第十三話 今日のお約束
まだまだ閑話休題っぽい!
(; ̄ェ ̄)
序章
第十三話 今日のお約束
「いただきます」
「…いただきます……」
「おう、いただくぜ!」
俺と佐倉さんは村長の襲撃を受け、またしてもご飯の強奪の被害者となった。
佐倉さんのテンションが一際低いのはせっかく自分が見つけた貴重な動物性タンパク質を村長に奪われる屈辱によるものだと推察される。
わかる、わかりますよ佐倉さん。いずれこの仇は村長の疑惑の嫁事件を解決して晴らそうと思います。
てか血糊すら乾かない程の近距離で修羅場をくぐっても、何も言わず人の家の食卓に上り込めるのもある意味異世界情緒と言う事になるのだろうか?
一体こののどかな田園風景の外側で何が起こっているのか、その火の粉が俺にかかって来ない様に祈るばかりだな。
「…おかわり」
佐倉さんが愛用のドンブリをグッと差し出してくる。
「はやっ!」
間違いない。今佐倉さんはご飯を飲んだんだ。と言うか俺が完全にご飯をよそうボジションに就任してるな。まあ良いけど。
「おう、斎藤、俺も頼む! 大盛りでな!」
そうか、この世界には遠慮と言う言葉は死後のようだ。いや死語か。
あれ? 「村長、ハシを使えるんですね? この世界でもハシ文化ってあるんですか?」この中世ヨーロッパ的なテンプレファンタジィ世界には相応しく無いんじゃ無いか?
「! あ、ああ、昔の仲間に教えられたんだよ」
それはーー異世界からの転生者と言う事なのだろうか? そういや村長ってえらく強いみたいだし、サラさんだって高位の魔法使いっぽい。そして消えた魔女ブルケだってかなりの魔女だったらしいしーー何気にこの村はエリート集団なのだろうか? まだ二人しか会っては無いけど
「しかしこのベーコンとジャガイモとタマネギの炒めたヤツは美味いな! ジャガイモもホクホクだし、タマネギもシャキシャキしてるし、斎藤は料理スキル持ちなのか?」
「そ、そうです! こんなにベーコンの味がするのに、あんなに直ぐ作っちゃうなんて斎藤さん凄いです!」
「……ど、どうも」
どうやら佐倉さんの機嫌は上方修正された様だ。気に入って貰って良かった♡
「ええ、ちゃんと習った訳では無いんですが、簡単、早し旨し安しが基本方針なんで、やりたい放題作ってます」
「いやいや、コレだけちゃんとしてたら十分だろ? 何より早くて安いのが良いな!」
「そうです! 私この世界に来て良かったです」
……佐倉さんが少しチョロいーーいやそれは言い過ぎたが、喜んで貰えると嬉しいな。ちゃんとベーコンの争奪戦になら無い様に小さく刻んで良かったと胸を撫で下ろす。
何気に大皿からオカズをよそう時少し逡巡しているのが気にるが…今日のベーコンを手に入れて食卓を豊かにした武功に免じてスルーだな。
ただその食べる量は恐らくオーバーキルだ。朝の散歩でフルマラソン位歩か無いと消費はできまい。いや、ぽっちゃりした佐倉さんもなかなか…
「斎藤! おかわり頼む!」
「「!!!!!」」
はや! なんだお前! やめろ! 佐倉さんが闘志を燃やした目をするだろ! てかお前らご飯を飲んでるだろ! ちゃんと噛め! 咀嚼しろよな! 特に村長は八十八回くらい噛め!
「……ううっ、斎藤さん! おかわりです!」
佐倉さん! 巻き込まれてはダメだ! あと言いそびれてたけど佐倉さんがご飯をついでるのはご飯用のドンブリでは無くオカズを盛る鉢だと思いますからね。それと盛りが強すぎて仏様にお供えするご飯みたいになってますからね。
「いやあ、この味噌汁も具は無いけど美味いな! ネギと白胡麻だけのシンプルなのがまたベーコンに合うわ!」
「そうですね、一応味付けが濃いい物の時は基本的に単純な方が合いますよ。炊き込みご飯なら具沢山なスープにするのが良いですけどね」
「おお! この辺は山菜も取れるからな。実はな、松茸やシメジも取れるんだぜ!」
「「えええっ! 本当ですが!」」
佐倉さんが色めき立つ! そうか、佐倉さんは松茸が好きなのか。何でも好きな可能性もかなりあるが……
「ああ、かなり取れるぜ! 襲われて怪我人も出るがな」
「へえ〜それは熊か猪でも出るんですか?」
「……いや、松茸やシメジに襲われるに決まってるだろ?」
……はい、それは松茸やシメジとは違いますね。少なくとも俺達の世界ではキノコに襲われる人は皆無です♡ まあ、頑張って異世界の人達に
「斎藤さん!頑張りましょうね!」
「!!!…………そうですね……」
……佐倉さん、貴方はやる気のベクトルをコントロールする方法を覚えた方がいい。なるべく早く
「心配するな! ちゃんとチームを組んで狩るんだからな、安心しろ!」
「……はい…」
「はいっ!」
それまでに水ガエルと、火トカゲを手懐けておこう。
「それと、コレを渡しておくからな」
そう言って村長はショートソードとナイフを二組出して来た。
「……これは?」
「…………」
「一応ノルン村の周囲は魔族ですらタダでは通れない強力な結界が張ってあるんだが、斎藤の家にいた水ガエルみたいに、全く邪悪ではない。いわゆるカルマモンスターの中には潜り抜けてしまう奴等がいるんだ。だから、一応護身用だな。自分の身は自分で守るのがこの世界のルールだからな」
「……はい」
「……はい」
佐倉さんがそっと手を取りナイフを抜いて見せた。すると「……綺麗…」そのナイフは装飾こそ控えめだが、青い光を讃えゆっくりも明滅していた。
「……村長、コレは?」
この青く輝く刀身には聞き覚えがある。コレは確か……
「ミスリルナイフだ。一応破魔の力が込められている業物だ。ドワーフ製の貴重品だから大事にしてくれよ」
やはりそうか。某ファンタジィ映画にあったヤツだな。では俺のはどうだ? そっと自分に渡されたショートソードは「ぬっ! くっ!」中々抜けなかった。
おれはグッと力を込め引き抜くとーーヌルンッと抜けた。刀身には赤い液体がーーて!
「おお! すまんすまん、洗うの忘れてたわ!」
「!!!!!」
お、お前! 少しはデリカシーを持て! なんか髪の毛みたいなのが付いてるし! まさか人族を切ったんじゃ無いだろうな! しかもつい最近! ていうかほんの少し前に!
いやまて、それでも佐倉さんがミスリル製なら俺のはさぞかし…
「心配するな!数打ちの鉄製だから水で洗っとけばいいぜ! 一応錆止めはしてあるからな。田舎では刀鍛冶が滅多にい無いからそこだけは気をつけるんだ」
……ただの鉄…せめてオリハルコンとかが良かったな。まあ、妖精王のタクトがあるからそれを護身用にしよう。
佐倉さんは大切そうにミスリルナイフを触っている。かなり気に入った様だった。
「ありがとうございます! 肌身離さず持って身を守ります!」
ちっ! 村長め余計な物を……今日はこれから佐倉さんの家で一緒に寝ると言う大切な用事があるというのに、余計なハードルを増やしやがって! いや、何もしない。何もしないけども、何かが起こるかもしれないじゃないか!
「あれ? なんだか赤く光ってますね?」
「どれどれ? おかしいな、これは所有者に邪な考えを持った物が近くにいると赤くに光るんだがこの部屋には佐倉さんとおれと…」
……やめて…そんな目で俺を見無いで下さい。
 




