21話 魔王様(女)が結婚してしまうらしいですよ?
「あ〜……酷い目にあった……」
女の子の袖掴みから逃がれ、無責任な女性に制裁を加えた後、僕は自室に戻った。女の子からは、自分の袖を破いただけだ。てか、最初からやっとけばよかった……。
ギュルルルルーー
ほっと息をついた瞬間お腹が鳴った。そういえば朝から何もない……。時間的には、もはやお昼だろう。僕は今日のお昼の献立のメニューを想像し、空っぽのお腹をさすりながら食堂に向かった。
◇ ◇ ◇
自室から出てしばらく歩くと曲がり角から、30歳くらいのジェントルマン風の男性が現れた。マジシャンみたいな格好だったから、変質者かと思い咄嗟に携帯を取り出し、警察に電話しそうになった。まぁ、繋がるわけないですが。
「うむ?おやおやこれは……」
その男は僕を見るなり、興味深そうに体全体を撫で回すように眺めた。何この人?めっちゃ気持ち悪いんだけど……。初対面のはずなのに何故か自然に嫌悪感が滲みでた。何だ?この感覚。
「……なんですか?」
我慢できなくなり、男を睨みつけた。それを見た男はさほど気にしてないかのようにふっと笑った。何故かイライラする。僕って、こんなに怒りっぽかったっけ?
「これは失礼。私はロズイルと申します。以後、お見知りおきを……」
そう言って頭を下げた。 お辞儀からしていい教育をされている事がわかる。何処かの貴族か何かか? 魔界では貴族を何というか分からないけど。
「騎俣 菜糸です」
とりあえず僕も自己紹介をする。でも、あまりよろしくしたくない……。
「さて、私はそろそろ行きますか……」
そう言い、僕の横を通る。はぁ、とため息をついて再び歩こうとした瞬間ーー
「きっと、すぐに会えるでしょう」
「……っ」
通り過ぎる時、ロズイルはそう言い残した。その言葉に何か嫌な予感がした。ロズイルとあった時からずっとこれだ。なんか、嫌な予感がする……。
(気のせいならいいんだけど……)
拭いきれない不安感を無理矢理振り払い、食堂に向かった。
◇ ◇ ◇
食堂に着き、扉を開くと香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。この匂いに反応したのか、またもやお腹がギュルルルルと鳴った。朝の稽古もあって良い感じにお腹が空いていた。
「さて、今日のご飯は……って、グンセオ、何やってんの?」
メニューを確認するためにカウンターに近寄ると、そこには片手にお酒を持ったグンセオが絶望オーラ丸出しで、うつ伏せの状態で泣いていた。
「あぁん……?」
僕の声に気づき、グンセオがゆっくりと顔を上げた。でも、その顔は悪霊と化した亡霊のような顔をしていた。目は泣いたからなのか充血しており、顔面蒼白。見るに堪えない顔だった。
「まっ、魔王さっ……さまっ……がっ……」
話している間にも、涙がポロポロと溢れ出してきている。話し内容を思い出して泣いているらしい。そんな辛い事があったのか?あのグンセオがこんなしおらしくなるなんて、どんな事がーー
「魔王様がっ……けっ……結婚すっ……するって……」
「………………は?」
一瞬、グンセオの言いている事が分からず、脳内がグンセオも言葉を処理しきれていない。は……?魔王様が……結婚?何言っているんだこの残イケ。
「じっ……冗談だろっ……?何で魔王様が……?」
自惚れではないが、魔王様は僕のことを好きと言ってくれた。なのに、結婚……?僕には何も知らせがないから、僕ではない。じゃあ、だれと……?そこでふと、先程の男が頭の中を横切った。
「まさか……ロズイルとか言うやつか……?」
「何でお前があのクソ野郎の名前を知っているんだ?」
やっぱりか……!もしかして、あの時の『きっと、すぐ会えるでしょう』という言葉は、この事だったのか……!!
「あいつがいきなりやってきて……政略結婚の話を持ち出したんだ……!あいつの親がこちらの言い分も一切聞かないで、一方的に決めたらしい……」
「グンセオは何で黙っているんだよ!?」
グンセオならこんな話、聞いた瞬間ロズイルに斬りかかる筈だ。なのに、先程会ったロズイルは怪我どころか、服すら乱れていなかった。いくら怪我をしなかったといっても、躱したのなら服が多少なり乱れている筈だ。
「俺だって……!俺だって一刻も早くあいつを斬り殺してぇよ!!でも、でもよ……!あいつの家系は、魔王様の次に権力がある……!もし、あそこで感情任せに斬りかかってみろ!魔王様とあいつの家系の間で戦争が起こるぞ!!」
「ぐっ……!」
もし、あそこで結婚の話を突っぱねたら、ロズイル達を侮辱したと捉えられ、戦争が起きてしまうかもしれない。あまりそう言う話と無縁だった僕からしたら、これ程理不尽な事はないが、こう言う世界ではよくある事だと言う。
「なんだよそれ……」
魔王様の気持ちなんて考えず、自分達の為だけに魔王様と結婚する。そんなの……魔王様が可哀想じゃないか……!
ガタッ!
「おい!どこ行くんだ!?」
「魔王様に会いに行く!」
魔王様の気持ちを確認したい。この事をどう思っているのか、これで良いのか。僕は、魔王様の部屋に駆け足で急いで向かった。
「…………」
壁の陰で僕を見ていた女の子に気づかないまま。
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