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あの事件から、数か月がたった。
夏休みも終わり、僕は、教室で授業を受けている。
事件の日、生物室に入ってきたのは、学年主任と教頭先生だった。ニ人は、まだ火の残るカーテンを片手に狂ったように笑っている山城先生と、背中を血まみれにして倒れている僕を見て、そりゃ、めちゃくちゃ驚いただろうと思う。
意識はしっかりしていたけれど、錯乱しているフリで、
「カバンをとってくれ」
と、抱き起し、大丈夫かと声をかけてくれていた先生に繰り返し頼んだ。
救急車に、はじめて乗った。
何度も何度も、カウンセリングを受けた。
はじめのうちは、生物室に現れた女子生徒と仲良くなって、その声を聞いて、とか正直に話していたけれど、大人たちが求めている答えはそれじゃない、と気付いて、探検していて偶然、あの小部屋をみつけました、と言うようにしたら、カウンセリングの回数は減って、普通の生活に戻っていい、といわれた。
夏休みが終わるころ、親を通して頼み込んで、山城先生に会いに行った。その時も、
「一度顔を見れば、自分の気持ちのよくわかっていないところとか、現実とか、受け入れて向かい合える気がするんだ」
なんて、彼らが求めているだろう言葉を口にした。解答は正解だったらしく、先生に会わせてもらえることになった。
ドラマみたいに、ガラスを挟んだ小部屋の向こう側に座る先生と対峙した。先生は、僕に生物室のカギをくれたときと同じような、落ち着いた優しそうな表情をしていた。
「今日は、どうしたの?」
言葉が出ず、じっと先生を見ている僕に、そう、向こうから声をかけてくれた。職員室に、質問に行った時と同じような調子だった。
「僕を殺そうとした人に会いたくて来ました」
そういうと、先生は、それが冗談だとわかってくれて、笑った。
多分、僕と先生は似ているのだろうと思う。彼女と先生も。彼女と、僕も。別な出会い方をしていたら、親友になれたかもしれない。
「あの部屋から、足りなくなっていたものがあって」
先生がぽつりと言った。
「どこへやったんだって、ずい分怒られちゃったよ」
僕は、返事代わりに、口の端を少しだけあげた。先生も目を細めて頷いてくれた。
先生に伝えたかったことは、これで充分だ。




