第五話 家宅捜査①
ふう、やっと書けた( ̄◇ ̄;)
☆
無事に昼食を終えた俺は、どうにも気になる自分の家の問題を解決する事にした。
既に一人限りなく行方不明になっているというのに、どうやら村長は絶賛放置プレイの真っ最中だ。俺は自らの運命を自らの手で切り開くべく行動を起こす事にした。
「他の物件は無いんでしょうか?」
「無いな」
敢え無く玉砕だ。
「大丈夫です! 私も一緒に調べてあげますから♡」
佐倉さん、その笑顔はやめてくださいね。「な、なんか行方不明くらいいいかな」なんて思っちゃいますからね。
仕方無いな。
他の村まではどのくらいかかるのかな?
「ああっ、因みに村の石壁は結界になっていうから、一人では迂闊に外に出るなよ。そろそろやばい魔獣が出る時があるからな」
「…………」
なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。
「……因みに領主の使いの方はこちらには来られ無いんですかね」
「うん、多分明後日位には役人を連れて来るはずだ。何か用か?」
「……いえ……別に……」
「さあ、斎藤さんの家に向かいましょう!」
佐倉さん、その好奇心のベクトルは危険な香りがプンプンとします。
「あ! 佐倉…さんには確認したい事があるんだがな」
「…………」
「……は、はい」
名残おしそうな佐倉さんを置いて、俺は自らの家に戻る事にした。
♢
それにしても佐倉さんは隠れ巨乳だとばかり思っていたがよく見ると全然隠れていないんだなとしみじみ思いながら、「今晩の一緒に寝て下さい」と言う社会人として大変誤解を招く発言が現在も成立しているのかモヤモヤと気になっていたら気がつけば家の前まで帰っていた。
よく考えたら俺はこの世界に来てから佐倉さんの事ばかり見ていた気がする。俺とてこの世界で人生の再起を賭けているんだ! ここは重要な局面だな。それにやはり異世界とは冒険の連続でなければならない。
勇気を持って俺はその扉を開けた。
自分の家だけど
ギィーーッ
……中々の効果音だ。
俺はゆっくりと部屋の中を見渡した。机の上に置いてある契約書を手に取り、ポケットに入れる。こんな物で俺の人生は縛られはし無い
……筈だ
……よく見ると
……この家はかなり広い。
扉を開けると先ずは土間にでる。床は石の様なものが敷き詰められている。そしてどう見ても個人宅としては大きすぎる炊事場。その奥の扉は開かない。
「?????」
土間の床には石の様なタイルの様な物が敷き詰められている。
掃除はしやすそうだな
炊事場を詳しく見ると釜戸が三基ある。洗い場に切り場、大きな箱はタンスかと思ったら開けるとひんやり冷たかった。
「冷蔵庫?」
昔あった氷を入れて冷やす奴がこんな感じだったな。
その奥に向かう戸を開けると食材庫だった。
「……空っぽだ」
何にも置いて無いな。佐倉さんの所にはお茶や調味料もそろっていたんだが、何故だ? やはり行方不明の前任者の所為か?
左手は板間だ。なんと囲炉裏がある! 佐倉さんの所は洋風だがうちは和風だ。しかも古い山間部の日本家屋だ。
あれ?前任者は魔女だったはずなんだが……
謎がさらに深まる。
奥を見ると板間は二つ繋がっているようだ。宴会するならちょうど良いい広さだ。
そして
「縁側がある!」
…異世界に縁側……
…いや、考えたら負けだ。
ただ板間は俺が昔みたのとは少し違う。畳は流石に無いようだが。
変わった間取りだが昔の日本なら普通だな。少し意図が読めない所はあるが
俺は庭に出で見る事にした。
よく見ると畑は四方に広がっている。門が入って来た方は狭いので家庭菜園ぽい。日当たりも良く、水捌けも良さそうだ。
植えてあるのは実野菜がトマト、キュウリ、ナス、根野菜がジャガイモ、タマネギだ。十株ずつ綺麗に並んでいる。改めてよく見ると右手には小川が流れている。これは水路のようで自然の物では無い。水が庭に引き込んであり中に生簀の様な物に水が引き込まれていた。何か泳いでるな……
そして石壁の際には果樹が所狭しと植えられている。どうも防風林の意味もあるようだ。ぐるりと家の周りを取り囲んでいた。裏庭を抜けると果樹の切れ間から畑が見える。緩やかに地形に沿って区画整理されている。
「これが五百坪か…街中からは考えられん土地利用効率だね〜」
かなりの部分は小麦のようだ。春小麦の収穫前って感じなのか、なんだか実りを感じさせる風情だ。異世界なんでわからんけどな。後で村長に聞いて見よう。
改めて家の中に戻り、今度は板間の部屋とロフトになっている部分に向かおうとしたとき…
〈パカンッ!〉
部屋の中に突然音が響く。
「うおっ!」
慌てて音のした炊事場を見ると
〈カランカランカランカラカララララ……カタン〉
お鍋の蓋が転がるのが見えた。
そして…
〈ヒョコンッ〉
「!!!!!」
置いてあった鍋からーー黒い塊りが飛び出して来た。それはプヨプヨとした手足のあるスライムの様な球根の様な不思議な形状をしている。ポトリと床の上に落ちると、テトテトと歩き出し、扉の外に向かって行く様だった。そして…唖然としている俺の横を堂々と通り過ぎて行く
「…………」
俺はガン無視かよ
一度もこちらの様子を伺う事もなくその黒い塊りはテトテトと外へ向かって歩いて行った。
「……おい」
〈ビクンッ!〉ピタッと黒い塊りが動きを止めた。
(言葉は通じるのか?)
「……お前、何してたんだ」
『…………』
俺が「おいっ!」と歩み出した途端……『kkuuql!!!』と意味不明な叫び声を上げいきなりダッシュで逃げ出した!
「あっ! てめえ! 待ちやがれ!」
テトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテト
あり得ないスピードで一気に家の中から外に飛び出して行くのを負けてはならじと追いかける!
テトテトテトテトテトテトテトテトテトテト!
が……「は、はええっ!」ラジコンカーの様に加速するそれは生き物の範疇を超えた速さで器用に植木や花瓶をかわしながら真っしぐらに畑に向かって行った!
テトテトテトテトテトテトテトテト!
庭に飛び出した黒い塊りを慌てて追いかけるが到底追いつきそうに無い。
(な、なんだありゃ?)
〈ポスンッ〉とその謎の生き物は野菜畑に飛び込んで行った。
「…………」
俺はそっと近寄って行く
(巣でもあるのか?)
ニジリ…ニジリッと近寄って行く。警戒を怠る訳には行かない。ここは異世界なのだから
そして
野菜畑を見ると
「えっ?」
何やら土が動いている。
「ええっ⁉︎」
モコモコと盛り上がり
「えええっ⁇」
そして
〈ポコンッ〉
赤い塊りが飛び出して来た!
「!!!!!」
赤い塊りはテトテトと歩いてこちらに向かって来た。敵意は感じられない。ていうか……凄く弱いっぽい。野菜の精なのだろうか?
「…………」
テトテトと俺の足元まで歩いて来た謎の赤い動くカブはポニュとズボンの裾を掴んで来た(友好的だ!)。
そしてジッと俺を見上げている。
(人差し指を出すべきだろうか)
気配を感じふと周りを見回すと…ポコンッポコンッと庭のあちこちから這い出して来た(マジか!)。
『adlleoon! kkuuql!!』『gnooacac?』『haadoymmjj……』「hiikya』
何やら喋り合っている。
全然分からん!
〈クイッ〉
「な、なんだよ!」
いつの間にか十匹近い動く球根みたいな奴らに囲まれていた。しかもカラフルに色とりどりの塊りだ。
「うわ! なんで増えてんの!」
〈クイックイッ〉
そして何故かズボンの裾を引っ張る
「な、なんだよ! 俺が何かしたのか?」
踏んづけて潰した訳でも無いしな?
〈クイックイックイッ〉
「だから何だよ!」
『uukloo!』『tauuu』
そして一匹が先導する様にテトテトと家の裏に歩き始めた。周りの奴等も俺の裾を持って連れて行こうとしている。
「なんだよ、いけばいいのか?」
怪しげな生き物に連れられて俺は家の裏にある大きなミズナラの木の根元に連れてこられた。
そこには
「……これは…お社なのか?」
石で造られたそれは日本にある祠の様だった。
そして奴等の一匹が置いてあるコップを突く。
〈コツン〉
皆んなが突き始めた。
〈コツンコツン〉
そして…
〈コツコツコツコツコツコツ〉
「うざっ!」
『『!!!!!』』
声を上げると奴等は驚いたのかピタッと静かになった。
『『…………』』
「…な、なんだよ……」
少し悪い気になる。
(俺が悪いのかよ?)
すると
『ighhn!』『tauuukkuuql!』『ffkfoom』『uukloo!』
何やら話し合い(そんな気がするだけだが)
一匹が俺の前にやってきてジッと顔を見上げ、そっとコップを指差し、その後コロリと寝転んだ。
(な、何! もしかして生贄のつもりなのか? つまりこいつら食べられるの? いや、食べないけど)
コロリと寝転んだ奴を他の奴等が心配そうにみている。いや食べないから。
よく見てみるとコップの中は汚れていて、苔が生えているように水が澱んでいた。
「……替えろって事か?」
俺はそっとコップをとって井戸に向かおうとして〈ギュ二ッ〉
『UGieeee!』
『『!!!!!』』
コロリと寝転んだ奴を踏んでしまった。口に合わないと判断されたのかも知れない。
ガクガクブルブルと震えながら俺の後をついて来る。
(怖いなら来なけりゃいいのに)
「……ここでいいのかな?」
俺は井戸に歩いていき、水を汲み上げた。トマトが一個冷えている。そういやさっき捥いで冷やしといたな。後で食べよう! て……一個だと? 俺は三、四個は捥いでおいた筈だが? まさか此奴らが? いや、それは共食いっぽいな
奴等は遠巻きに俺を見ている。なんなんだ?
監視の目を感じながら丁寧にコップを洗い、新たに水を汲んだ。
なんで俺が祠の世話を……後で考えるか
〈チャプンッ〉
俺はコップを持って祠に戻った。
今なんか井戸の方から音がしたな……これも後で考えるか
「さてこれで……ん? !!!!!」
いつの間にかさらに数が増えている! 三、四十匹はいるぞ!何処から湧いて来たんだ! さっきの黒い奴はいつの間にか木の上から見下ろしている。おまえフリーダムだな
ワサワサと集まっている球根みたいな奴らは心配気に俺をーー正確にはコップを見ている様だった。そんなに気になるのか?
ジッと見ている……コップの行方を
俺はそっとコップを祠に供えた。
「これでいいのか? んっ」
すると全ての球根みたいな奴等が拝んでいた。
(俺も拝んだ方がいいのか?)
「……仕方ねえな」
俺はーー二礼ピタ二拍手一礼をした。
(神様みたいなもんだからこれで良いんだろ?)
すると
スウッと光りが祠から溢れて来た。
「えっ? 不味い?」
するとーー光りが俺を包んだ。そして声がした(気がした)。
その声はこう伝えて来たようだった。
【この土地に根ざす者達に祝福と恩恵を与えん。末長くこの願い奉り候う】
「は、はい? なんだそれ!」
『『!!!!!』』
『Ooookllf!!!!』『Wwkee!!!!!』『Ghbbbu!』『Pkvuuuvn!』
……なんか大騒ぎになっている。
俺はーー土地神にでもなったのか?