限界突破と守るべきもの
どうも、獅子印です!最近、学校で忙しく、なかなか更新できませんでした!しばらく早く終わるので、じゃんじゃん更新しようと思います!
アメミット。それは、エジプト神話に登場する、ワニの頭、ライオンの上半身、カバの下半身をもつキメラのような怪物だ。罪人の心臓を喰らう守護者であるが、罪人目線ではたまったもんじゃない。
つまりはーーー
「舞っ!横に飛べっ!心臓に直接来るぞっ!」
心臓をピンポイントで狙う猛獣のようなものだった。
「舞っ!」
「大丈夫!平気!」
少しアメミットの牙が当たった舞を見る。どうやら、大丈夫なようだが、その肩からは血が吹き出ている。幸いフィードバックは0にしていたようだ。しかし、体力ゲージは黄色表示になっている。
「[消費:回復薬]!」
パキン、と音がして舞の怪我が治る。俺は普通に回復してくれてよかった、と胸を撫で下ろす。たまに遠慮して使わないことがあるのだ。
「[グラビティ]!」
俺はアメミットに重力魔法を掛ける。もちろん最大出力だ。これで止まってくれればいいんだが…
「温いわっ!」
多少動きは遅くなったものの、平気そうに飛びかかってくる。これは…厄介だ…!
…ん?
「待てっ!今お前、喋ったか!?」
「当たり前だっ!我は魔王だぞ!」
どうやらアメミットは喋れるようだ。会話ができるのはありがたい!
「アメミットよ!俺たちはお前と敵対するつもりはない!」
舞が意外そうな目で見てくるが、当然だ。俺だってまだ死にたくはない。こんな桁違いのやつとなんて戦ってられない!
「嘘をつけ!お前はさっき我に重力魔法をかけたではないか!」
「なんのことだ!」
「なっ…」
真っ向から否定してみる。もちろん本気で言っているわけではない。確か俺の記憶ではアメミットは…
「ふざけるな!ならばお前を試してやる!この天秤に乗ってみろ!」
来た!
アメミットは、罪人だけを喰らう。そのため、罪人を見分けるために羽のついた天秤に人を乗せるのだ羽と釣り合えば罪がなく見逃されるのだが、羽より重いとあれば喜んで喰らいにくる。つまり…
「いいだろう。しかし、乗るのは俺じゃない、この舞だ!」
「わ、私!?」
そう。切り札、舞だ。
「いいか、舞。一説によると、虫を殺したとかの小さな罪では裁かれない。罪にまみれている俺ならともかく、お前は基本的に善人だ。多分大丈夫なはずだ。」
「自覚はあったんだ…」
舞が呆れている。そりゃ、もちろんあるさ。
「分かったよ。行ってくる。」
舞は意を決したように呟く。上手くいくか…?
舞が天秤の皿に乗る。そして、俺はすぐに助けに行けるよう、足に力を入れる。結果は…
天秤は、舞の方へ思い切り落ちた。
俺とアメミットが同時に舞のもとへ駆け出す。俺の[すばやさ]ならいけるっ!
舞を突き飛ばし、俺自身はアメミットに攻撃準備をする。
「うおおおおお![エンジンキック]!」
全力で飛びかかってくるアメミットに、エンジンキックを叩き込む。当たる!
その直後、悲鳴が響き渡った。
ーーー俺の、悲鳴が。
「ぐおおおおおおおおあああああああ!!!!」
激しい痛み。こんなもの味わったことがない。見ると、右脚がふくらはぎの辺りから無くなっていた。…なるほど。ゲームの中だから、痛みがフルに伝わってくるわけか…フィードバック、切っとけばよかった。
どうやら、[ぼうぎょ]が足りなかったらしい。本気で突進してくるアメミットは、さすがに手に余ったようだ。
「舞は…?」
見ると、舞は糸でアメミットを止めている。しかしギリギリのようだ。所詮糸。耐久性も優れてはいない。
「くそ…なんだよ…攻撃すらまともにできないのかよ…!」
そう言ったところで、意識は別世界へ飛んだ。
「まったく…情けない限りだよ。まさか、もう諦めたのかい?」
目が覚めると、そこにはマースが立っていた。
「マース…?アメミットは…舞は…?」
舞はまだ戦っているはずだ。俺のせいであいつに襲われているのだ。俺だけ寝てるわけにはいかない。
「あの世界はもう時を止めてる。心配しなくても天木さんは平気だよ。」
マースが告げた言葉に、俺はかなりホッとした。よかった…
「…で、君さあ。何諦めてるの?」
マースが冷たく俺に尋ねる。
「もうやりようが無いじゃないか!攻撃したらダメージを喰らう、魔法を使ってもどうにもならない!」
「そんなわけないじゃないか。武器は試したのかい?」
「耐久力が存在しているのは確認している!あんなの、一撃で壊れる!」
そう言うと、マースは「はぁ…」とため息をついた。
「なるほどね。じゃあ天木さんを助けたいとは思ってないんだね。」
「………はぁ………?」
何を言っているんだ、この男は。俺は舞を助けたいと思っている!
「[俺は舞を助けたいと思っている!]とか思っているのかな?じゃあ、何で試す前に諦めてるの?」
「それは…!分かりきってるから…!」
「別に、試しても死ぬわけじゃないでしょ?なんで試さないの?」
「それは…」
マースの言葉に、俺は黙りこんでしまう。言い返せる言葉が思い付かないからだ。
「考えてみなよ。一番に考えるべきは誰?」
その言葉は、俺の体に重く、本当に重くのしかかった。
俺は…俺は…!
「俺は、自分が一番大切だ。」
そう。俺は自分が大事だ。この言葉に嘘偽りはない。
「ほら。だから天木さ…」
「だけど!」
マースの言葉を遮って言う。
「だけど、そのためには舞が必要だ!俺が幸せになるためには舞が必要だ!だから、俺は舞を助ける!俺は、舞が好きだから!」
力強く断言する。これこそが、俺の本心だ。利己的で、だからこそ自分の周りだけは全力で守る。それが俺だ。
「ふーん…そう。なるほどね。じゃあこれをあげよう。」
言うが早いか、俺の視界に文字が現れる。
ーーー[限界突破]を手に入れました。
ーーー[武器耐久値アップ]を手に入れました。
「これは…」
「頑張ってね。それと、[限界突破]は注意して使って。それね、一時的に全ステータスが1.5倍になるんだけど、後でものすごい疲労感に教われるんだ。」
マースは、淡々と説明をする。その姿は、淡白なようにも、照れているようにも見えた。
「頑張ってね。」
それだけ言われ、俺は元の世界へ戻された。
次回、「発想の逆転と余裕の一手」お楽しみに!