第四十五話 森の探索と言うより散策
第四十五話 森の探索と言うより散策
☆ノルン村 北門
俺は装備を整えて、一番近い水源の森に向かう事にした。
一応、エルフギリィローブとスレイプニルブーツを履き、怒りの鉈を装備し、魔法の鞄を抱え、タクトと[壺]と幻想図鑑を持ち、妖精を引き連れての出撃である。謎の錫杖????は取り敢えず背中に担いでいるが、役に立つかどうかは未知数だったりなんかする。疲れたら杖代わりに使おう。
ただ、幻想図鑑によると、あくまでも道具に近いので攻撃力や防御力は殆ど無いらしい。実際はそのレベルにしてはという意味で、当然その辺の流通品よりは全然違うらしいが、古巨人族や真龍族、悪魔神族なんかと対峙したら即死レベルだと言う微妙にガッカリ装備だとか。
ただ、レア度は五つ星クラスらしい。
如何にも妖精使いらしいと言えば妖精使いらしい装備と言えるだろう。何気にAF級のジョブ専用装備を手に入れたつもりだったが世の中そんなに甘くないな。
村の出口まで来ると、周囲が意外と深い森なのに気が付く。ずっと村長とペアを組んでいたので改めて見たが、結構分厚い木の門だ。
「これが結界になってるのかな?」
何気に門の石柱には魔法文字と魔法円が刻印してある。この辺か異世界っぽいな。何も感じ無いけど。
周囲に意識を巡らし気配を感じようとしたがやはり何も感じ無い。あまり才能は無いんだろうか?
微妙に残念だ。
これでチート能力者なら触れただけで結界を打ち破ったりするんだろうな。まあ、妖精使いとはレアだけどそんなもんなんだろう。その代わりに果物の収穫やカルマモンスターを狩れるんだから、痛し痒しと思う事にしよう。
ただ、何気にノルン村は異変が多い気がするが……
♢ミズナラの森
ノルン村の北門を抜け、そっとミズナラの森に入り込むと、そこは田園とは違う湿った空気が充満している様に思える。
保水力の高いミズナラやミズブナが生い茂り、踏むとまるで絨毯の様だ。これが森のダムと呼ばれる由縁なんだろう。キュッキュッと鳴るのが面白いのであちこち歩き回ってみる事にした。
「緑色妖精♪ さあ、食べれる物を♪ 探してくれ〜♪」
[壺]から八匹の緑色妖精を放ち、周囲を散策させる。後で聞いたら、キチンと探す物を指定し無いと効率はかなり悪いらしい。何事にも下調べは重要だという事だろうな。
テトテトと歩き回る緑色妖精はそれでも時折何かを見つけ出すが、どうもミズナラの森に生えるのはイチゴの仲間、低木であるベリー類が主のようだな。赤系のラズベリーとクランベリー、紫系のブルーベリー、黒系のブラックベリー(カシス?)等が所々に生えている。持って来た袋に色事に分類させると、一時間に三袋位にはなった。
これでジャムでも作ろうか?
そしてふと見ると、森の奥からコンコンと水が流れる小川がある。
これがいわゆる森の湧き水なのだろうか? 試しに飲んでみると凄く澄んだ味がする。森が溜め込んだ水が自然と溢れ出るらしいが、この水は中々凄いな。
「水色妖精♪ さあ〜小川の中を探して♪ ちょうだい〜♪」
さらに水が得意な妖精を放ち小川を調べる。
おそらくあの生えてるヤツはーー見覚えがある。
水色妖精が引っこ抜いて来るのを手に取ると、やはり間違い無い。
「……野生のクレソンだな」
試しにシャクッと囓ってみると口の中に広がる微かな苦味が心地よい。如何にも野趣に溢れた味だがシャキシャキッとして結構いける。
「水色妖精♪〜クレソンをもっと取って来い〜♪」
転生者も流石に野生のクレソンの事は知らなかったのかもしれないな。俺も写真でしか見た事が無い。
水温も割に低いようだし、もしかするとお宝があるかもしれんな。
どれ、水源の湧き水まで行って見よう。見た所小川周りは同じミズナラの森の中とはいえ、少し植生も違うようだ。
人も余り来ないのか、草深いのが大変だが[錫杖????]で草を払いながら水源を目指していると、結構クレソンが見つかった。水色妖精は急な流れを物ともせずワタワタとクレソンを摘んでくれる。何気に楽しそうなのはキッと遊び感覚なのだろうと思うが、本当のところは謎のままである。
♢森の泉
三種類のベリーと野生のクレソンを回収しながら湧き水を目指すこと一時間、ようやく旅の終わりが見えて来た。
巨大な岩の根元に池が広がっている。まるで大地を穿つ楔の様な岩の根元から懇々と水が湧き出しているのが見える。高い透明度は青い水を森の中の光の加減が段階を経て緑へのグラデーションを作り出していた。
「岩が水を湧き出させてるみたいだな」
しばし眺める。
深い森の中に広がる池には古い古木が沈んでいるのが見える。かなりの水深と透明度があるからの不思議な光景にジッと立ち尽くしているとーーどこからか声が聞こえて来た。
「ちょっと! あんた! 良いところに来たわね!」
気の所為だな
「なに無視してんのよ! 聞こえないの!」
気の所為ったら気の所為なのだ!
「……森の呪いを掛けるわよ……」
そう来たか
安心して油断してしまった。
「……分かった。話を聞こうじゃないか」
『kolekole! tabelelu???』
「おおっ! やっぱりあったか! 野生のクレソンがあるくらいだから野生の山葵も絶対あると読んでたんだよね!」
「あんた! 話を聞くんじゃ無かったの! やっぱ呪うから!」
「わあっ! まってまって! 落ち着いてくれ!」
俺の目の前で堂々と呪いを掛けようと企んでいるのはーーファンタジーでは同じみの森妖精だった。
目の前には木から生えた美少女が不貞腐れて座ってーーいや生えている。その目からはあからさまな不満が伝わって来るのだが、つまりそれはーー
「貴方に崇高な使命を与えるから感謝しなさい!」
なんと言う上から目線
俺の知る森妖精はもっと奥床しい高貴な存在だった筈だが、目の前の森妖精はどう見てもはすっぱだ。
そうだ!
こんな時こそ妖精王のタクトの出番だろ!
「俺は忙しい♪から♪〜勘弁して〜♪」
「いやよ! 呪うわよ!」
無念、レベルだけは遥かに高かった様だ。
「私は森の木の妖精の中でも数千年に一度しか生まれない魔法樹の妖精なの! 私の名はレイリィ! さあ、私を助けなさい!」
「……助けるの?」
「そうよ!」
「……誰が?」
「あんたしか居ないでしょ!」
「…………」
「…………」
「……嫌だと言ったら?」
「……呪うわね」
即決かよ。しかも選択肢無しかよ!
そして、俺はまるでワンクリック詐欺の様な森妖精に出逢った。
「呪うわよ」
どうも大変性格の悪い妖精らしい。




