第四十一話 魚を獲ろう②
れからもこんな地味な冒険が続出します!
(=゜ω゜)ノ
第四十一話 魚を獲ろう②
☆
その時ーー3m近く空を舞った村長が、水深50㎝の小川に、明らかにオーバースペックな身体能力を発揮して落下して来た。
「うおおおおおっ!」
〈ザブウウンッ!〉
「「!!!!!」」
「どりゃあああっ!」
津波の様に水面が盛り上がり、慌てて逃げ惑う魚を村長が木の枝を水の中でかき混ぜながら俺と佐倉さんと待つ網元に追い立てる!
どう考えても掛け声は必要無い気がするが、それが村長らしいとしか言いようが無かった。
〈ザブンッザブンッ〉と掻き回す木の枝に追い立てられた魚が我先にと網の中に飛び込んで来る! キラキラと鱗が光るのが見え、網に魚の手ごたえを感じる。
「!!! 獲れてます! 斎藤さん! 大量ですよ!」
喜ぶ佐倉さんは初めての魚獲りに興奮気味に話しかけて来た。
「斎藤! 網を上げろ! 逃げられるぞ!」
「!!! は、はい!」
「!!! ふぁい!」
慌てて網を上げるとズシリと重い。何やら網の中を泳ぎ回っているぞ! 俺と佐倉さんは顔を見合わせ「やりましたね!」「大量ですね♡」と讃えあった。
すると何気に目が血走っている村長が網の中に手を伸ばし、魚を説明し始める。
「ここは渓流じゃ無いからな。いるのはオイカワ、カワムツとかだな。おおっと、大物がいたぞ!」
少し虹色がかったオイカワに青みがかったカワムツが二十匹ほどと、村長が大物だと言って掴んだのは
「!!! それはウナギですね!」
「そうだ! この辺では少ないが、時々こんな小川に昇ってくるんだよ。小魚の中にたまに混ざると嬉しいんだよな」
村長がウネウネと黒いウナギを掴んで見せてくれた。大きさは1m近い大物だ。これで四,五人分は十分あるらしい。元の世界のウナギよりもっと太い感じで食べ応えありそうだ。
佐倉さんの目が半端無い集中力を発揮している。
「私、ウナギは大好物なんです!」
村長曰く、時々は大きなナマズが獲れたりもするらしい。意外な大物がここ小川でやる漁の醍醐味なんだそうだ。
「じゃあ、次は斎藤がやってみろ」
「無理っす!」
俺は3mも飛べないから
「じゃあ佐倉やってみろ」
「いや、俺がやります」
ここで佐倉さんにやらせる訳にはいかない。でもどうやって飛ぶかだな。そうだ! ライノを呼んで来よう。
俺はタクトを振るいライノを呼び寄せる。そういや妖精使いなのを忘れてたわ
♢♢♢
『で、ボクがマスターを担ぎ上げて、落とせば良いんですね?』
「うむ! ちょうど小川の真ん中くらいに頼むよ」
いかなライノでも長時間飛行は難しいのだが、少し浮かばせるくらいなら何とかなるのだ。
『ふぬぬぬぬぬっ!』
舞い上がるーーとまではいかないが必死に川の真ん中に運ばせる。
「ほい! ちょい右! もうちょい!」
この辺で良いだろうか?
「よし! もう少し上に!」
『ふぬぬぬぬぬっぐぬぬっ!』
あれ、結構大変そうだな
「よし! 投下!」
『はひぃ!』
ライノも限界だったのかポトリと落とされる。てか3mって結構高いな
「どりゃああああっ!」
〈ザブンッ!〉
小川の中央に飛び降りた俺は一気に木の枝を水中で掻き回しながら下流に向かって追い立てて行く!
「ぬぬぬぬぬぬっ!うわあ! 結構疲れる! 水の中の抵抗半端無い!」
「斎藤! ちゃんと川の端から端までかき混ぜるんだ! 逃げられるぞ!」
「は、はいぃ!」
「斎藤さん♡ 頑張って下さい!」
「よっしゃあああああっ!」
「……掛け声ばっかりだな」
ほっといて下さい!
小川といえど護岸整備されている訳では無いので、周囲の草の中に侮れ無い獲物がいる時もあると言う。それを取り逃がさない様に木の枝で攫う訳だ。えらい疲れるが
すると、何やら手ごたえがあった。木の枝に何かが引っかかり網の中に転がり込んで行く。これは噂の大ナマズかウナギの親玉かもしれんな
「斎藤! あと少しだ!」
「ふ、ふぁい!」
「斎藤さ〜ん! あと一かきですぅ!」
「!!! は、はい!」
佐倉さん、今の少しエロいっす!
「ぬぬぬぬうっ!」
やっと5m進むのにやっぱり村長の三倍近くかかった。これが転生者の現実だな
「んんっ? どれどれ……おおっ!結構取れてるぞ!」
「凄いです! 大量ですう!」
「ほほう⁉︎ 中々ですか?」
網の中を覗いてみると、流石に村長には敵わないがそれでも結構いるな!
じっくり見ると、黒いウナギが絡まって丸くなっている。これは当たりか?
「やった! ウナギが絡まって丸くなってますね!」
「ええっ? そんな事は無いーー」
俺はその黒いウナギの塊を両手で掴んで引き上げた。
「ねえ! ウナギでしょ! ほら舌がチロチロと……舌が?」
「ばっ、ばか! それは蛇玉だ!」
「!!!!!」
「!!!!!」
その時ーー俺は気が付いた。人間ってビックリしたら動けなくなるんですね。
非常に残念な事に、俺が水中から引き上げたのはーー確かに細長い生き物だったがーーウナギでは無く蛇だったのだ。しかも蛇の塊
「うぎいいいいいっ!」
「きゃあああああっ!」
「お、落ち着け! 二人とも落ち着くんだ! それは毒の無いアオダイショウだとーーあ、マムシが混じってる」
「!!!!!」
「!!!!!」
「そ、そんちよう、た、助けてくだはい!」
「ま、まて! 落ち着いて捨てるんだ!」
しかし手が硬直して振り払う事が出来ない。
「ひぃいいいっ!」
ウネウネと蠢く蛇の塊に佐倉さんも半失神状態になっているが、それでも網を離す事は無かった。佐倉さんもノルン村な馴染んだと言う事だろうか
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ノルン村風物詩
※蛇玉
アオダイショウやヤマカガシ、カラスヘビなどの蛇が五,六匹絡まって玉の様になっているモノで、増水した後などに小川に仕掛けた網に掛かっている事がある。今回は珍しい例だ。マムシが混じってると破壊力は倍増する。
見つけると幸運ーーがやって来る訳は無い。微グロ
絡んだのを解いてやると後からお礼が届くと言われている都市伝説では無く田園伝説が有る。
きっと発信元は蛇組合だと推察される。
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格闘すること数十秒、村長がマムシをものともせず鷲掴みにして投げ捨てた。まあ、ものともせずは少し言い過ぎで、顔が青ざめていたのは仕方ない事だろう。
「はぁ…はぁ……はぁ…」
「ふぅ…ふぅ………ふぅ」
「ひっくっ……ひっく…」
三人は放心状態になって立ち尽くしていた。何気に佐倉さんは半べそになっている。ビジュアル的にもかなり厳しかったのは間違い無い。てかマムシは勘弁してくれ
ちなみに現在の獲物はウナギが一匹にオイカワとカワムツが合わせて四十匹程だ。
晩御飯のオカズ位にはなるが
「どうする? 佐倉、まだやるか?」
村長は精神的ダメージの大きい佐倉さんを心配しているようだ。俺ならスルーされるだろうが。
佐倉さんはどうするつもりだろうか? あまり無理は
「やります!」
「……やるのか?」
「……は、はい!」
「よし、ではやってみるか」
やるな佐倉さん
この意気込みは決して食い意地だけでは無いだろう。いや、かなりウエイトは大きいだろうが、その根源にはこの村で生きる決意なんだろうか。だからーー引く訳にはいかないんだ。
「では次は佐倉が追い子役だ! やれるな!」
「……や、やれます!」
「……佐倉さん…わかりました! 網元を務めさせて頂きます!」
「はい…お願いしますね!」
さあ、第三ラウンドだ!
そう言えば、前に村長が言っていた事がある「佐倉はどんな事があってもこのノルン村を出て行く事は無い」と。
その理由を、いつか聞ける時か来ればいいな。
木の枝を両手に持ち、ライノに運ばれて行く佐倉さんの勇姿を見て、俺は必ずその時が来るまで側にいようと心に誓った。




