第六話 古井戸や 何かが飛び込む 水の音
異世界バトル勃発!
第六話 古井戸や 何かが飛び込む 水の音
☆
祠の水を替え、変な啓示を受け取ったと思ったら球根みたいな奴らは満足したのか野菜畑に戻っていった。
「……パシリ扱い?」
ただ……一匹を除いて
最初に見た黒い奴が木の上に居たと思ったら、プヨんと頭の上に飛び乗りーー居座られてしまった。
『kolecuulayorosikuu!』
さっきから何かしら喚いているがさっぱり分からなかった。しかし黒い奴はいつまでたっても離れる気配が無いので、そのまま家宅捜索を続行する事にした。
まあ、黒い奴もそのうち飽きるだろう
俺は祠の周りを調べたが何も無かった。まああっても困るんだがな
そして俺は井戸へと戻る。さっき背後で何やら音がしたのが気になってしょうがなかったから……俺はそっと建物の陰から様子を伺う事にした。
ソロリソロリと縁側の前を通り過ぎ、コッソリと覗き見ると……
「……? 何にも…ん?」
何にもいないと周りに視線を動かしたその時ーー〈ピチョンッ〉「!!!!!」
その時ーー井戸の中からーー触手の様なモノが伸びて来た。
「……えっ? なんだありゃ?」
ニュニュニュと伸びて来たその透明なスライムの様なプヨプヨした奴は、ポョンポョンと地面を探っている。数本の触手が伸びたり縮んだりしながら何かを探している様だった。
「水の精霊? いや、古井戸の精霊とか? 違う! 精霊はトマトを食べるとは 思え無いし?」
そして、最後に一個残っていたトマトにヒョイッと吸い付くとーー〈ニュポンッ〉と触手は井戸に吸い込まれて行った。
「おおっ! な、何? スライム?」
いや、スライムと言うよりも水そのものが蠢いている様に見えた。水の触手? ただ禍々しいモノは感じない。俺は恐る恐る井戸に近ずいていった。やっぱこわ!
それでも放置は出来ない。俺は勇気を振り絞り、ジリジリと井戸に迫って行った。
ジリ…ジリ……ジリ…
「おい! 斎藤君!」
「うひゃああい!」
び、びっくりした! あと五メル程の距離に近ずいた時、背後から村長の声がした。振り返ると村長は若い女の人を連れていた。あれ? 結構美人だな♡
「は、はい、なんでしょうか♡」
このタイミングならきっと俺に用があるのは間違いない♡ そうか、田舎の田園にもこんな若い女の人がいるんだな〈ペシ〉ん?
「な、なんだ?」
頭に何かが当たる。
すると〈ペシペシ〉何だよ! よく見れば頭の上にいた黒い奴がペシペシと俺の頭を叩き、後ろを指している。
「えっ? 後ろ? 何だよ」
俺はそっと後ろを振り返る。するとーー〈ピチョン〉と何かが井戸から飛び出して来た。なんだ?
よく見るとそれはお爺ちゃんの田舎の水田てよく見た奴だった。ただしーー形はそっくりだがーー色が違う。
そう、それはカエルの形をしていた。だがーー色はーーまるで見た事が無い配色だった。アマゾンのジャングルにいるようなそのサイケデリックな色……アクアブルーをベースにイエローとグリーンの模様が入っている。
午後の強い陽射しの中、井戸から出てきたそれは庭の土の上に濃い影を映しーーこちらをじっと見ていた。
「……えっ? カエル?」
「どうした? 斎藤…く…ん……! ぬおおおおおっ!」
「びっ、びっくりするじゃ無いですか! どうしたんですか?」
俺はその小さなカエルにそっと近ずいていった。
「ど、どけえ! 斎藤!」
すると必死の形相で村長が大剣を構え斬りかかって来た。
「のわあああああっ!な、なんの真似ですか! もしや俺を亡き者にして佐倉さんを」
「ば、ばかやろお! 俺は結婚しとるわ!」
「うそおおおっ! そ、それは奴隷的な何かですか? ですよね! そうだと言って下さい!」
ちくしょう! 村長は絶対に俺の仲間だと思っていたのに、リア充だなんて!
「どけ! そのカエルを始末する!」
「なっ! こんな可愛いカエルに何するつもりなんですか!」
俺は必死になって村長を止めるがこの馬鹿力は止まら無い。
「それはただのカエルじゃ無い! 高位の水妖、水の精霊の眷属なんだよ!」
「へっ?」
するとーーそのカエルの周りに〈ポコンッポコンッ〉と水球が集まり始め……巨大な水塊になった。……「あれ? さっきの触手?」
そう、その水の塊はさっき井戸から出ていたヤツと同じだった。
「……えっ!」
「サラっ!」
俺の横を村長が走り抜けていく! その動きはまさしく戦士に相応しいものだった。俺の反対側にはサラと呼ばれた女の人がワンドを構えようとしている。何気に俺を盾にしている気がするが気の所為なら良いのだが……
しかしーーそのカエルは水塊をヒュウッという音と共に拳大の水球に圧縮しーー《ドヒュンッ》と言う炸裂音と共に放った! その水球は村長を直撃し十メル近く吹き飛ばす! 咄嗟に大剣で防ぐが壁に激突してガクリと崩れ落ちた。
「そ、村長!」
サラと呼ばれる女の人がサッとワンドを構え《ゴオッ!》と言う音と共に火球を放った!
(ふぁいあーぼーる!だ!)
しかしそのカエルは水球を数発放ち難なく弾き返した。爆裂音が庭に響き、煙が巻き起こる。
そしてその煙の中から〈ペタン〉と水音がした。
「えっ、無傷なの?」
驚くサラだったが、その時ーー煙の中から水の触手が飛び出して来た。
「きゃあああああっ!」
水の触手がサラさんに襲いかかった!
「ナイス!」
美女と触手と水塗れ! マニアには堪らないシチュエーションだ。……俺はそうでも無いが
いや、違う!
「さ、サラさん」
咄嗟に水の触手に飛びかかるがボヨンと弾かれる。やはり水妖なのか! ならばと本体に向かう! よし、カッコイイぞ俺! 何だかカエルくらいならーークルンと触手に摘まれた。無理! 無理! 素人には無理!
「は、離せ〜!」
と叫ぶとポトンと落とされた。
「へっ?」
するとそのサイケデリックなカエルが『kllu? kellon!』
目をキョロキョロさせて俺を見ている。頭の上の黒い球根が『nakamaa!』とペシペシと頭を叩きながら喚いていた。
「きゃあああ! やめてえええ!」
あ!サラさんがまだ襲われてる! やめさせなきゃ!…… やめさせないと…
「た、助けてえ!」
……あと少しね
「ちょ、ちょっと! なんであんただけ襲われて無いのよ!」
あ、ばれた!
「や、やめるんだ! このサイケデリックカエルめ!」
「…………」
『kllukkuurl?』
……よく見るとこのカエル可愛いな
……サラさんの俺を見る目は怖いけど
♢
「つまり、これは井戸から飛び出して来ただけで、あんたが召喚した訳じゃ無いのね?」
「……は、はい。そうっす」
「斎藤、お前は変なヤツに好かれるんだな」
地面に正座して反省させられている俺は刺すようなサラさんの視線に耐えていた。恐らく最悪と出逢いになってしまった。ちくしょう、さめてもう少しヌルヌルに……
「とにかく、あのカエルは普通のカエルじゃ無いんだから気をつけてね! 本当なら討伐対象になってもおかしく無いんだからね!」
「……はい」
「まあ、斎藤に懐いてくれてよかった。手強いんだよ、水妖の眷属は」
そうか、あの村長にも対抗できる力なのか。俺の切り札にしておこう。先に俺がカエルにやられるかもしれ無いけど。
てか
本当に俺に懐いてるんだろうな!
そしてカエルモドキ様は厳かに井戸に戻って行った。つまり我が家の井戸にはこの村最強の守護神が居着いて居られるのだ!
それにしても残念だ。
「……サラさんとのフラグは立ちそうも無いな」
水妖だけに……水に流してとはいかないんだろう。井戸だから溜まってるし…