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薔薇色の異世界田園生活  作者: 菜王
序章
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第五十七話 バザールでごさ〜るぅ①

第五十七話 バザールでござ〜るぅ①


☆ノルン村 バザール会場


「さすが月一のバザールです〜!」


「ええ、今日は殆どの人が仕事を休んで集まって来るそうです」


 この所、近所の人しか会う事が無かった俺と佐倉さんは、久し振りに大勢の人に出会ってウキウキとした気持ちが抑えられなくなっていた。

 都会ではあれ程いやだった人の群れが、この田園に少しいるだけで人恋しくなるのには驚かされることしきりである。


 今日も癒し系オーラ全開の佐倉さんだがセキュリティも万全の様だ。

 お目付け役は黒羽根猫と黄色ネズミリスらしい。

 黄色ネズミリスがチョロチョロとお下げで遊んでいる後ろから、フワフワと黒羽根猫が付いて来る。

 この二匹にも必ずウチの水ガエルや火トカゲの様な秘密があるのは間違い無い。

 油断禁物だ。

 正直、あのデカい二匹の犬が来たらどうしようかと思ったが、何処かに消えていたようだ。

 きっとまた自給自足しているのだろう。

 間違っても盗賊とか咥えて来ない事を心から祈るばかりである。

 いや、本当に。

 あの金毛と銀毛の犬が間違い無くこの村最強だと思うんだよね。

 正直、人喰い熊より怖い。


 とは言え、異世界転生直後から危険なイベントが連発していたので、この平和感爆発のバザールはなお一層感慨深いものがある。

 普段が何気に全然ほのぼのして無いからな。


 因みに、人口五百人前後のノルン村は百軒ほどの集落だから押すな押すなと言うほどでは無いが、少ない分みんなの楽しみ方は尋常では無いようだ。


 バザールの中心は街から来た商隊なのだが、持って来る商品は様々だ。服や靴、タオルや石鹸、簡単な家具や武器に防具、占い師や馬の販売、それをクリフが場所を貸す形で仕切っていた。


(中々の遣り手見たいだな)


 テキパキと仕切るその姿はどこか颯爽としている。

 この村ただ一つの雑貨屋なんだから当然と言えば当然なのか?

 そして村の職人達も並んで店を出し、鍬や鋤の修理を請け負ったり木工や家具を頼まれたりしている。


 そして奥さん連中は旦那さん達とは別のグループを作り、集会所の中で甘い物を作り子供達にも食べさせていた。これは村の婦人部の人達が交代で準備しているらしく、全ての子供達に振舞われるのだが、残念な事に俺と佐倉さんの分は当然無い。実に悲しげな佐倉さんの表情が印象的だった。


 ふと見るとエリスとリリスが嬉しそうに甘い物をほうばっている。子供の笑顔に癒されるとは思わなかったので少し驚いた。


 後から村長に聞いた所によると、こうやって同じ物を全員に振る舞うのは、子供は村が育てるといった意味があるらしい。

 だから子供達は寄子という仕組みで、数家族分の子供を最初から家族の様に育てるんだそうだ。

 医療技術の発達していないこの世界では大人も子供もよく死ぬ。その時に面倒を見やすい様に相互扶助の精神だと言う。下手に親戚云々よりもやりやすいそうだ。

 このノルン村では人が財産だと言う事なんだろう。


 そして旦那衆や若衆と呼ばれる者達は酒場が開設した野外酒場で酒を飲んで過ごす。

 吟遊詩人と呼ばれる人達も商隊ともにやって来て歌に踊りに楽器の演奏を披露している。

 娯楽の少ないこの世界ではかなり人気があるようだ。


 エルザさん達は三嫁と一緒に作っておいた山菜や果実の砂糖漬けなんかを売っていた。交代で集会所に入り込みだべりながらだから、探さないとお店の人が居なかったりするのはご愛嬌だろう。


 因みにフキも少し出してあったが一瞬で完売していた。


 佐倉さんもみんなが奪い合う様に買うのをみて少し感動していた様だ。


 だが、残念な事に佐倉さんが開発した薬草茶ハーブティーはみんなに止められて販売にいたらなかったらしい。

 密かに拳を握りしめリベンジを誓っていた。

(是非に協力したいものだ)


 フキの分配金を受け取り、俺は佐倉さんを誘って来た訳だが、初めてバザールに参加しても誰彼構わず声を掛けてくる事は無い。

 無視する訳でも無く好奇の目を向ける訳でも無い。

 子供達も甘い物に夢中で気が付いても構いに来る余裕は無い様だ。


(村長の言ってた通りだな)


 俺は村長からどんな事があっても佐倉さんをバザールに連れてくる事を厳命されていたのはこの所為である。

 求められるまで干渉し無いのがノルン村のやり方なのだ。

 女衆に組み入りしてい無い佐倉さんには当然まだポジションは無い。

 だから俺がエスコートする様にキツく言われていたのではあるが


(最初からこのポジションを譲るつもりは無い! 妖精王の名にかけて!)


 たが、実際には佐倉さんも参加したそうだったのは間違い無い。

 この村には、男には男、女には女、子供には子供、年寄りには年寄り、未亡人には未亡人の社会が明確に存在するようだった。


 ──何気に未亡人の社会に興味が尽き無い。

 ちょっとだけだけどね。


 ──あと異世界の年寄りの社会が死霊魔術ネクロマンシー的な気がしてこれも気になる。

 これもちょっとだけね。

 時々村のお社から上がる煙が何だか怪しいんだよね。

 決まってその後妖精達が騒ぎ出すんだよな。


 今度村長に聞いて──いや、やめておこう。

 俺がこの世界で得た教訓は[触らぬ神に祟りなし]だからな。


 ウロウロと歩き回るだけでも結構楽しめるが、流石に女の子である佐倉さんも物欲には勝て無いようだった。


 あれこれと物色しているうちに、いつの間にか佐倉さんが、古着の服を探し始めてる。


 ニコニコしながら服を見て回る後ろをニコニコしながら付いて回る俺は笑顔の中に[佐倉さんは俺の物]オーラを全開にしながら黄色ネズミリスと黒羽根猫と共に警戒を怠ら無い。


 何故ならカップルが凄く少ないんだもん。

 目に付くカップルは若夫婦か如何にも婚約者っぽい大胆さなんだよ!

 だから軽い男女のグループなんて一つも無い。


 だが決して若い男や若い娘さんがい無い訳では無い。


(これは何らかの慣習が男女関係に制約を課しているんだな)


 だから若い男が酒場で手伝っている娘さんの周りでウロウロしてるんだろうな。

 だって稼がないと相手も商売だからお酒頼みに行けないし。

 どうやら娘さん達には売り上げの幾らかが回るシステムのようなんだよね。

 だからみんな恐ろしく愛想が良いんだよ!

 エルザさんみたいに稼げる様になるには習熟が必要になるから真剣に修行するしかない。それでも時間が掛かる。

 どうやら修行中の若い娘さんへの救済措置のようだな。

 男もええ格好したいから必死で稼ぐだろうし。

 まるで程よく管理されたキャバクラみたいだ。

 因みこの村では[夜這い]も──いや、それは語るまい。

 日本からの転生者が純潔主義を打ち砕いた片鱗を垣間見た気がする。


 だが、俺は負けん!



 て言うか、あと年寄りが異常に少ないんだ。


 後で聞いた話によると「生き物は弱った奴から襲われるんだよな」と村長はサラリと言う。

 それが決して姥捨山の類で無い事を心から祈ろうと思っていると、ふと気が付きなるほどと頷く。

 この田園世界には子供を守るシステムと連れ合いを亡くした婦人を守るシステムはあるが、男を守るシステムは無い。

 そこまで豊かでは無い。

 出来ないからやら無い。

 その厳しさを含めて田園生活なのだ。


 そして

 この田園で生きる大人も子供も持っている[村民手帳]には最後にこんな項目がある。


【最後の看取り方】


 この世界での生と死は何処までも生々しかった。


 この世界で人は死ぬべき時に死ぬ。


 それがまるで残された者達への最後の教育であるかの様に


 

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