第三十五話 ノルン村の夕焼け
や、やっと十万字を超えました( ̄◇ ̄;)
第三十五話 ノルン村の夕焼け
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村長と斎藤の沈黙が終了してから、おもむろに斎藤が質問を始めた。
「村長、その水神様がすむ湖にはこれから辿りつけるんですか?」
「いや、今日中には無理だな」
「じゃあ今から送り届けるのは難しいですよね」
「流石にな」
「では取り敢えずうちの生簀に仮住まいしていただいて、クマを取り出してから再度ここにお運びするのはどうでしょうか?」
「……そうだな!」
「でしょ!」
そして二人は取り敢えずノルン村に引き返す事になった。アクリアに回りを水塊で包み込ませ、風の妖精であるライノに飛んで先行させ、生簀に入って頂く事にした。
俺と村長も合わせてノルン村に向かう事にした。村長曰くこれはかなりの異常事態らしく、よって村の長老に意見を聞く事にするらしい。
「斎藤、取り敢えずこれは他言無用だぞ。不安だけを煽っても仕方ないからな。すべては村の長老の意見を聞いてからだ」
「因みにその龍泉があると言う上流の湖までどの位かかるんですか?」
「片道二日はかかるな。五日は見ておかないとダメなんだ」
俺は決してそのアタックチームには入らない事を心に誓った。人喰いグマやオークも怖いがその山道が一番怖い。てかマジで死んでしまうから!
♢
帰り道、沢の途中で遅めの昼食を取りながら麓を見下ろすと、余りにものどかな田園風景が広がり、さっきまでの死闘が信じられ無いほどだった。そしてまだ異変は解決していない。
俺は不安を打ち消すように今日の打ち上げの事に意識を集中する事にした。
ただ言える事は一つ。山の水は全体的に減っているようだった。そしてこの二つの沢もかなり減っているらしい。
「また…来る事になりそうだな」
村長がそう呟くのを俺は聞き逃さなかった。
♢♢♢
二時間程かけて周囲を探索しながら村に帰って来た俺達は、門の所で心配気に待っている佐倉さんと村長の三人の嫁に迎えられた。エルザさんは俺の家で火の番をしているらしい。
「おかえりなさい、斎藤さん」
「ただいま帰りした」
村長から他言無用と言われているので少し緊張する。佐倉さんからも気になるオーラが出ているが敢えてここは話を振り直してみよう。
「結局また山に登る事になりそうです」
「やっぱりそうなんですね? サラさんがどうやら探索隊を編成する事になりそうだって心配してました」
うん、あの人にはバレるだろうな。他の村人がどんな情報を集める事が出来たのか気になる所だが、村の雰囲気から察すると、死人や怪我人が出た様子が無い事だけでも良しとすべきなのかも知れない。
「で、斎藤さん」
佐倉さんがやけに真剣そうだ。何事かあったのか?
「生簀に川の主と思しきお魚がいらっしゃるのは何かのお祝いに使うんでしょうか?」
「ぶふっ! み、見たんですか!」
「ふふふ、ライノちゃんがフラフラ運んで来たのを見つけたんですよ」
し、しまった! 一番食い意地の張った人に見つかってしまった! そうか、佐倉さんには白いフクロウとか居るからな、何気に索敵能力半端無いんだよな。てかあれは水神様だからな。きっと食用じゃ無いはずだ。
「佐倉さん」
「はい! なんでしょう⁉︎」
「あれは観賞用なのですよ」
「!!! そ、そうなんですか!」
嘘では無い。食べたらバチが当たるだろう。
「……ええ、大変珍しい品種らしいですよ(だって水神様だからな)」
「……そうなんですね」
えらく残念そうだな。確かにここは山の中だから新鮮魚介は貴重品だ。佐倉さんの食い意地がヒートアップするのも当然だ。妖精に見張りをさせる必要があるかも知れ無い。てか、本当に食べ無いで下さいね。なんせフードファイターの疑惑もあるからな。
後ろから歩いて来る村長と三人の嫁は、何やら真剣に話し込んでいる。この村で生きる夫婦とは正に一心同体でなければなら無いんだな。三人の嫁達もなんのかんの言ったって村長が帰って来て嬉しそうだ。だからこそ村長も身体を張って村を守るんだろう。
今までてっきり男が女や子供を守るのは義務なのかと思っていたが、それは違うようだ。もっと単純に嬉しいからなんだ思う。村長の笑顔はきっとあの三人の嫁が作ってるんだろう。順番とか複雑そうだけど
「ちゃんと三人のお嫁さんを守ってる村長さんて凄いですよね」
「ですね、何気に恐ろしく幸せそうだ」
「三人ともちゃんと村長さんを支えてるんですよね〜なんだか羨ましいです」
「!!! そ、そうですね」
そう言う佐倉さんの手には新しい絆創膏が幾つか貼ってあった。この世界で生きるとは色んな事の積み重ねであり、そこに生きる人に奮闘を要求するのが常のようだ。俺の山の中の激闘もその一環なのだろう。どんどん激しさを増していってる気がするが
「チュウ?」
すると草むらから黄色いリスーーいやネズミがチョロチョロッと走り出して佐倉さんの身体を駆け上って行った。
「パニャ! 何処に行ってたの?」
嬉し気に佐倉さんの身体を走り回るその黄色いネズミは佐倉さんの二つのお下げ髪に隠れながらじゃれついていた。
「よっぽど佐倉さんのお下げ髪が気に入ってるんですね」
「ええ、いつも頭に乗りたがるんですよね。寝てる時もまとわりつくから下敷きにしそうで怖いんですよね」
そう言って屈託無く笑う佐倉さんはいつも質素な服装なのに、時折ポヨンと揺れるふくよかな二つの膨らみが破壊的なエロスを直撃させて来る。
(犯罪的だ)
そして恐ろしく括れた腰と反比例するようなヒップラインにどうしても視線を引き寄せられてしまう。
(疲れてる時には目の毒だ)
これがグラビアアイドルみたいに直線的なエロなら処理のしようもあるのだが、日常の中に織り交ぜられると不意打ちを喰らいダメージが倍くらいになっている気がする。
恐ろしい事に、この数分間の佐倉さんとの接近だけで、今日の疲れを忘れてしまう程の活力を得た気がするのは決して気の所為では無い。これが若さなのだろうか? 人類の子孫繁栄のメカニズムを垣間見た気がする。
そして家に近付いてくるとエルザさんが手を振っていた。
「おう! どうだった! さあ晩御飯だよ〜!」
「!!! はーい! 今手伝いに行きまーす!」
そう言って佐倉さんはパタパタと走って行く。夕焼けに包まれる小麦畑の中の小道を二つのお下げ髪を揺らせながら走って行く佐倉さんに俺は目を離せなくなっていた。
この村で佐倉と共に生きる事に、俺は大切な価値を見つけたようだ。俺はこの村の為にどんな苦労をしてもきっとそれを相殺する理由を見つけ出せるだろう。これが人が生きるという事なのだろうか?
今の俺にはその答えは分からないが、確かに大切な誰にも譲れ無い何かが胸の奥にあるのを感じていた。
「……佐倉さん……んっ?……あれ?…………お下げ髪が復活…してる?」
小さくなる佐倉さんの肩には、確かに二つのお下げ髪が揺れていた。
「……………………」
それはきっと俺が土地神代行になったご利益の所為では無い。




