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08-Last それでも、あした

 カーニバルが世界の終わりを告げていた。



 スクランブル交差点はほとんど半裸みたいな恰好の人たちで埋め尽くされていて、ろくに身動きも取れやしない。

 あちらこちらから音楽が流れてくる。大音量のそれに調和の響きなんて一切なくて、鼓膜を突き破るような痛みだけがある。


 笑い声が聞こえた。怒号にも聞こえた。近くで誰かが倒れた。それをまた別の誰かが踏んだ。僕にはそれが同じ人に見えた。


 熱に浮かされた人の群れ。

 燃える街の冬の熱帯夜。



――景。



 自分の声すらも、遠く聞こえた。



――景。



 名前を呼ぶ自分のことを、他人事みたいに見下ろしていた。



――景!



「そこに、いないの?」



 僕はひとりだった。



*



『アイドルのやりがい、ですか? うーん』


『あ、いやいや。やりがいがないとかそういうことじゃなくて。うーん、なんて言ったらいいのかな……』


『それが自然、って感じかな』


『たとえばほら、息したり瞬きしたりするときにやりがいを感じる人っていないでしょう?』


『いや、簡単だとかそういうわけじゃなくて』


『もちろんアイドルをやっていれば、厳しい業界ですし、色々と苦しいこともありますけど』


『でもそれも、自分の一部、っていうか』


『アイドルをやることは、私にとって、……うん』


『生きることと似ています』


『苦しいことも楽しいことも当たり前の顔をして現れて』


『私も当たり前みたいな顔でそれを通り過ぎていく』


『生きてることとか』


『自分が存在してることとか』


『そういうことに疑問を抱かないように』


『私はアイドルであることが自然だと思うんです』


『運命とか、そういうのよりももっと』


『もっと深いところにある』


『そういう風に、思います』


『…………』


『…………』


『……でも』


『そうですね。強いて言うなら……』


『やっぱり、ファンのみんなの喜ぶ顔を見たときが一番かな』


『誰かの喜んでる顔が見れたら嬉しいし』


『それに、私が』


『私の生き方が』


『私が生きてることが』


『肯定されてるみたいに、思えるから』


『…………はい』



『みんな、いつも愛してくれてありがとー! 大好きだよ!』



*



「つまりですね、年齢というのは重力なんですよ。若い頃は命なんて、とシンプルに、かえって真剣に人生と向き合えたはずなのに、年を重ねていくだけでどんどんその重みに耐えかねて身動きが取れなくなっていくんです。だから私は慣れ親しんだ肉体を捨てることができないのです」


 黒根さんが言った。

 本棚を掃除しながら声の方を向くと、その手には新聞が握られていた。物理書籍を愛する古本屋の従業員はニュースすらも物理媒体からじゃないと摂取する気が起きないらしい。


 新聞の一面には『ありがとう 肉体』『さようなら』『新しい世界へ』の文字が大きく躍っている。きっと、中身も大差ない。


「二十そこらの人に言われても何の説得力もないですけど」

「うぐ。でも五つも違えば全然重さは変わるものです」

「体重差分でトントンじゃないですか?」

「辻倉さん、さては私の体重を知りませんね?」

「知りませんけど」

「大体月に立ったときの私の体重と、地球にいるあなたの体重が同じくらいです」

「そんなわけないでしょ。そんな細い首して」

「私、首だけ細いタイプなんです。服の下はでぶでぶですよ」

「でぶでぶですか」

「でぶでぶです」


 黒根さんは力強く頷いた。

 コンプレックスについてだけは、やけに毅然とした態度を取る人だった。実際はガリガリもいいところだと思う。


 僕は会話しながらももそもそと本棚の掃除を続けていて――、僕だって決して力が強い方ではないけれど、黒根さんは僕がここに来るまでどうやって働いていたのかよくわからないくらい貧弱な人だから仕方なく――、やけに分厚い本の出したり入れたりしている。無造作につかむ本の一冊が、たまに日常生活ではちょっと考えなかったくらいの値段をしていたりして――、あっ。この本は覚えてる。四万円くらいするやつ。思わず包み込むみたいな手つきで扱ってしまう。


「でも電脳化しないでどうするんですか? ライフラインとか残らないと思うんですけど」


 『世界を終わらせます』と発表されたのは、つい一週間前のことだ。


 見慣れた顔の王様が、全世界に向けて放った宣言。


 一斉電脳化で、物理空間から人類は解き放たれる。どうせ一成の思い付きなんだろうけど、それは各地でおおむね好意的に受け入れられている。


 そういう反応になるように一成たちが人類の脳を操作してるのか。


 それとも、変化を怖いと思うような気持ちを抱くには、僕たちはもう曖昧になりすぎていたのか。


「この店にいます。店長、ここは好きにしてくれていいって言ってましたので」

「危ないですよー? 治安維持機能だってもう残らないんですから」

「あなたのお友達が何とかしてくれるでしょう。電脳空間を維持するだけの機械は守らなければいけませんから。物理空間から暴力のにおいを消すくらいはきっとしてくれますよ」

「どうかなあ……」


 僕はふたりの顔を思い浮かべる。

 どっちにも、そんな常識は期待できそうにもなかった。


「あとは、ほら」


 夜の窓が鏡みたいに蛍光灯を映し出していた。


「辻倉さんが、守ってくれるとか」


 駅の方で、歓声が聞こえた。

 店は狭かった。蛍光灯のチラつく音だけがしていた。

 耳元で、呼吸し合ってるみたいだった。


「……えーと」

「はい」

「今、プロポーズされました?」

「はい」


 冬なのにやけに暑かった。背中に熱がこもるのを感じた。


「……あのですね。たぶん、黒根さんが思ってるより僕は強くないっていうか……」

「見ればわかりますよ」

「だ、だよねー。……ですよね」

「うん」

「そ、そっかあ……」


 僕に選択肢があるかといえば、きっとなかった。


 僕は黒根さんに作られた複製人格だし。

 家族も友達もいるけど、その隣には別の”僕”がいるし。

 ならきっと、僕はここ以外に居場所なんてないし。

 世界は終わっちゃうし。


 だけど、じゃあ。 



「嘘でもいいから、好きって言ってください」



 複製じゃない僕だったら、何かを選び取ることができたって言うんだろうか。



「図々しくて、すみません……」


 カウンターの向こうに座る、黒根さんが言った。

 伏せた顔。表情は見えない。


「嘘は、よくないと思うかな」

「…………」

「だから、」



 ここは小さな、どこにでもある、世界の果てで。



「本当に好きって言えるまで、待ってもらえませんか?」



 この夜が、永遠に続くような気がした。



「ああ、ずるいなあ……」


 黒根さんが顔を上げる。

 目元に浮いた涙を、細い指先が掬いとった。



「待ちます、千年くらいなら……」



*



 あなたが人から好かれる理由なんて簡単よ。何も否定しないんだもの。


 自分が悪いと思ってることにも、ダメだと思ってることにも、何も言わないんだもの。


 誰も傷つけようともしないんだもの。


 それを誰かは優しいって言うかもしれないけどさ。


 結局さ、あなたは誰のことも好きじゃないのよ。


 自分のこと愛してくれるなら誰でもいいって人がいるように、あなたは自分が愛せるなら誰でもいいの。


 愛じゃないか。


 優しくできればそれでいいんだ。


 だけど、一体それの何が楽しいの?


 誰かに優しくして、自分を好きになってもらえて、それで満足? それすら求めてない?


 あなたは、何のために生きてるの?


 ……でも、本当に人を愛そうとしたらそうするしかないのかもね。


 だってそうでしょ?


 誰だって自分以外の誰かが何を考えてるかなんてわからないもの。


 どんな風に感じてるかも。クオリアの話?


 だからね、結局本当に人の気持ちに真摯に向き合おうとしたら、理解によって愛が芽生えるなんてことは言えないはずなのよ。


 存在そのものを愛するしかないの。


 あなたが存在していることを愛します、って。


 結局そんなの、誰でも構わないってことなのかしらね。


 あなたの瞳に映った私を愛します、なんて。


 そんなの、あまりにも身勝手な自己愛だわ……。



*



「何にも残さないで死ぬってのは、結局、全然生きてなかったのと変わんないのかな」


 閉店後のレストラン。

 千都が言った。


「何も残さなかったなんて人、どこにもいないと思うけど」

「そーいう厳密な話をしてんじゃなくてさ。主観的な話だよ。あたしとあんたみたいなやつらの話」


 食べ終えた皿はもう片付けられていて、カウンターの奥で回る換気扇の音が聞こえていた。


「つまり?」

「あたしたちみたいな、誰かの代わりに作られた人間に、初めから未来なんてなかったんじゃないの? って話」

「全然違うじゃん」

「全然違うじゃんは全部おんなじじゃんだよ」


 千都の家に居候を始めてから、もう一ヶ月になる。


 初めて気絶した日に保険で作っておいた人格の複製ストック。心配性な”僕”はわざわざ物理肉体まで用意していて――、だけど当然、”僕”に作られた僕が行く当てなんてどこにもなく。


 児童館のあたりをうろうろして、このへんにいるとやたらに”僕”を見るものだから遠くに行こうかな、なんて考えてたころに、千都に捕まった。それからは”僕”がいない時間はこのレストランでアルバイトして、何となく、そんな感じで過ごしている。


 過ごしていた。


「”あたし”のオリジナルってさあ」


 対面に座る千都は窓の外を見ていた。僕の視線も釣られる。遠くの方で輝くネオンが、夜空を赤く染めていた。星はない。月も見えない。どこかの騒ぎがときどき振動になって、この場所までやってくる。

 ひょっとすると、いつもの夜だった。


「たぶん、もう死んでんだよね」

「……そうなんだ」


 どんな顔をして聞けばいいのかわからなくて、限りなく意味のない相槌になってしまう。僕は”僕”のオリジナルが死んだとして、どんな気持ちになるだろう。


「うん。Life ID のログイン途切れてるんだよね」

「それだけじゃ死んだってわからないんじゃない?」

「まーそりゃそうだけどさ。どうなんだろね……」


 バン、と大きな音がした。夏の音。


「花火かな。駅前?」

「いいねー、浮かれた世界の終わりだよ」


 千都はどう見ても浮かれてはいない、けだるげな表情で言った。


「家族にはさあ、言えないんだよね」

「そんなもの?」

「そんなもんだね。だってさ、考えてもみなよ」


 千都は窓の端にうっすらとついた結露を指で拭った。


「泣かれたらさ、そりゃどうしようもないよ。やっぱ本物が好きなんだ、ってなるし。でももっと怖いのは、どってことない反応されること」

「あー……。別にこっちにいるんだからいいじゃん、みたいな?」

「そ」


 僕は千都の横顔ばかりを見ていた。


「”あたし”ってやっぱ、代わりで済んじゃうような人間なんだ、みたいな、さ」

「結局本物かどうかなんて、自分に都合がよければそれでいいんじゃん、みたいな?」

「意地悪いかな」

「普通じゃない?」

「普通かあ……」


 濡れた指先を、頬に当てた。

 涙の跡みたいに映った。


「普通仲間の凪くんや」

「なんですおばあさん」

「誰がババアじゃい」

「せっかくノッたのに……」


 もう一度バン、と音がした。だけど音だけで、花火の光は見えなかった。


「これからどうする?」

「どうしようかな」

「他の”凪”はどうしてると思う?」

「主体性とかあんまりないし、”僕”のこと作った人についてってるんじゃないかな」

「刷り込まれてんね~」

「千都だって」

「誰だって」

「そんなもん?」

「そんなもん……だよね」


 しょうがないよ、と千都は呟いて、やっぱりずっと、窓の外を見ていた。


「ねえ、千都」

「んー?」

「こっち向いて」


 千都が僕を見た。

 僕も千都を見つめ返していた。


「……なに?」

「いや、なんか、いつも横顔ばっかり見てるような気がして」

「そう?」

「正面から見たの初めてかも」

「さすがにそれはないっしょ」


 ないかな?と首を傾げてみると、ないよ、と千都は頷く。


 何となく、そのまま視線を外さなかった。


「……ね」

「うん?」

「海、行かない?」

「えー?」


 一瞬、千都は考えるような顔をして。


「……行きたいかも。冬の海。そんでそこで……」

「そこで?」

「生きたり……」

「死んだり?」

「それから……」

「それから?」

「……うん。それからだね」

「それからか」


 僕たちは頷き合って、店の外に出た。


 駅前の大騒ぎが聞こえてくる。最後の時間を楽しむ人たちの声。悲しむ人たちの声もきっと。


 だけど、僕たちは。


 いや、きっと、僕たちも。


「あっ!」


 千都の声と指につられて、空を見た。


 ひゅう、と音を立てて、どん、と花が咲いた。


 ぱらぱら散った、冬の花火。


「いこっか」

「うん」


 僕らは言って、歩き出す。




 きっとこの夜、無数の僕らが旅に出る。




*



 僕ら本当は、ずっと死にたくなくて。



 誰かに救ってもらいたくて。



 だけど、すべてをわかり合うことなんて絶対にできないって知ってたから。



 だから、進んだ先に何かあるって信じて。それをつかもうと、ひとりでもがくことを強さだって信じて。弱さを全部誤魔化して。



 ねえ。



 ねえ、誰か。



 僕の Secret ID(たましい) に、触れてください。



*



「景!」


 叫んだ先で、振り向いた。


 人混みの中、確かに景はそこにいた。


「……見つけられないかと思った!」


 大声を張り上げた。

 そうしないと、届きそうにもなかったから。


 周りは景が――、CITRUS の"景"と同じ顔の人間がそこにいることに気が付いて、どんどん騒ぎを増す。


 だけど、今、景ははっきりと、僕だけを見ていた。


「見つかると、思ってなかった!」


 だから、僕も、景以外を見るのはやめた。


「ねえ! 景はこれからどうするの?」

「あなたはどうするの?」

「わかんないよ! わかんないから聞いたんだ!」

「どうして?」


 景が叫んだ。


「どうしてわからないの? どうして他の誰かのことを知ろうとするの?」

「わからないからわからなくて、知りたいから知ろうとするんだ!」

「答えになってない!」

「だって、答えなんかない!」


 僕も叫び返した。


「なら景は知ってるの? どうして僕たちは生きるのか! 死ぬのか! 僕たちの求めてた世界の秘密って結局何だった? それで僕らは満足できた? 友達の先にある関係ってなんだったの? 僕たちはそれになれたの?」

「そんなの私だって知らない!」

「僕だって同じだよ!」


 僕らはそっくりだ、と思った。


 だけど本当はそうじゃなくて、ただ、僕らはお互いを鏡にして自分を見ているんだ、って。

 たったそれだけなんだって。そういうことも思った。


「なら凪だってわかるでしょ! こんなこと意味ないって!」

「なんでさ!」

「だって私たち、人形と変わらないもの! 脳に刺激を与えられて、決まった反応を返して! 脳だけがあって、それ以外には何もない!」

「だけど何もせずにいるよりはいいって、景が言ったんだ!」

「そんなの強がりに決まってる! 本気にしないでよ!」

「なるよ! 本気に!」


 僕らは少しずつ、本当に少しずつ、距離を縮めていた。


「無意味だっていい! それでも、ただ泣いて死ぬだけよりはずっといいって、そう思ったんだ!」

「同じよ! どう生きたかは、どう死んだかで決まるの! 無意味に死んだら、何もないの!」

「だけど、無意味に笑って死ねるかもしれない!」

「同じよ、全部!」


 全部同じだって僕にもわかっていた。

 なのに、どうしてなんだろう。


 だけど、それでも、って。

 僕はそれが。

 どうしても言いたくて、たまらなかった。




「君が好きだ」




 気が付けば、もう目の前に景がいた。

 零れそうな涙が瞳に溜まっているのがわかった。


「やめてよ」


 震える声で、彼女が言った。


「やめて……。愛なんかで誤魔化そうとしないで……」

「誤魔化せないよ」

「愛なんて何にも……、何にもならない。抱きしめて、キスして、それで何か変わるの? 何かわかるの?」

「何にもならないかもしれない。でも、そこにある」

「結局私たち、他人のことなんて何もわからないじゃない。私が私だって、どうしてあなたにわかるの? あなたが見ていない間に私とどこかの”私”が入れ替わってるかもしれない。そしてあなたはそれに気付けない。それどころか、自分でだって……」

「何もわからないことくらい、わかってるよ。だけど、いつかわかるかもしれない」

Secret ID(たましい)なんて、どこにもない」


 景が顔を伏せた。


「自分を自分足らしめるような、どこかに隠された本当のものなんて、どこにもない」

「だけど僕はそれを探すよ」

「どうして?」

「生きてるから」


 僕は、景に手を伸ばして、だけどやっぱり、触れないままにその手を下ろした。


「僕は僕のSecret ID(たましい)を探すんだ。見つからなくても、初めから存在しなくても、それでも探す。僕は生きてるから」

「そんなの……、ただの思考停止だわ」

「だけど諦められない」

「私だって!」


 景の肩が跳ねて、声が響く。

 それから、力なく、その肩が落ちる。


「私だって……、諦められない」

「それなら、一緒に探そうよ」


 夏の夜を、思い出していた。


 もしかしたら、あの日、景と会ったときから、もう全部決まってたのかもなんて。

 絶対にそんなこと、思ったりしないけど。


「わかり合える日が来なくても、Secret ID(たましい)がどこにもなくても、一緒に探そうよ」

「永遠に?」

「永遠に、ってそんな大それたことは言えないけど……」


 景が、顔を上げた。


 涙の跡。


「私もあなたが好き」

「……うん」

「だから、お互いがお互いを好きだと思っていられる間……、それから、お互いに同じものを目指してるって、そう思えてる間だけ。……うん、その間だけ」


 口元には、笑み。



「一緒に、いましょうか」



 僕たちは、どこまでも一方通行で。


 好意が通い合うことなんてなくて。

 ただ片道同士の愛だけがそれぞれの道を通っていて。


 そして、ただ似たような方向を向いているだけで目的地も――、あるいは、目的地は同じなのに見ている方向は全然違ってて。



 だけど。

 それでも。



「――ね、これからどうする?」


 いつの間にか、熱狂は止んでいた。


 交差点にはもう動かない人たちが足の踏み場もないくらいに横たわっている。

 少なくとも、ここにいた人たちは、みんな電脳に旅立ってしまった。


 ふたりきりだった。


 僕は、景の問いに考えて、


「……なんでもいい、かな」

「またそれ」

「う、ごめん」


 でも、僕は本当になんでもいいって思ったんだ。


 どんな道を進むか、行きたいところに辿り着けるか、そんなことはわからないけど。



 だけど、歩いていくって、そう決めたから。



「一緒に行こう」



 東の空に朝日が昇る。




 始まりは、ただそれだけでよかった。

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