舞と流行りの猥褻犯
珍しくめっちゃシリアスです。海人くん、狂ってきてるな…
「はあ…眠れない…」
今はあの店員の元へ押し掛けてから5時間後。午前1時だ。
「ふあ~ぁ…眠い…眠いのに眠れない…これはキツイな…」
眠いのに眠れない。それは寝るのが好きな俺からすれば拷問以外のなんでもない。ただただキツイ。
「まさかあの変態店員が凄い人だったとは…世も末だな。ま、この世界のことは興味ないが。」
そう。あのときの衝撃でおれは眠れないのだ。考えたくないのに思考が止まらない。俺の昔からの癖だ。考えたくないことも考える。経験したことが無い人は分からないだろう。この苦しみは。
「あれ?明るくなってきた…」
ついに眠れなかったか。まあいい。夜早く寝ればいい。体動かせばどうにか気分も晴れるだろ。
隣からごそごそと音が聞こえる。舞かな?朝早いんだな…あ。テレビの音が聞こえる。ちなみにテレビは昨日買ってきた。他にも洗濯機や掃除機など、日用品は大抵揃っている。
「ふぁ…俺も起きようか。」
眠くてしょうがない。眠…い…
その時、俺は深い深い眠りに誘われた。最後に聞いたのは、ニュースの猥褻犯のことだった。なんでも、誘拐して慰みものにするそうだ。全く、アホなことするやつも居るな…
「ふあ…俺、寝ちまったのか。時計は…17時。結構寝たな。」
ぐん、と軽く伸びをして欠伸をひとつ。まだ眠いが、十分寝たはずだ。テレビの音が聞こえる。舞がまだ見ているのだろう。
「…あれ?」
舞が居ない。リビングにも、部屋にも(ノックはした)、風呂場にも、トイレにも(ノックはしたからな!)
「おかしい…どこかに出掛けた?書き置きもなく?テレビを点けたまま?あいつに限ってあり得ない。どういうことだ…?」
思考はフル回転。そんなとき、朝のニュースの内容を思い出す。猥褻犯…?
「…いや、まさか。そんな堂々とした誘拐の仕方な訳が…」
そこまで言ってテレビの音が耳に入った。手口は堂々と玄関から入るそうだ。
「…は?」
舞はどうやら誘拐されたようだ。…駄目だ。考えるな。舞は急用で出ているだけなんだ。嫌だ。考えたくない。考えたくない。考えたくない。考えたくない。
「…行かなきゃいけないよな。」
探すことを決意して、まずは探し方を模索する。とりあえず聞き込みかな?
「収穫ゼロか…」
収穫ゼロ。それは、絶望を意味する。舞がいなくなる。ニュースで言っていた。誘拐したやつは3日ほど楽しんで殺すと。
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。」
舞。
そんなとき、視界に文字が浮かんだ。それは、神からの救済に等しかった。
ーーー[追跡]を手に入れました。
来た。
「[追跡]!」
その場で使う。舞の姿を思い浮かべながら。
「こっちか!?」
感覚で分かる。これが[追跡]の効果なのだろう。
すばやさ全開で走る。舞。今行くぞ。舞!
「ここか!」
ドアを開ける。すると、舞が知らない男に押し倒されていた。舞は服がはだけている。
「ふざけん…なあっ!」
男をぶん殴る。蹴る。それから舞の方に向き直って、
「舞。服を着て外へ出てろ。」
「でも…」
「いいから!」
「でも、これからなにもしないって誓ってくれる!?」
「それは無理だ。」
これから俺は男をなぶり、考えうる限りの苦痛を与え、死ぬ直前で回復薬を使って強制的に回復させる。それを5回繰り返した後警察に付き出す。舞に手を出したことを後悔させてやる…!
「さあ、おっさん。楽しいパーティの始まりだぞ。考えうる限りの苦痛を与えてやる。覚悟しとけ。」
そう言ったところで、乾いた音がした。フィードバックを切っていないので、頬がじんじんと痛む。俺は頬を叩かれていた。
「…は?」
「海人くん、あのね。助けてくれたことには、感謝してるよ。こんなところで初めてを奪われたくなかった。でもね。そんなことしたら、終わっちゃう よ。人としても、生き物としても。私たちがゴブリンを殺してたのは、自分達が生きるためだよ。ねえ海人くん、殺したらダメだよ。」
「でもあいつはお前をさらった。俺は心配したし、お前は不安だっただろう。そいつは最悪なやつだ。だからいいんだよ。」
「それがダメだって言ってるでしょっ!」
舞が怒鳴った。初めてだ。普段温厚なやつだから怒鳴ることなどいつもは無いのに。
「…なんでだよ。」
「嫌なの…もう、殺すのも殺されるのも…もうそんな世界で生きていたくない…もう、うんざりだよ…」
舞が頭を抱えて震えている。舞も怖かったのだろうか。しかし、あんなに快活に喋っていたのに。あんなに元気に笑っていたのに…
いや、それは全て幻想だったのだ。舞が作り出した[天木舞]であり、本当の[天木舞]ではない。本当は、震えて怖がっていたのだ。きっと、朝も早かったのではない。遅かったのだ。眠れなかったのかもしれない。多分、化粧で隠していたのだろう。
「…ごめんな。舞。大丈夫だ。なにもしない。それに、なにもさせないから…」
舞に優しく声をかけて、おっさんの方を向く。
「おっさん。あんたは見逃す。足を洗って、別の街にでも行け。二度と俺の前に顔を出すな。いい
な?」
ドスのきいた声で言うと、おっさんは竦み上がって、逃げていった。
「ごめんな、ごめん…舞…」
暗い倉庫の中、俺は舞に謝り続けていた。俺はもう、かなりこいつに依存してしまっているのかもしれない。
「ごめんね…ありがとう…海人くん…」
それだけ言うと、舞は寝てしまった。仕方なくおぶって家まで連れ帰る。舞は、羽のように軽かっ
た。
「よっと…あ、起こしちまったか。」
舞をベッドに寝かせると、俺が下手なのか、舞が起きてしまった。
「悪かったな。勝手に入って。」
「ううん、いいよ…それよりね。海人くん。」
「うん?何だ?」
「今日、私と一緒に寝てくれない?」
舞が申し訳なさそうに言う。あのな…
「べ、別にそういう意味じゃないよ!?ただ、一人でいるのが、怖くって…」
そう言われると、断ることもできない。まった く…
「分かったよ。ほら、早く寝よう。」
そう言って、電気を消す。ベッドに入ると、舞がしがみついてきた。少し驚いたが、俺も舞の背中に手をやった。
次回、新章突入!「進展した仲と舞の過去」お楽しみに!