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薔薇色の異世界田園生活  作者: 菜王
序章
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第三十九話 村の長老

第三十九話 村の長老



 宴会の翌日、ノルン村のお社に長老と呼ばれる人達が集まっていた。そこには当然村長もいる。

 そこには香が焚かれ、村の奉る神様の祭壇が置かれている。戸を固く閉ざし、光の入らぬ本殿のさらに奥、奥ノ院に村長と長老達は集まっていた。


 長老と呼ばれる人達は村の役職に就いた人達の事で、年を取ったから長老になる訳では無い。ただ、やはり年を経た分知識は豊富だと言う事なので、それ以外の人は相談役と呼ばれる事になる。

 長老とは知識と経験、それと村の役職を歴任したと言う責任感を持った人達だけがつく事が出来る大変重要なポジションなのだ。

 そして村長も今日は相談を持ち込む事になる。



「長老に是非話をしておかねばならない事が出来たので、今日はお集まり頂いた」

 今日は六人の長老と若衆と呼ばれる若者の代表が集まっていた。案件は水源に関する事だが、もう一つは斎藤の家の生簀におわす水神様の事である。

 昨日村の若衆総出で周辺の水源を探って来たので、その報告も合わせて行われ、今後の対策を協議するのだ。

「で、結局水源は何処がダメになっておったんじゃ?」

「ああ、じゃあエドワルド、報告を頼む」

 屈強そうな若者が立ち上がる。体躯は村長よりも細身ではあるが、その身体は鍛え抜かれているのが服の上からも分かる。

「はい、周辺の山を調べたところ、やはり全体的に水が減っているのは間違いない。だがこれといって原因は無かったそうです」

「ほう、ではやはり」

「そうじゃの、やはり村長の言う通りーー」

 村長は腕を組み、地図をジロリと睨みながら答えた。

「間違いないな、オデオン山脈にある龍泉、そこの水神様が下の沢に降りて来ていた。そこに何かあるんだろうな」

「じゃが村長、まだ龍泉に行ったわけでも無いし、生簀に放ったと言う水神様も龍になられ、啓示をなさった訳でもあるまい? その判断は早計では無いかの?」

「山の中で、人喰いグマに襲われた」

「「「!!!!!」」」

「人喰いグマ……じゃと?」

「間違いないのか?」

「ああ、転生者、斎藤が妖精を使い滝壺に沈めてある。そろそろ浄化出来ているだろう。明日には回収に向かう予定だ」

「……斎藤が仕留めたのか?」

「ああ、あいつはブルケですら出来なかった複数の属性を持った妖精を平気で扱う。それに奴は土地神の代行者でもあるからな。近来最高の妖精使いだな。恐らくは元の世界でも、いずくかの世界から辿り着いた漂泊の民の末裔かも知れん」

「それほどか」

「まあ、何気に佐倉にご執心のようだが、まだ夜這いをかける勇気は無いようだがな」

「ほっほっほっ、まあ村長の様に手当たり次第も収拾がつかなくなったて命懸けになるからの」

「そうよ、あの時乗り込んできた親父さん達の強さは神の加護も打ち壊す凄まじさじゃったからの」

「ぶぶっ! あ、あの親父さん達の事はもう解決したんだからな! わ、若気の至りだ! もう時効だからな!」

「それより、その人喰いグマを」

 若衆と呼ばれるエドワルドは呆れながら話を戻そうとしていた。何気に苦労人っぽいその若者は地図を指差し

「村長が向かわれたオデオン山脈の龍泉はココ、その手間の沢ならばかなりノルン村に近い。そこまでレンジャー達の監視網を潜り抜けて来るなど考えらません」

「そうじゃの、で、その人喰いグマのレベルは? 魔力を宿しておったのか?」

 村長は苦々しい顔で答える。

「四つ手になってたな。そして体躯は4mを超えていた。そして邪霊の類も憑いていたようだ」

「「「!!!!!」」」

「信じられん、少なくとも三十人は喰ろうとるぞ!」

「しかも高い霊力を持つもの犠牲になっておろう」

「だがそんな報告は近辺では無かった」

「「「…………」」」

「……ではお山の向こうから?」

「……それは早計じゃろう。何者かの手引きかもしれん」

「……だが、このままには出来ん。一人レンジャーを送り様子を見させて来る。明日クマを回収して来るから、その二つの情報が必要になる」

「ふむ、またぞろややこしい事にならねばよいがの」

「じゃが、斎藤はどうなよじゃ? 先だって水ガエルが暴れておったのも原因は斎藤では無いのか?」

「……黒い魔石があったからな」

「またあの石か」

「やれやれ、人の業とは尽きぬものよ」

「まあ、今の所は様子見だろうな。斎藤も普段はただの素人転生者だ。まさに人畜無害の典型のような男だがな」

「ふむ、まあ佐倉やエルザの双子の娘、リリスとエリスも懐いておるようじゃし、これからに期待と言う所じゃな」

「うむ、で、今の所だが、村の結界を一段階上げておいてくれないか? そうだな、もうすぐ春小麦の収穫があるからそれまででいい」

「やれやれ、人使いが荒いのお」

「何言ってんだ! あんたらも先代達に散々やらしてたんだろうが!」

「あと供物ももう少し考えんかい。代わり映えせん!」

「ばかやろう! これは何百年も続いてきた伝統なんだよ! 様式美なの!」

「これだから今時の若い者は」

「そうそう、やはり新しい考え方を取り入れんとの」

「ああっ、わかった! エンヤ婆に言っておく! それでいいな?」

「「「頼んだぞ!」」」

「ではまた頼む」

 そう言って村長は暗い室内に立ち込めている香の器【香炉 叢雲】の蓋を閉じた。すると掻き消す様に長老達の姿が消え、後には村長とエドワルドだけが残されていた。

「相変わらずお元気そうですね」

「ふん! 何百年もよくやるわ!」

「まあ、これもノルンの伝統ですからね」

「おい、分かってるのか? 俺もお前も同じ運命なんだぞ! まったく、厄介な話だぜ」

 そう言って二人は立ち上がると、部屋の戸を開け放った。光が差し込むとその奥ノ院の入り口に一人の老婆が座っている。

「バァさん! こんな所で寝てると風邪をひくぞ!」

「わぁっ! な、なんじゃい! 年寄りを脅かすんじゃないよ!」

「長老達が供物を新しいのがいいとよ」

「なんじゃ! 罰当たりな奴らじゃの」

「まあ、出来る範囲で変えてやってくれ」

「ふん、まあ考えておこうかの」

「ああ、頼む」

「で、どうじゃった?」

「やはり龍泉に乗り込む事になるかもな」

「……ふむ、あまりよろしく無いの」

「ふん、何時もの事だ」

「まあ、お主が三人の親父さんらに殺されそうになった時よりはマシじゃの! あの時は村の結界が素通りされて長老も青ざめておったからの」

「!!! だ、たからそれは済んだ事なんだよ! 昔だからな! 大昔!」


 何気に年寄りとは物忘れが激しいと思われているが、それは本人の損得により取捨選択されていると、若衆頭であるエドワルドは確信を持った。そして決して自分は同じ過ちを犯すまいと心に誓うのであった。



「さて、斎藤をまた連れていかねぇとな」


 村のお社からオデオン山脈を睨みながら、村長はそう言って長い石段を降りて行った。

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