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薔薇色の異世界田園生活  作者: 菜王
序章
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第十七話 妖精達と踊る

第十七話 妖精達と踊る




白いフクロウがバッサバッサと帰って行った後、死にそうな顔でいかにも二日酔いっぽい佐倉さんが俺の家にやって来た。


(む、無理してるな)


緊張感溢れる顔で佐倉さんは「あ、あの…記憶は無いのですが……私何か粗相をいたしませんでしたでしょうか」どうやら佐倉さんは記憶が飛んでいたようだ。


俺も人生で三度ほど空白の時間があるから、分かる! わかりますよ! 意識が飛んで知ら無い天井を見上げる恐怖!


しかし


俺も大人である。


「大丈夫! 酔っ払って寝てらしただけですよ! サラさんも来たんで、[サラさんに]寝させてもらいましたからご心配なく!」


そう、コレは事実である。


そして、女王様の事は秘密にしておく。




残念な事にサラさんの指示のもと俺は佐倉さんをベッドに連れて行き、スヤスヤと眠る佐倉さんを断腸の想いで断ち切りこの家に帰還した。佐倉さんの部屋を出ると羽根猫が戻ってきて扉の前にコロンと寝転んで番をし始めたのでゲームオーバーとなった。


俺が佐倉さんを酔わせて何事かしようとしていたと言う根も葉もある疑いは未遂という事で棚上げとなったがサラさんはかなり疑っている。ちくしょう、なかなかに鋭い。しかしここで争うのは得策では無いと判断して笑って誤魔化しておいた。


サラさんは俺に気があるから疑り深くなっていると言う事に脳内変換しておく。


そして


「……そ、そうですか……」


落ち込みまくっている佐倉さんは実際にはそんなに酷い酒乱と言うわけでは無さそうだった。そうならもっと対応が手馴れてくる物なのだ。あのドギマギ感は……おそらく人生初なのだろう。俺が学生のころやった一回目があんな感じだった。


「……あの、佐倉さんはお酒をあまり飲まれ無いんですか?」


そう聞くと


「いえ! 結構好きで一人でもよく飲むんです。こんなの初めてでした。だから自分でもビックリしてしまって」


「…………きっと異世界一日目で緊張していたからなんでしょうね。次はもっとゆっくり飲みましょうね」


「……は、はい」


俺は必ずやらまたお酒を飲む事を心に誓っていたのだが、佐倉さんはしばらく断酒する事を宣言され、またフラフラと戻って行った。


昨日ライノをを見てあれほど大騒ぎしていた佐倉さんだが、今日目の前にいる大量の妖精達には無反応だった。深い心の傷を負ってしまったのだろう。今度、いや明日にでも癒して差し上げなばなるまい。とっておきのワインで




『nana! nanisurutuu!』『hayakuieee!』


そして集めた妖精達が俺の脚を突いたり引っ張りはじめた。


『おおっ! 妖精達もめっちゃフレンドリーですね! 何か命令してみたらどうですか?』


そうだ! すっかり忘れていた。


「……で、何ができるんだ?」

『……いろいろ?』


それは特に何も出来無いと同義だが、それでへこたれる訳にはいか無い。俺はこの妖精を使って異世界田園生活を切り開くのだ!


俺は地面に落ちている五キロほどのいしを掴んだ。


『ooo! dosgta!』『nani? nani?』『nankachureluno?』


そしてーー騒ぐ妖精達の前にその石を見せつけーー投げた!


ブンと大気を切り裂き石が五メルほど飛んでズンッと落下する。

『肩よわっ!』

「ほっとけ!」


失礼なライノを無視して俺は再び[妖精王のタクト]を振るった! 今度は三拍子でいってみよう!


「妖精王は命ずる♪ さぁ♪ あの石を♪ 取って来い〜♪」

『!』『!!』『!』『!!!』『!』


一瞬妖精達の動きが止まりーー次の瞬間


『『『waaaaaaaa!!!』』』


一斉に走り出した! まるでラジコンカーの群れが獲物に襲いかかるかのように石に取り付いていった。


「うわっ! なんかこわっ!」

『動き早いっ! あんなにアクティブな妖精初めて見ました!』

「そうなの?」

『普通は陽だまりでマッタリダラダラしてるんですよ! 信じられ無い!』


まるで悪い夢でも見ているかのように妖精達は石に取り付き、あっという間に担ぎ上げ一気に持ち帰って来る! まるで滑るように地面を動くその姿はまるで氷の上をツルツルと進むように何処か浮き世離れした動きだった。そしてーー早いっ! 人間なんかよりよっぽど早いぞこりゃ。


『『『waaaaaaaa!!!!!』』』


ゴロンッ


見事なチームワークで石を取ってきた妖精達はどこか誇らし気だ。そして妙に嬉しそうなのだ。なるほど、このタクトの命じるところは彼等にとって遊びの様な物なのかもしれない。確か東南アジアでゾウを使って仕事をさせるのがそんな感じでゾウ使いとコミュニケーションを取っていると聞いた事があるぞ。


ポスンと頭の上にまた黒い奴が乗ってきた。少しドヤ顔な気がするが、お前が何もしてい無いのはさっきから見てるからな。てか黒い奴は一匹しか居ない。レアなんだろうか?


『マスター〜妖精でも特にこの雑多な浮妖と呼ばれるもの達は恐ろしく進化が早く、その生態は殆ど分かっておりません〜その黒い奴は何処で見つけましたか? そう言えば最初からいっしょでしたよね〜』


そういやこの黒い奴は一番最初に見つけた奴だ。どこだったかね? 昨日の事なんだが全然覚えて……まてよ、妖精で家の中にいたのはこいつだけか?


「……家の中に居たな。確か鍋の中から蓋を開けて出てきたんじゃないかな?」

『……家の中に…あまり聞いた事が無いですね? やはり特別な力があるかもです〜』


この黒い奴がか?


『so! orehatokubetu!』


何か言ってる気がするが……まだ分からない。


俺はさらにタクトを振り、妖精達を引き連れ庭の木に向かった。その内の一本に夏ミカンの様な黄色い実がなっているのを見つけたのだ。季節的に収穫する最後の時期の筈だ。


『dositadodositado?』『nani?nani?』『anokiga?』


俺は木の前に達、再びタクトを振るった!

「お前達♪ あの黄色い実を取って来い♪ ちゃんと分けてやるからな〜♪」


『『『…………』』』


一瞬また止まり


『『『waaaaaaaa!!!!!』』』


今度は一斉に木に飛びついていく! 流石に空は飛べない様だが重力を無視する様に木に取り付き上に登っていく! まるでそこが平らな地面の様に!


そしてあっと言う間に三百個近い夏ミカンが積み上げられた!五分とかからぬ早業だ!


「よし♪ 一人一個づつ持っていけ♪ 今日の報酬だ〜♪」


『『『…………』』』


妖精達は顔を見合わせ、ワッと夏ミカンに飛び付き、一個づつ頭に乗せて一目散に帰って行った。


『『『waaaaaaaa!!!!!』』』


「……そんなに嬉しかったのか」

『斎藤さんはいわば神様の代行ですからね。妖精達にとっても神聖な存在なんですよ!』


偉い期待されてる気がするな。元の世界ではリストラされたんだが。これぞ[捨てる神あらば拾う神在り]て言う奴なのだろうか。


しかし


頭の上の黒い奴はそのまま居着いている。そういやこないだもずっと居たな。てか、昨日だけど。謎は深まるばかりだ。


しかし、俺が妖精を統べる力があるのはわかった。この力で、俺は薔薇色の異世界田園生活を切り開くのだ! 酒乱の佐倉さんと共に!


俺は三百個近い夏ミカンを前にそう拳を握りしめ誓うのだった。


『……てかこんなに沢山誰が食べるんですか?』

「…………」

『……無駄にしたら土地神様も怒るかも知れませんから、捨てたりはしない方が良いかもですね〜』

「…………」

『食べる分だけもいで食べたら良かったのに〜マスターは迂闊だな〜』

「…………」


俺はそっと妖精を封印出来る[壺]に手を掛けた。


そして〈シュポンッ!〉再びライノを封したやった。


『いゃあああん! なんで! なんでええ! 酷いですうう! 悪く無い! ボク悪くないのに〜〜!』


ライノは[悪く無いのも悪い]どいう事を身を以て覚えて貰おう。そうだな、次に佐倉さんがライノの事を尋ねる迄くらいはな


そいういえばもうすぐお城から役人が来る筈だ。二百個位お土産にして、佐倉さんと村長とサラさんにお裾分けしよう。何かくれるかも知れない。


俺はこうして田舎暮らしにおけるお裾分けの連鎖をスタートさせた。


その為にこの三百個の夏ミカンは無駄では無かったのだ。とーー言う事にしておこうと思う。




『ええーん だしてぇ! だしてえ! マスター〜〜!』



脚下だ。

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