けるとそこにはーー
「魔王様……?なんでここに……?」
凛とした佇まいでこちらに歩いてくる魔王様がいた。魔王様の周りで、小さくバチバチ言っているのは魔力だろうか?魔王様の目が紅く光っており、この目は以前に見たことがある。魔王様が本気出す時だ。
「あなたは、菜糸君に何をしようとしたんですか?」
静かに問いかける。しかし、その声音はどこまでも冷たく淡々としていた。しかし、ロズイルは魔王様を見た瞬間、笑顔になった。
「これはこれは魔王様!貴女をお迎えに「そんな事は聞いていません」
ロズイルの言葉を遮り質問する。ロズイルは笑顔のまま表情を変えないが、目は笑っていなかった。
「この方が、私に剣を向けたので対処しようとしたまでですよ」
「私には、貴方が菜糸君を本気で殺そうと思ったように見えましたけどね」
「それは魔王様の見間違いでは?」
「…………」
それは強者同士の威嚇。どちらも一歩も動かないで、ただただ睨み合っていた。僕とリルムは完全にこの空気に呑まれていた。少しの間の静寂。ほんの数秒でも何時間もの長さを感じた。そんな肌をピリピリと刺激している空気で、最初に口を開いたのが、ロズイルだった。
「さて、お喋りはここまでにしましょう。さぁ、魔王様。私と一緒に我が城へ」
そう言い、胸に片手をあて、もう片方の手を魔王様に差し出した。
「遠慮します」
「ほぅ?」
その言葉を聞いた瞬間、先程まで変わらなかったロズイルの表情が少し歪んだ。片眉をあげ、すこしイラついた様子だった。
「理由を聞きましょうか」
「貴方と結婚する気はないという事です」
確たる意思でそう告げた。その言葉を聞いた瞬間、僕の胸の中にあった靄が一気に失くなった。
「貴方の行動を見たとき、この人と婚約するのは遠慮したいと思っただけです」
「それは、私の一家を侮辱する……という事でよろしいのですか?」
もはやロズイルの顔に、笑顔はなかった。魔王様はそんなロズイルに気にした様子もなく、ロズイルを静かに睨みつけている。
「そうですか……ならーー」
パチンッ
「っ……!?何……これ!?」
「魔王様……!?」
ロズイルが指を鳴らしたと同時に、魔王様の手首に手錠が現れた。その手錠は手首だけではなく、足首にまで現れ、魔王様は身動きが取れなくなってしまった。
「魔王様がその気なら、私は無理矢理にでも魔王様を連れて行きます」
その時のロズイルの顔は、とても嫌らしい笑みだった。
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