月面生活
月に行きたい!って思ったあの頃の夢はまだ叶わない ただそれは、僕には地球でやるべきことがあるんだ。と考えることにした。
ある朝、朝食をとりながら、家族が揃ってテレビを見ていた時だった。
突然、番組が切り替わり、緊急ニュースが始まった。沢山の報道陣が、首相官邸へ集まる様子が生中継で放送されていた。
リポーターがマイクを片手に、目を光らせ、カメラに向かって話している。
「皆さん、これから首相による緊急会見が行われようとしています。! この会見は、我々人類が長きに渡って望んだ希望への、第一歩になります。私はこの日をどれだけ待ったことでしょうか・・・・。」
長々と続く話に少しづつ苛立ちを覚えてきた。僕はパンをかじりながら、隣に座っいる父に話しかけた。
「なんだか、世間は慌ただしく活動しているんだね。一体、何があるっていうのさ?」
「父さんが聞いた話によると、どうやら月面での生活が実現するそうだよ。月での開発がここ数年で物凄い早さで、発展したらしく、多分、政府が公に発表する、今回の会見なんじゃないかな。」
数分後、大きいお屋敷から、続々とお偉いさん達が出てきた。 彼らはマイクの前まで行き、笑みを浮かべながら話し始めた。
「えー、皆さん大変長らくお待たせしました。これより首相による緊急会見を始めさせていただきます。」
そう告げると、どっしりとした目で、カメラを睨みつけるようにゆっくりと歩く、権力を体現したかのような大男が、マイクの前まで近づいた。
「この放送は、全世界同時中継であります。これから話す内容は全て真実で、全く偽りはありません。あなた方の中には信じない者もいるかと存じますが、全て真実なのです。」
男はそういうと、少し間を置いて、またゆっくりと話始めた。
「我々人類がついに、月面での生活を掴み取りました。長きに渡って、研究を繰り返し、あらゆる機関、政府、そして世界中の皆さんによって、我々は、地球という地を離れ、新たな地へ足を踏み入れたのです。」
男は徐々に興奮しているのが見て取れた。僕は、少しだけ月での生活を、頭の中で過ごしてみた。そこには、宇宙スーツを着た人々が、重力6分の1の世界で、意気揚々と活動している。地球ほど大きくない地で、皆が調和し、平和に暮らしている様だった。
会見も終盤になったようで、男は最後にこう告げた。
「ーーであるため、全ての人が行けるわけではありません。一部の人間のみが住む権利を得ることができるのです。その選考は、公平に、抽選によって決定致します。なお、この度不幸にも、当たらなかった方も落ち込むことはありません。一定の期間を開けたのち、再度抽選を行いますので、ご安心を。それと、皆さんには、これからの選考に必要な書類を提出していいただきます。書類が届いたら、早めに記入をお願いします。」
そのように告げると、会釈をし、会見場を後にした。
45分にも渡る放送も終わり、皆いつものように支度を始めた。気がつくともう、遅刻の時間だった。
教室に行くと、宇宙やら月やら人類やらの単語が飛び交っていた。その中に、最も人が集まる席があった。シンジ君だった。彼の周りでは、連れてって という言葉が多かった。僕は、理解した。なるほどね、彼はお金持ちで、それで選考されるのか。皆が羨ましく思うのも無理ないな。
彼は成績優秀で、顔立ちも良く、皆に優しい人物だった。医者の息子で、将来有望と先生からもよく言われていた。
が、僕は彼の本性を知っている。彼は、自慢の建前で、周囲を欺き、穏やかな偽心は相当黒く染まっていることを。後ろの席に座っている僕は、それを知っていた。
かといって、別に彼を嫌っているわけではない。彼とは表面的な付き合いしかないから、表面的な心が良ければ、むしろ頼りになる存在なのだ。作り物の笑顔を振りまく様子を少し感心しながら、授業の準備を始めた。
数日後、僕の家に一通の手紙が届いた。
宛名は、あの会見のやつだった。早速、父と一緒に開けると、大きな字で
落選
と書かれた一枚の紙が現れた。
僕と父はともに、しばらくの間沈黙した。
「残念だったね」と父が発した。
「うん 」とだけ言った。
予想通りの結果だっだが、二文字の威力は想像を超えていた。諦めと、僕らが、月に相応しくない存在なのだと告げられた感じが、同時に襲ってきた。生まれて初めて、地球にいることを実感した。
一ヶ月後、教室でシンジ君のお祝い会が突然開かれた。我が学校から選出された、という喜びを皆で共有するとかで、朝から盛り上がっていた。
話の中で、どうやら夏休みの間、数週間だけ、試験的に月面での生活をするらしく、そのお見送りも兼ねていたらしい。シンジ君は満足気な表情で、皆と楽しく会話していた。僕は、用意された色紙にメッセージを書かされながら、眺めていた。
家に帰ると、母が、ニュースに釘付けだった。例の月面生活について、専門家達が、熱く議論を交わしている。
「月ってどんな感じ何だろうね」母はひとり呟いた。
「さっきこの人らが言ってたけど、月って重さが何でも6分の1になるんだってね。重い荷物なんか片手で持てちゃうってことよね。お年寄りも楽できそうだよね・・・」
そう言って、テレビを消し、夕飯の支度を始めた。僕は、シンジ君のことを羨ましく思った。
夏休み初日、僕は早朝のラジオ体操に参加する為出かけた。寝起きの身体は、思った様に動いてくれない。
公園に到着すると、もう皆んな集合していた。ベンチの上に置いたラジオを囲って話をしている。
暫くして、興奮気味の音声が流れてきた。
「間も無く、月への第一号便が出発します
皆さん、見守りましょう!」
ワアーーと歓声が上がった。
この世界から、あと数分で月へ旅立ち、数時間後には、暮らしが始まっていることを皆、想像している。僕は、月の方を見つめてみた。
一ヶ月が過ぎ、地上に、月の様子が放送され始めた。午前から深夜のニュースまで、毎日特集された。「月の暮らしと地球の暮らし」といった、比較要素が主な内容だった。そこでは、重力の重さが人の暮らしを激変させ、より便利な生活を送ることができるとか、中には、重力が非常に小さい為、脳の発達が加速し、いわゆる新人類が誕生する、といった発言をする者も現れた。まさかとは思ったが、一応毎日録画してみる。
数日後、シンジ君が、地球に帰ってきた。教室では彼を待つ人が集まっていた。僕もそこに混ざった。
教室のドアが開くと、車椅子に乗った彼が現れ、と同時に拍手が起こった。まるで、宇宙飛行士の凱旋さながらだった。
しかし、彼の表情は暗かった。うつむき、かつての笑顔は、全くなかった。教室が静まった。彼は「ただいま」とだけ呟いて、保健室へと向かった。皆唖然としている。僕は、急いで彼の元に向かうことにした。
保健室では、シンジ君と保健の先生が話していた。あまり仲が良くないから、何と声をかけたらいいのやら、少し戸惑った。すると、僕の様子をみて彼の方から声をかけてきた。
「君は確か、後ろの席の人だよね。ごめんね、皆んな準備してくれていたのに・・・」
そう言って、彼は月の方を向いた。
「月での生活は、とても魅力的だったよ。身体は軽いし、遊びだって想像以上に楽しめた。けど、数日が過ぎた頃から、異変が起きたんだ。自分が自分でなくなる感覚って言うのかな?とにかくいつもの調子じゃなくなった。重圧とか抑圧から解放されて、自由気ままに行動できる喜びも、徐々に薄れていって、何をしても楽しさは感じられなくなった。周りの人たちは、初めは僕と同じ様な感覚だったようだけど、もう慣れちゃって、だから彼らと話をしたり、遊んだりしても僕は楽しくなかった。」
彼が心中を明かすとはこれまでなかったか
ら、少し驚いた。
「・・・・地球に帰ってきて、ようやくわかったよ。重さの力をね。地球では月に比べて、物の重さは6倍だけど、それは単なるグラムの問題ではなくて、あらゆるモノに適度な重みが加わっているってことを・・・理解したんだ。」
そう言った彼の目からは、涙が溢れ、ありがとう と一言呟いた。
その言葉には、彼なりの重さが加わっているかの様に思えた。
最後までお読みいただきありがとうございました
オチが弱いかな と思いましたが、これ以上悩むともっと迷走しそうなので。
次回から 連続小説も書こうかなと思っています。
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