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怪奇短編「小部屋」

これは、バブル崩壊後まもなく。

俺の知人で解体業をやっていたAさんが実際に体験したお話。


そのラブホテルはS県の山奥に隠れるようにぽつんと立っていて、辺鄙で人目に付かない事と兎にも角にも安いので、しばらくは繁盛していたらしい。

経営者は老夫婦で、妻に先立たれた後も夫が一人で切り盛りしていた。


ところがその夫も亡くなり、折からの不況の波もあって関係者の方で閉鎖を決めたという。古い建物だし山肌に張り付くように立っていたので、工事は少し難航していた。


解体工事が始まって数日。

Aさんは奇妙な事に気が付いた。

建物の奥、2階と3階を繋ぐ暗い階段室の踊り場の下に、図面には載っていない小部屋がある…実に巧妙に隠されていて、現場を見てもちょっと気が付かないような小さな部屋だった。


みんなで話し合ってみたもののもう取り壊しは進めているし、Aさん自ら重機でこの小部屋の壁をぶち抜いた。

1メートルほどの穴が開いて、中からは異様な臭気が流れ出て来た。

生臭く、じめっぽい、嫌なにおい。

部屋の中はもっと異様で、窓もなくドアもなく灯りさえもない。


いったい何のために…。

気味悪がる作業員たちを尻目に、Aさんは灯りを片手に部屋の中を覗き込んだ。

すると、そこには。


壁・床・天井、部屋中いたるところに張り付けられた無数の呪符が、穴から吹く風に揺られてがざがざがざ、と一斉に音を立てて揺れていた。

そして、その呪符たちの隙間を埋めるように、黒く細長いものが…それは夥しい量の頭髪だった。

壁も床も天井も真っ黒に塗られているのかと思ったがそうではなく、あまりにびっしりと髪の毛が張り付けられているのでそう見えただけだったのだ。


しかしそれらが異常に見えたのも、部屋の中央にある粗末な祭壇にぽつんと置かれた小さな壺を見つけるまでだった。それは大きさ、形などからして骨壺ではないかと思われた。

誰もそれ以上その部屋に近寄ろうとはせず、壺や呪符・幾ばくかの髪の毛は警察に託された。

そうして、これ以降の事をAさんが知ることはついになかったという。

いかなる心の暗闇が具現化したものなのか、なにか恐ろしく歪になった執念が生み出した空間だったのか。


今となっては、真相はもっと深い闇の奥へと葬られてしまった

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