エピローグ
僕は、今、普通の生活をしている。
クラスのみんなも、はじめはいろいろ事件のことを聞いて来たり、逆に、ちょっと腫れもの扱いだったりしたけれど、もう馴染んだ。体育祭や、遠足にも参加した。仲良くなったヤツに誘われて、写真部に入った。カメラが趣味の伯父から譲られた一眼レフを、いつか使いこなしたいと思っていたから、ちょうどよかった。
自室に帰り、彼女に、その日あった事を報告するのが日課になっている。
机の、カギがかかる引き出しにこっそりしまってある瓶を取り出す。
あの事件の日、隠し小部屋で手に取って、先生が入ってきたとき、咄嗟にズボンのポケットに押し込んだもの。救急車を呼ぶから、と、学年主任に言われて、病院で発見され、取り上げられるリスクを少しでも減らすため、秘かに学生鞄の奥に隠して持ち帰った。
彼女の目は、今日も黒曜石のように光を返している。
先生が出所してきたら、三人で会おう。彼女も、それを望んでいる。
普通の人でいよう。勉強をし、進学して就職し、収入を得て、目立たず、誰にも迷惑を掛けず、人に紛れて生きよう。誰にも疑われず、誰のことも不安にさせず。そうすれば、みんな、僕のことを放っておいてくれるはずだ。
自立する力を得られれば、自由でいられる。好きなことができる。
先生と彼女と、三人でいるのには、不可欠なこと。僕の人生において、これ以上大事なことは、他にない。




