第四十四話 村民手帳
第四十四話 村民手帳
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当初の予定では今日人喰いグマの回収を行う予定だったが、レンジャーの帰還を待つと村長が予定を変更したのだが、どうやら予定よりかなり早く戻って来た様だ。
苦々しい顔をした村長が開口一番
「龍泉に向かう。斎藤もその一員に加わって貰うぞ」
あれ? 顔がマジだな
「何かまずい事でもあったんですか?」
出来れば参加したく無いな。蛍狩り並みに危険な匂いがするんだが
「いや、そこまででは無いが、斎藤の妖精は探索にも役に立つからな。それにもうすぐ春小麦の収穫が始まる。それ迄にはケリを付けねぇとな」
そういや街からも人を雇うとか言ってたな。ノルンも賑やかになるんだろうか? 楽しみと言えば楽しみだな。
「その時に春の収穫祭があるから、斎藤と佐倉をノルンに正式に村入りしてもらうからな。まあ、楽しみにしておけ。といっても人口春三百人くらいなんだけどな」
「は、はい。よろしくお願いします」
三百人か……多いのか少ないのか分からないけどな。
実際村の中心部には行った事が無いから規模がよく分からん。お店もあるらしいし、エルザさんのような生産職のスペシャリストもかなり居るらしいし、何気にノルン村は色んなジャンルでトップブランドを保有していると言う。
侮れんな
ノルン村恐るべしだ。
「ただ龍泉に向かうには準備に時間がかかる。恐らく四,五日は掛かるからまた連絡するからな。そのつもりでいてくれ」
「は、はあ(限りなく行きたく無いが)」
「そして、明日滝壺に向かうぞ」
「クマの回収ですね」
「その時、戻せるなら水神様を滝壺に戻すからな。やはり人里に置いておくのはあまりよろしく無いからな」
ですね。
生簀のお魚が全滅してしまいますよ。
「それで! 村長、是非周辺の地図をいただきたいんですが」
「……どうするんだ?」
「はい、薬草とか木の実とかの採集をしてみたいのです。俺の妖精使いの力って、やっぱり採集と相性が良さそうなんですよね」
狩りは一人ではやりたく無い。ノルン村周辺はヤバい気がするんだよな。そして佐倉さんと二人で森の中にデートがてらに薬草摘みなんて最高だからな。
村長は少し悩んでいたようだが
「……少し早いかもしれんが、斎藤も妖精使いだからな。村の中でジッとしていては佐倉と逢引もままなるまい」「!!!!! な、なんでそれを!」
「……あのなぁ、佐倉が薬草の仕事をしたいと言い出したその日に、村の外に薬草を摘みに行く為の準備を始める。バレバレだろうが!」
顔に似合わず村長は読みが鋭い様だ。その通りだけどな。うん。
「地図は貴重品だからな。後で持って来てやる。まずは近くの森の中で妖精を使う訓練をして、それから採集に向かうんでな。それとコレをやるから、よく読んでおけ」
そう言って村長は本を一冊手渡して来た。
その本にはこう書かれてる。
「[村民手帳]? これは?」
「お前がこのノルン村で生活する上での記録をとるんだよ。それが翌年からの役に立つからな。あと簡単な年間行事予定やお知らせも書き込まれるから普段からよく見る癖を付けておけ」
「はい、了解です」
「因みに明後日には村に商人が来る。その時に[フキ]の買い取りも行うから、斎藤と佐倉にも初めての現金収入になるからな。楽しみにしておけよ」
そう言って村長は帰って行った。
そうか、商人が来るのか。フキの事をすっかり忘れてたな。[村民手帳]にはちゃんと商人の来る日が記してあった。なるほど、何グループも巡回しているようだな。平均すると月に四,五回は来ているようだ。結構頻繁なのかな?
ふと良く考えたら俺はこのノルン村がイブリース王国の何処にあるかも知ら無い事に気が付いた。大丈夫なんだろうか? 大丈夫だよね? 気にしたら負けなの?
とは言え時間は有限だ。
俺は一通り野菜畑と果樹と小麦畑を見回ってから、近くの森に行ってみる事にする。お供は風妖精と黒色妖精、それと緑色妖精と水色妖精、あと赤色妖精の妖精を連れて行って見よう。
そうだな、離れると怖いからオチボの森の手前、水源になっているミズナラの森をぐるりと回って見よう。あそこならモンスターなんか出無いだろうからな。
♢野菜畑
キュウリはまだ反応が無い。近くを妖精達がウロウロしているのは、タネを感じているのかも知れ無い。
トマトは健在だからしばらくは安心だろう。ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、ナガネギもまだザワザワしてる。暫くは安泰だな。
どうも一家族五株つづあれば十分過ぎるようだ。佐倉さんには十株いるかもしれ無いが。佐倉さんの家に食料がいっぱいあるのはその辺を見越しての事だろうか? 中々の慧眼だと言わざるを得まい。因みにうちの家の食在庫が空っぽだったのは黒色妖精の仕業だった。ユニークスキルの[ダーククローズ]で取り込んでいたのだ。食べる訳でも無かったようだが、妖精のする事にはやはり分から無い事が多いな。
♢果樹
「……梅が色付いてるな」
夏ミカンを収穫してから放置していたが、順次身がなっている。六月はウメが収穫出来そうだ。残念ながらスモモは採り時を逸してしまい鳥の餌になってしまっていた。
因みに実る順番は、ミカン、レモン、サクランボ、キウイ、夏ミカン、スモモ、ウメ、モモ、ナシ、ブドウ、リンゴ、クリ、ラフランスと続く。取り敢えず毎月何かがなるようにしてあるらしい。ブルケは中々食いしん坊だったようだな。
もしかすると蔵の中には果実酒が仕込まれているかもしれない。嫌な予感がするが、やはり入って見るしか無いようだ。村長を騙して送り込むのも有りか……
♢小麦畑
ノルン村における小麦畑は株式の様なもので、完全に個人が所有しているのでは無いそうだ。理由は、灌漑とかで農業用水を共同で引いたり、開墾を皆でするし、家族だけでは出来ない仕事を経て小麦畑は出来ているし、さらに村所有の小麦畑もあるので、あくまでも管理を担当しているという事になっているらしい。
これは昔の日本における失敗を反省しての事だそうだ。持ち込んだのは日本からの転生者だとか。だからこの村には農家同士の格差は小麦畑においては殆ど無い。村の役席に応じて加増はあるが、その分手間が増えるのでその辺は納得しているみたいだ。
因みに家族が増えるとその分割り当ても増える。これは村の人口を減らさない為の措置らしい。子供手当て見たいなもんかな?
だから俺がこの村に来たばかりでも小麦畑から収入を得られるのだ。因みに管理を委託するとその分は差し引かれる事になっている。これはお年寄りの為の措置で、誰でも皆年をとるからこの辺も納得しているようだ。
当然俺と佐倉さんも差し引かれる事になる。
ただ、これは豊かなノルン村だからこそ出来る事なので、貧しい寒村ではこうはいかず、やはり奴隷や農奴と言われる弱い立場の人達はかなりの数が居て、このイブリースの社会を底辺から支えている。いずれ地球のようにその問題を克服する時が来る事を祈るばかりだな。
因みに村長からある程度ばかり小麦畑の事を習ってはいるが
「うん、よく分かんない」
取り敢えず実ってはいるようだが。
大丈夫だよね?
俺が土地神代行を襲名してから作物が良く育つ様になったらしいからな。採り入れが楽しみだな。人も多く雇って賑やかになるらしいからな。
吹く風に揺れる麦穂はザワザワとまるで波打つ様にノルンの丘を包み込んでいる。その間を縫うように水路が巡り、幾つも家が点在しているこの田園風景は、やはり日本とは違う雰囲気を醸し出している。
この風景こそがノルンの人達が大自然の中から勝ち取った生きる砦だと思うと少し感慨深いものがあるな。そして俺と佐倉さんもこれからこの村を支える力の一つになるのか。
「さて、では森に入るか」
俺は小麦畑を後にして森に向かう。
ノルン村での生活はまだ始まったばかり、きっとこれからがヤバいんだろうなと、ふとIターン面接の時のおばさんの言葉を思い出した。
(その言葉通りになったよ)




