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薔薇色の異世界田園生活  作者: 菜王
序章
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第十六話 妖精王のタクトと壺と紳士な幻想図鑑

第十六話 妖精王のタクトと壺と紳士な幻想図鑑




「……増えてる」


異世界転生の二日目


土地神代行に任命された俺は祠の水を変えようとミズナラの木の根元に向かった。そこには……この土地の妖精と思しき奴等がワサワサと集まっていた。


『さすが土地神がいるだけあって途轍もない霊力が集まってるんですね。妖精ってそんな場所に集まりやすいんですよ〜! それに、そんな土地は作物も半端無く育つんで、本来有難い存在なんすよね』


唯一ちゃんと喋れる妖精ライノによると、元の持ち主ブルケですら土地神の加護は受けられなかったそうだ。


『マスター半端無いっす!』


だそうだ。


はっきりいって何の役に立つのかピンとこないが、土地が豊かになるなら文句は無い。ドシドシ栄えさせてもらいたいものだ。


そして俺は朝のお務め(祠の水を代えるだけだが)をつつがなく終え、[妖精王のタクト]を持って畑の散策を始めた。


正直[妖精使い]なんて言われてても今までやってきたRPGゲームではお目にかかった事が無かった。それに村長曰く非常に掴み所のない職業のようだし……


『gonnn?』『ohaaa!』『tieeesu!』『pqvuuuhi!』『noonlb?』


うん、こいつらなんか喋ってるみたいだけど全然分からないな。しかし、それでも俺が畑に近寄っていくとどんどん集まってくるのだ。正直、俺だからなのか、[妖精王のタクト]があるからなのか、土地神代行になったかなのかは定かでは無いんだが、何にせよ俺には少しばかりの才能があるらしい。


昨日の佐倉さんの事もあるし、少しでも出来る事は増やしておかねばと思う。あの女王様はなんだったのか……「さすが異世界だな」そう呟く俺の周りを妖精達が埋め尽くす。数は昨日の倍近い。よく見ると黒い奴は昨日いつの間にか居なくなったと思ったら木の上にいた。樹上生活者なのか? それとも何かの特技の発露なのだろうか?


「じゃあ、使ってみるか」

『はい! その[妖精王のタクト]を持って、念じながら振るってみて下さい! 振るう事が起動術式発動のサインなんですよ! そうじゃないと、妖精達がマスターの想像なのか、実際に動かしたいのか判断がつかないですからね〜! さあ、LETSTRY!』


俺はライノに言われるがままに、タクトを振るってみた。


(先ずは整列させてみるか!)


「あつまれ〜♪」


そう叫びながら四拍子でタクトを振るうとーー妖精達がジッとこちらを見て来る。


(うおっ! なんだ! ガン見してるぞ)


「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」


すると


トテ


奴等は


「……おっ!」


トテトテ


ひょこっと


「おおっ!」


トテトテトテ


集まり始めた!


「おおおっ!」


トテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテ


その数は五十匹を軽く超えていた! まるで保育園の運動会よろしく色とりどりの妖精達が整列する様は壮観だ。そして、ジッと俺を見ていた。従っていると言うより、興味津々ーーといった風情である。『アイツナンカイッテルゾ』とか聞こえてきそうだ。うーん、なんか想像よりフレンドリーな感じなのか?


「よ、よし! 色毎に並んでみろ!」


奴等は一匹一匹が微妙に形状が違うのだが、色はほぼ同じだ。属性でも表しているのだろうか?数えてみると


赤い奴11匹

青い奴6匹

黄い奴5匹

緑い奴14匹


そして


黒い奴1匹


「……多い…のか?」


『この狭い庭にこれだけいるなんて! 常識外れの妖精密度です〜!』


「水ガエルとか、火トカゲほどの迫力は無いけど、つまり戦闘用じゃ無くて、生産とか開発向けって事なの?」


クルクルと妖精達の周りを飛び回り、ライノは様子を伺っている。そして「フムッ」と腕を組んで暫く思案しているようだった。


『この子達はですね、妖精の中でも[浮妖系]と言われる土地の霊力に密着して、それぞれの対象に加護や庇護を与えるのが主な特徴ですね。ぞれぞれ実体も持っているので、お手伝いもできますよ! 素になる力によって色と形状に差が出てくるんですが、それぞれ得意な分野があるんです。一番基礎になるーーと言うか数の多い子達ですね』


「じゃあ、水ガエルや火トカゲは?」


そう、俺のーーいや、この家の家守たるあの二匹はなんなんだ?


『あれは妖精としては最強レベルの[幻妖系]と呼ばれる精霊の力も取り込んで、実体のある生き物の形をとっている子ですね。一応は斎藤さんの下僕なんですよ? 召喚したりする必要が無いので、コストが低いのが特徴ですね』


火トカゲは連れて歩けんのが玉にきずだな。火傷するし。でも水ガエルは飲み水に困らんから長旅には重宝するのかな?


でも総じて魔法系か


するとライノがヒュンと家の中に飛んで入り、幻想図鑑と壺をフラフラしながら取って来た。そして俺に手渡してこう言った。


『……一応この二つのマジックアイテムはブルケ所有のユニークレアですが、国宝級の品なんですから、これからは肌身離さず持っててください! 一応、これらのマジックアイテムは呪詛が掛かっていて、許された者にしか所有は出来ないんですけどね』


すると不思議なのは最初にライノを解放した時だ。あの時俺は……


「じゃ、じゃあライノ、なんで俺にその[妖精王のタクト]や[壺]を使わせようとしたんだ? 本来なら呪詛で使えなかった筈じゃ無いのか?」


『それはボクもビックリなんですよ! あのブルケの仕組んだ[魔女の秘密の部屋]に入って平気だなんて、普通はあり得無いんですよ! だからてっきり特別な妖精使いの方だとばっかり思ってました。だから[妖精王のタクト]や[壺]が使えると思ったら……超素人だったんですね。おそらく土地神様の加護があるからなんでしょうけど、順番間違えてたら大変でしたね〜』


「…………」


そうか


助かったな。


そして目の前にカラフルな妖精達


俺はそっと[幻想図鑑]を手に取って詳しく調べる事にした。


『初めまして。私リデルと申します。今後ともよろしくお願い致します』


「…………えっ⁉︎ ライノ、なんか言ったか?」


いや、ライノじゃ無い。真面目な紳士のようなこの喋りは風のように頭が軽そうな風の系列妖精のライノには不可能な喋りだ。


『ええっ? なんか言いましたか? マスター〜』


そう、この間の抜けたイントネーションがライノの特徴だ。佐倉さんには受けがいいようだが、頭にのって調子こかないように気をつけておかねばなるまい。


『私です! マスターがお手に取っておられる魔法書を司る[幻想図鑑]でございます。持ち主に知識を与える為に造られた魔法生命体[グリモワール]の眷属に御座いますれば、よろしくお見知り置き頂きたく存じます』


そう言ってフワフワと本が浮き上がって背表紙を見せてきた。そこにある刻印が生き物の様に動くのが見える。


「おおおおおおおっ! しゃ、喋りやがった! 本が喋った!」

『こ、この本[グリモワール]だったんですか! 稼働する個体なんて滅多にいないんですよ! 』

『ふふふ、些か照れますな。私こそ偉大なる妖精王に仕えた正当なる[幻想図鑑]なのです。実際に所有者が現れたのは数百年ぶりになりましょうか?』

「す、凄いのか?」

『こ、この世界では知識とは力なんですよ! [ネクロノミカン]とか[ソロモンの奥義の書]とか[ルルイエ異聞]とか、確かにグリモワールは存在しますけど、全部国家指定の写本すら許され無い発禁本なんです! 所有しているだけで国家半逆罪レベルなんです! [幻想図鑑]そのものは妖精の事が書いてあるタダの図鑑だって思ってたんですけど』

『私は[妖精王のタクト]と[壺]の二つとセットになっておりまして、それらを所有する事が出来た方のみにお力をお貸しする事が出来るのです。貴方はその初のマスターでございます。はい』


そう言って[幻想図鑑]ことリデルはボンッと腕輪に姿を変え左手に取り付いた。『今後ここが私めの場所にございます。御用の際にはこの腕輪を押さえ[リデル]と念じるかお声掛け下さればご用命に応じさせて頂きます。はい』といって満足気にポジションを確保した。


「…………」

『…………』


その時ーー背後から視線を感じた。ハッとなり振り返ると、そこには白いフクロウがジッと木の上から俺を見詰めていた。


「……あれは…佐倉さんの下僕だ……」

『……ですね〜あれもただのフクロウじゃ無いかもです〜』


……やっと起きたんだな。


てか佐倉さん、使いこなしてるな。何気に




そして


足元では妖精達がガヤガヤしていた。


『manani?』『nankayoujaomeeeno?』『gayakuciroyooo!』『dalieeee!!』




こうして異世界での二日目が始まろうとしていた。

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