一、プロローグ
※注意事項※
この作品はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ございません。それどころか太古の創作とされる神話・伝承を一部拝借しておりますが、ほとんどなぞらえておりません。また、時事ネタ、パロディ、下ネタ、グロ、エロ、腐女子ネタなど多数扱っておりますので苦手な方はご遠慮ください。ちなみに主人公は地味でダサくて、背だけなんか無駄に高くて貧乳で鈍くさくて口うるさい馬鹿です。でもそこは、最高に可愛らしい金髪ツインテール幼女の死神が出てくるので、どうか許してください。
「……あのさ、ナラク」
「なんだ?瑠奈ねぇ?」
「この注意事項、必要?」
むかしむかし、まだ大和の国がこの海に存在しなかった頃。イザナギとイザナミというふたりの神がおわしました。イザナギとイザナミは愛を育み、多数の子を成し、その子が日本の国土や自然を司る森羅万象のものとなったのです。
しかし、イザナミは火の神を産むとともに病を患い、亡くなってしまいました。
そしてイザナギはイザナミを
「バカバカしい。日本が産まれたのはプレートテクニシャンでしょ」
「プレートテクトニクスや、それを言うならっ」
関西弁。ショートボブヘアー、トレードマークの頭に巻いたリボン。右手に趣味の悪いどくろのミサンガ。そして、制服を張り詰めさせる豊かな胸元。くそ、羨ましい。いや、じゃなくて、こいつの名前は麻芽雪。あだ名はユッキー。このオカルト研究会という、訳の分からない部活動の部長であり、唯一の部員。
「相変わらず、瑠奈はひねくれとるなあ」
「ユッキーこそ、毎日厚かましいわよ。
わけの分からない部活動にあたしを付き合わせて」
そもそもこれは部活動なのか。甚だ怪しい。
そもそもここは部室なのか。甚だ怪しい。
怪談を創作したり。夜の学校を内緒で探検したり。お墓やトンネル、廃墟に肝試しに行ったり。胡散臭い本を読んで降魔術、降霊術を行ったり。使っている部屋は旧校舎の使われなくなった部屋を無断で使用している。老朽化が進んでところどころ朽ちて抜けた床もあるというのに危なっかしい。
「だって、部員おらんのやもんっ。人手が足らんねん」
「あたしだって忙しいんだから」
「……、本当に忙しかったら、連日けぇへんやろ」
「うぐ……」
高校一年生。華の青春時代を無気力にも、帰宅部所属という選択を採った自分は何も言い返さなかった。いやむしろ、選択を採らなかったというのが正しいだろうか。
「なぁー、瑠奈ー、バカバカしいとか言うんなら面白い話してぇや」
「何その雑なフリ」
というか結局こいつも暇なだけだろうが。暇じゃなかったらこんな珍妙な部活動してないだろうが。心の中で悪態をつきつつも、手に持った日本書紀現代訳を閉じたあたり、興味はこっちに移ったようだ。古いテーブルに体重をかけてきしませて、こちらに顔をぐいぐいと近づけてくる。
「ないんかー?なんか面白い話ーっ」
「ないわよっ、っつうか近いっ」
ぷうと膨れっ面をした後に元の通り、ソファーに勢いよく腰かける。少し埃が舞って古い木の匂いが立ち込めた。夏場のプールの更衣室、濡れた簀の子のような臭い。あまり好きではない。右手で鼻の前の空気を仰ぐ。
「そいやさー、この前の身体測定の結果はどうなったのー?」
「え……?」
「また伸びたらしいやん身長。女子の成長期も終わりに近いのに」
口調に明らかな悪意。くそう。こいつ、こっちのコンプレックスを知った上で聞いてきやがった。そう、また先週の身体測定で身長が伸びていた。もういらないのに二センチも。
百七十を超えた女子にさらに二センチ上乗せするだと?
ああ、神様はなんて残酷なんだっ!
「牛乳飲んでるのに、全部期待とは違う方向に生かされるのよ。
ああっ、忌々しい!でも牛乳に、牛乳に相談しなければ
この‘きょうい’には立ち向かえないっ!」
「うまいこと言わんでええわ……」
「あと、牛乳とバストアップは正直関係性怪しいけどな」
「えっ、そうなの?」
「オカルトとか全力否定してくるのに、案外疑似科学とか弱いよなあ
その飲んでる飲みもんもなんかおかしいし」
―水素水サイダー、コラーゲン入り、マイナスイオン配合ボトル缶―
「……、え?なんかこれおかしいかな?」
「いや、おかしいわっ!水素水サイダーって
水素か二酸化炭素かどっちかにしろや!
水にコラーゲン入れても、うまないわっ!
あとマイナスイオン久しぶりに聞いたわっ!」
「たしかに、ちょっと油くさいんだよね。
一本540円でお得かと思ったんだけど」
「たけえよ。スタバに行けるよ。フラペチーノ飲めるよ」
意外とツッコミ属性なのかこいつ。
「はぁ~あ、もう昨日見た夢の話とかでもええからさ~。
とにもかくにも暇やねん」
「あんたさっき、人手足りないって言ってなかったっけ?」
至極マイペース。さんざん他人を振り回す癖して本人は自覚ゼロ。だいたい、昨日の夢は人に話したくない。何故なら少しというか、あまりにも馬鹿げているから。いや、夢とは本来そう言うものかもしれないけれども、これはいくらなんでも度が過ぎていると自分でも思う。
夢。眠りが浅いときに見た夢ほど、感覚が鮮明でその内容をはっきりと覚えているという。夢の中の世界に視覚や聴覚だけでなく、場合によっては味覚、触覚、嗅覚、痛覚まである。そんな現実まがいの夢を生まれて初めて見たのだ。はじまりは真っ暗な闇の中、たったひとりで突っ立っていた。
カチッ
闇の中で何かのスイッチを押す音が聞こえた。そしてそれを追うノイズ音。真っ暗な闇の中に少しだけ明るい光が。スポットライトに照らされたような空間。感覚は鋭いのに、世界そのものが曖昧。このちぐはぐが自分にこれは夢だと教えている。そのスポットライトの明かりの中に、ラジカセの前でしゃがみ込むひとりの少女がいた。歳は恐らく八歳くらいだろうか。長く綺麗な金髪を真っ黒なリボンで結んでツインテールにしていた。
「この小説のヒロインの登場シーンのBGMどうしよっかなー」
なんかえらくメタ発言が聞こえたんだけど。
「やっぱり、ヒロインとして私の登場シーンは、読者の中でも
印象の強いものにしないとなっ!例えばっ……」
カチッ……、ザザ……。ザザザ……。
空しい音が響いて、それを空しいノイズが追った。もう一度。
カチッ……、ザザ……。ザザザ……。
「何も聞こえない、何も聞かせてくれない」
「古いわ」
「ほえ……」
思わずツッコんでしまったから、気付かれた。いやここが夢の中ならばすべて筋書き通りに進むから、そこに彼女がいて、彼女が気付いた。そんなことは無関係なのかもしれない。ただ、なにか運命めいたものを、彼女の血のように真っ赤な瞳の中に感じた。それがどういうものであったか、それは彼女の一言で明らかになる。
「あ、明日死ぬ人だ」
「……、ほえ……?」
それは唐突な死の宣告だった。
―死人仮登録証 管理番号F-JHB-42731
常盤木瑠奈 (ときわぎ るな) 享年16歳―
そんな紙を渡された。住民票に少しに似た、お役所めいた書類だった。
「あ、あの……、何これ……?」
「何ってお前に渡そうとしていたものだけれど」
色々分からない。
「あのさ、あたしって死ぬの?」
「ああ、死ぬけど何か?ちなみに明日な」
「ああ、そっか」
……、……。
「ったく、こっちはせっかく登場シーン盛り上げようって思ったのに
空気読んでから入って来いよ。そっちは私の引き立て役なんだからな」
こいつ、えらく口悪いんですけど……。
「ちょっとまっ、なんであたしが死ななきゃいけないのよぉおっ!?」
「くじ引き」
「え……?」
「くじ引きはくじ引きでもあれだぞ、ちゃんとプログラミングで乱数を組んで
アナログとデジタルの両方を駆使して完全なる無作為の選出だからな!
私を恨むなよ!管理番号F-JHB-42731!」
「人を管理番号で呼ぶなっ!だいたい人の生死を
無作為に決めていいわけないだろうがっ!」
そして生意気だ。納得いかない。十六歳の若すぎる生涯なんて、いくら夢の中でも実感がわかなさすぎる。いや、夢だから実感はわかなくて当然かもしれないが。そんなことはともかく。
「死因には祟りや罰じゃなくて、不運というものもあるだろ」
「そうかもしれないけど、あたしは嫌だよっ」
「まー嫌だよなー、貧乳だし、地味女子で恋愛経験ないし。
胸はないし、顔面偏差値低いし、Aカップだし。
背は無駄に高いし、胸はまな板だし。実はブラもスカスカだし」
「なんで胸に関すること、執拗に繰り返すんだよ」
何よりもこいつが腹立たしくてならない。
「黙れ。管理番号Female(女性)-J(地味で)H(貧乳の) B-42731」
「そんな意味だったの!?単なる悪口だろうがっ!」
「なんせ毎日有象無象の死人を見分けなくちゃいけないからな。
適格かつ端的な特徴を捉えて管理しないといけないんだよ。
今回は分りやすかったな……」
「最後の一言、必要っ??」
毒説。生意気。小憎たらしい。見かけに反して、全然可愛らしくない。
「ああ、そういや。もう一つ渡すもの忘れてたわ」
「今度は何?」
そう言って、彼女は今度は一枚のディスクを渡してきた。
―Bluray Disk 収録内容:走馬燈―
激しくいらないんだけど。うち、ブルーレイ再生できないんだけど。
「ちょ、こんなものいらなっ」
「わりぃ、電話だ」
こちらの会話は完全無視で電話に出る彼女。見た目はどう上に見ても小学三年生にしか見えないのにスマートフォンなんか持ちやがって。こちとらまだガラパゴスケータイだぞ。
「なんだ~?サタンか」
え?サタン、サタンいんの?
「サったんのおうち、ああ行く行くー」
サったん?!!サタンをサったんって呼んでるよ!あのサタンを?
「で、何すんの?えーモンハンー?私、マ〇オカートがいいってんじゃん
っつうか、いい加減W〇i-U買えしー。
なに?NXまで待つって?今すぐしたいんだけどなー」
なんかエラく現代っぽい会話してんだけど!
プレ〇テ4持ってる?絶対持ってるよね?
サタン、プレ〇テ4持ってるよね?
「じゃーなー」
そしてこの激しくムカつくガキの姿をした死神は、電話を切るや否や「帰るわ」と言い出す始末。人に勝手に死の宣告をしておいて、トンズラする気かよ。
「待って!なんか、方法はないのか!寿命を延ばす方法は!」
「っ……さあな、もしお前が、この縁を夢と無下にしないなら
考えてやってもいいぞっ!」
ニカッと白い歯を見せて、まるで腕白な少年のような。屈託のない笑みだった。死神。そんな身分に似つかわしくない。そして、細まった眼が再び開かれたとき、真っ赤な瞳が少しだけ悲しげに見えた。
なぜ、そう感じたかは知らない。
所詮、これは夢だ。この夢から覚めても自分はきっと何事もなかったかのようにその日を終えるはず。そう。そんなこと分かりきったことなのに。
―もしお前が、この縁を夢と無下にしないなら―
なぜだか、それがひどく引っかかった。