第三話 異世界の田園風景
ふう、やっと繋げた
☆
「どうぞ、こっちですよ」
女子大生の佐倉さんに案内され、俺はお隣さんに伺う事にした。お隣さんと言ってもかなり距離がある。五十メルはあるだろうか? 丘の上をゆっくりと曲がる道は石畳になっている。そしてあちこちに良く見れば家の屋根が見え隠れしている。
「いい風が吹くなあ」
小麦畑を吹く風には畑の匂いと言うか土の匂いが混じっている感じだ。
「山裾に近いし、なだらかな丘陵地帯ですからね、風が通り易いのかもしれませんね」
二人でテクテクと丘の上の石畳を歩いていると時間の概念が変わってしまいそうだ。風の吹く丘を二人で歩くか……
暫く歩くと佐倉さんの家に着いた。俺の家と同じく、土壁に藁屋根で、瓦と言うよりガルバリウム合板の様な板が据え付けられている。家の中は基本的に三角屋根でロフト的な二階が設けられている。俺の家との違いは牛小屋の様な建物が併設されている事だろうか?
色々聞いてみると「私、生き物が好きなんで、沢山飼えたら嬉しいなって面接で答えました」との事だった。
でも一人で沢山って、大変そうだな。
俺の家と同じく周囲には畑と果樹が、植えられているのはこの村のデフォルトらしい。そして簡単な野菜は自給自足しろって事なんだろう。ちゃんと井戸もあるし、お風呂もあるし、激しいサバイバルって訳では無いようだ。
家の中に通されると、お茶が出て来た。
「粗茶ですが」
「かたじけない」
二人でお茶をすすりながら、今後の事を相談してみた。取り敢えず環境は気に入ったので、何とか暮らしてみたいと佐倉さんは熱く語っている。中々ポジティブだな。てか、選択肢は無いようだが。
でもーー夜は流石に怖いので
「す、すいません! こ、今晩だけでも一緒に寝てくれませんか!」
「お、俺でよければ!」
てなやりとりが有った。何もしないけど。いや本当に。しませんよ。たとえヘタレと呼ばれ様ともね
必死でそんな雰囲気が出ない様に綱渡りなコミュニケーションを繰り広げるのも楽しいものだ。
だがーー腹は減る!
太陽の位置から見てどうやらココはまだお昼前の様だ。
「お腹空きましたね」「ですね」「コンビニもありませんよね」「ですね」「……」「……」どうやら佐倉さんは料理が苦手の様だ……
「じゃあ、何か作りましょうか」
「は、はい! お供します」
訂正……かなり苦手の様だな
♢
とはいえ腹はへるのでキッチンに向かいガサゴソと漁るとーー一通りの調味料を見つけた。お米もあったが、小麦の量との比較で1対5位なので貴重なのかも知れない。味噌や醤油の様な発酵物もあった。油や塩胡椒もあるし、コレはアレだな。ご飯と味噌汁と野菜のみの野菜炒めだな。
そう佐倉さんに伝えると「おおお~!」と言う感嘆の声と拍手を頂いた。うん、佐倉さんは料理した事が無いかもしれないな。
そこから更に探ると卵を見つけた。生卵は日本以外では危険らしいから、卵焼きだな。
そして
佐倉さんの羨望の眼差しを一身に受けて昼飯の準備が始まった。
♢
せっかくなので佐倉さんにも手伝って頂く事にした。メニューはご飯と味噌汁、野菜炒めだから悩む程の事では無い。
「佐倉さん、お米を研いで羽釜でご飯を炊いてみましょうか」
そう言って俺は羽釜を洗い始めると、佐倉さんが「は、はい! えっと、先ずはお米を洗って…」とお米を計り始めた。この大きな羽釜なら二升程か……余ったらお握りにでもしておこう。江戸時代は朝に米を炊いて夜まで食べていたらしいから充分持つ筈だ。
シャカシャカとお米を研ぐ佐倉さんを確認して、俺はカマドを調べる。どうも魔法でどうにか出来るのかと思ったら火をつけるとこまでで後は自力の様だ。まあ、方法はあるのかもしれないがまずは普通にやってみよう。マキに火をつけて準備をする。
鍋とフライパンを探し出し、綺麗に洗う様に佐倉さんに指示を出して庭に出るとーー野菜がちゃんと生っていた。トマトにキュウリ、畦にはネギもあった。うーむ、よく見るとタマネギとジャガイモもあるな。そして卵もある。
「斎藤さん、私、羽釜でご飯炊いた事無いんでございますが」
「……俺もですね」
「…………」
「…………」
確か[始めチョロチョロなかぱっぱっ赤子泣いても蓋とるな]と言う教訓があったのでは無いかと佐倉さんに告げると、「具体的に、時間は何分位なのでしょうか?」と聞いて来るのでフィーリングでと答えておいた。全て自己責任なのだから問題は無いと付け加える事も忘れ無い。
ご飯を丸投げしておいて、俺は味噌汁と野菜炒めに取り掛かる。そういやダシをどうしよう? どう見てとここに置いてある味噌は現代風のダシ入り味噌じゃないだろうし、と、ガサゴソと探してみると何だか怪しげな顆粒の入った瓶が見つかった。
「この匂いは」
ペロリと舐めてみると見た目は正露丸みたいだったが「これはカツオダシだ(あくまでも主観的にだが)!」と判断した。蓋付き鍋を見つけたので勘で水とカツオダシの素を入れておく。
野菜を水洗いしタマネギを五ミリ程に切り水洗いしてネギを千切りにしてこちらも少し水洗いして準備する。トマトをザク切りにしジャガイモを皮を剥いてこちらも四等分して同じく五ミリの暑さに切ってこちらも水にさらす。卵は六個用意して割ってボールに入れた後軽く菜箸でほぐして準備OK!
「さてっ」俺はフライパンを起こした火を使い熱しあと、オリーブオイルと思しき油をレードルで掬い、サッと流してフライパンに馴染ませる。
まずジャガイモとタマネギの半分を鍋に入れ一煮立ちさせる。味噌汁にしてはかなり具沢山に仕上げるのが俺流だ。
次にジャガイモを熱したフライパンに放り込み軽く炒める。菜箸でほぐしながらフライパンを返してドンドン強火で炒めていく。少し色が変わってきたのを確認してからザッと残りのタマネギを放り込みさらに混ぜていく! 焦げない様に少し火を緩め、ザッと塩胡椒をふりかけ、さらに炒める。〈ジュッ〉と言うタマネギの水分が飛ぶ音を聞きながらここでしんなりしてくるまで炒める事にする。生は嫌だがクタクタになったのはもっと嫌だからな。軽く炒めてここで卵を投入!
〈ジュワッ〜〉と卵か焼ける音がする! そのまま一気にかき混ぜて野菜と混ぜ合わせる! 異世界の卵だから加熱半分万全に!
ご飯が炊き上がる羽釜を熱心に見ていた佐倉さんが「おおおっ! 凄いです!」と感嘆の声を上げるが別に凄くは無いな。てか、佐倉さんて、コンビニ弁当暮しだったのか? それでいきなりIターンで田舎暮らしとか、チャレンジャーなんじゃ無いか?
そうこうするうちに沸騰するお鍋の火を緩める。お味噌汁の仕上げは最後にしよう。
先行して炊き始めたご飯だがサッパリ出来が分からない。羽釜の蓋から漏れる蒸気からは何だかいい感じの匂いがして来るから炊けつつはあるんだろう。確かここで蓋を取っちゃダメなんだよな? 佐倉さんと二人でしばし羽釜を魅入るーーが、分からない。まあ、もうしばらくほっとこう。だが炊き上がるその時は近そうだ(勘だけど)。
そうやってる間もフライパンを操る手は止まらない。卵に火が通って固まり始めたのを確認してトマトを投入! 〈ジュワッ〉と水分が飛び代わりに実が潰れて紅くフライパンの中が変わっていくのを菜箸で軽く混ぜながら充分に火を通す! 今回は半生強位でいいかな? 〈パクッ〉と味を見て塩胡椒をプラス! ザッとかき混ぜ取り皿に盛り付ける。味見をしようとした佐倉さんの手が空を切ったのを俺は見逃さなかった。何気に佐倉さんて物怖じしないな。
そして味噌汁を仕上げる! 羽釜に目をやるとなんか吹き出す湯気がええ感じで佐倉さんが匂いを嗅いでウットリしていた。火傷しない様にね。味噌汁の鍋を強火に切り替えて沸騰したのを確認してオタマで味噌を掬いザッと溶かし込む。再度沸騰するのを待ちーー火を止める! 味噌の風味が飛ぶからな。
その時、佐倉さんは真剣な顔で羽釜を見ていた。吹き出す蒸気も減って来た気がする。くべてあるマキを移動して弱火にしてジッと待つ事にした。蓋が開けてえ!
そして数分のうちに蒸気が収まった。出来た? 出来たのか? まじまじと佐倉さんと顔を見合わせる。
「炊けましたかね?」
とら佐倉さん宣う。
「炊けましたよね?」
と俺の腹の虫が急かす
うわ! 佐倉さんまつ毛長い! いや違った、それはまた別の話だ。
「じゃあ、ご飯にしますか!」
満面の笑みで佐倉さんが微笑んだ。うん、佐倉さんて食いしん坊なんだな。覚えておかねば。
その時、扉が唐突に開いた。
〈ガシャン〉と言う金属音が部屋の中に響く。慌てて振り向くとーーそこにはーー金属の鎧を身に纏った屈強な男が立っていた。背中には巨大な剣が抱えられている。
思わず俺と佐倉さんは後ずさる。佐倉さんは炊き立てのご飯が気になって仕方が無い様だだだったが。うん、食い意地は大物だわ。食いしん坊万歳
その時
その男は、深く響く声でこう言い放った!
「村長のガンツです」
こんな感じでダラダラ続く予定ですが……ニヤリ