買い物と海人の逆襲
今回、めっちゃ長くなってしまいました。ちょっと最近忙しく、あんまり投稿できないかもしれませんが、今後ともよろしくお願い致します。
「すいません。クエストが終わりました。ついでに素材の買い取りもお願いします」
ゴブリンの群れを倒しまくったあと、俺達は報告のためにギルドに来ていた。今はとにかく金が必要だ。食料、武具、アイテムに日用品。買うものは大量にある。
借りていたカードを見せると、受付の人はギョッとして、「これ、バグですか?」と言った。そんな馬鹿な。
「失礼しました。すぐに報酬を追加します。…というか、これは異常ですね。ゴブリン700体なんて、よく倒すことができましたね。奴ら、結構強かったでしょう?」
「ははははは…」
途中までお遊び気分だったのは内緒だ。
「それと、素材の買い取りですね。では、素材をお出しください。」
「…ここら一帯死体まみれになりますけどいいですか?」
まさかこの受付も[700体]の意味を分かってないわけじゃないだろう。するとまたも驚いて、
「えっ?毛皮だけじゃないんですか?」
と言った。
「…え?」
どうやら、モンスターにはそれぞれ素材になる部分があり、ゴブリンの場合はそれが皮らしい。つまり、皮以外のところはいらないそうだ。
「…あー、すみません。ちょっとあまりに疲れてたので、解体する時間がありませんでした。」
そう言って話を終わらせる。半分は本当だ。もう帰って寝たい。
「そうでしたか。分かりました。少し値段は落ちますね。この量でしたら…100000Wほどになります ね。細かい値段でもう少しありますが。」
「「嘘お!?」」
しかし、考えたらそうだろう。さっきの依頼だって、細かい金額は知らんが相当な額になっているはずだ。
「あ、そういえばレベルどんな感じかな…」
ふと気になったので、ステータスを開く。
名前 空町海人
年齢 16
職業 重力師
称号 外来種
レベル 10→38
ちから 31→143
すばやさ 71→295
ぼうぎょ 21→105
ずのう 69→265
HP 151→347
MP 121→485
FP 24→108
スキル
パッシブ 体重操作(熟練度8。体重減少の派生で、 20kg~80kgまで任意に操作できる) 槍術(熟練度6。槍の扱いが上手くなる) MP使用減少(熟練度5。スキルの時に使うMPが3減る)
アクション グラビティ(熟練度8。絶対値10倍ま
で。対象指定[範囲]解禁。消費MP5) 怪力([ちから]の値の1.5倍までの力が3秒限定で出せる。消費MP30)
ユニーク エンジンキック(消費MP5)
開いた口が塞がらない。
隣で舞も見ているようで、呆然としている。それもそうだ。なんだすばやさ295って。それに比べると、ぼうぎょは心もとないな。FPは…均等に振ろうか。
「あの…お二人とも?」
受付が心配そうに聞いてくる。ああ、忘れてた。
「あ、すみません。もう帰って寝てもいいですか?かなり疲れているもので。」
そう言うと、受付の人は「ああ、どうぞ。」と言ってくれた。ありがたい。きっとこういう人が出世するんだろう。
「では、そういうことで、失礼します。」
そう言って、俺達は店を出た。俺達は疲れてい
た。疲れてるならフィードバックを切ればいい、ということにも気づかずに。
「ふぁあ…おっす。」
「あ、おはよ~」
朝起きると、舞が髪をといていた。朝はいつも髪をといている。なぜだ?女というのはそんなに髪が大切なのか?
「お前、昨日は風呂入ったのか?」
「入ったんだけどね…服が返り血まみれで…洗濯しても海人くんに見られないうちに干せないし…」
要は、洗濯できないのに服がない、という状態を嘆いているようだ。まあ、きついよな。俺でさえ血の匂いがしてうなされたくらいだ。…俺、そんなにナイーブだったのか。殺しくらい躊躇せずやる自信はあった。実際それは出来たのだが、殺したあとにこんなのが待ってるのだから、嫌なものだ。
「…うん。今日は買い物をしよう。そうしよう!」
俺はそう決めた。そろそろ必要なのだ。食料、武具、着替え、日用品!金もある。必要なものを買ってしまおう。
「やった!…返り血まみれで行くのが嫌だなあ…」
「それに関しては諦めろ。どうしてもというなら俺が行くが、すべて買うことになるぞ。当然、下着もだ。」
「行きますごめんなさい」
行くことを躊躇う舞を説得(という名の脅迫)し、買い物に行く。まあ、舞の意見も尊重して、服を最初に買いにいこう。
「どれでも一枚1W」
そうでかでかと書かれた看板が立っている。…うむ。安い。ここにしよう。
「舞、ここにするぞ。」
そう言うと、舞は一瞬で入る。そんなに服がないのが嫌だったのか…
「舞。上下全部揃えろ。ひとつ5枚まで。ただし、下着は10枚まで、上着は3枚までだ。」
下着は汗を吸いやすいし、大量にあった方がい
い。一方、上着はあまり肌に触れない。よって汗に触れることが少ないのだ。
「さーて、俺も買っていかないとな…」
真っ青なTシャツ、青いジャケット、ジーンズ、青い靴下、青いパンツ、青いジャージ…青ばかり選ぶのに意味はない。決してこの前舞に「海人くんは青が似合う
ね。」といわれたからではない。
「海人くん、持ってきたよ…って、青ばっかり
っ!」
舞もびっくりしている。しかし、女子のこういう手際には驚きを禁じ得ない。下着を服にくるみ、隠しているようだ。ハンガーがあるのに。
「ああ、お前も一緒に会計払う…いや、嫌だよな。
30W渡す。買ってこい。」
そう言って、画面から金を渡す。あと200000Wくらいある。平気だ。ちなみに、これは日本だと4000万円くらいだ。…大体買える。
俺が「買ってこい」と促すと、舞は目をぱちくりとさせていた。
「どうかしたか?」
「海人くんが…気遣いをしている!ずっとデリカシーが皆無の人だと思ってたのに!」
失礼な。
「あのな…俺だってデリカシーくらいあるさ。」
「門番さんにとっさに私を[妻]って紹介した人が何をいうの。」
「ぐ。」
「ホテルがどうって言い方をしたことで誤解を産んだのは誰?」
「ぐぐ…」
「お風呂場でタオル外してたのは誰!?」
「ぐはあっ!」
痛いところを突いてくる。確かにデリカシーが無いかもしれない…!
「ま、まあいい。とりあえず買ってこい。という か、そもそも所持金が半々になってないのがおかしいんだ。ほら、半分渡す。趣味とかに使う額は考えろよ。」
ずんずん話を変える。自分の「デリカシーが無
い」という事実を見つめていたくはない。
「分かったよ。お気遣いありがと。じゃ、行ってくるね。」
そう言って舞は走り去っていった。…さ、俺も行くか。
「さ、お次は武具店だ!」
この世界には二種類の防具がある。それは、防御力が存在する防具と、存在しない防具だ。しかし、今回買いに来たのは防具ではない。
ひとつめ。
「さ、舞。いいやつをさがそうか。」
「うん!あ、この指輪とかどうかな!」
…装飾品。この世界における装飾品は、特殊効果を付与したり、ステータスを上げたり、様々な効果がある。それは多分攻略のカギになるだろう。
「ずのう10%アップ…俺達、ずのうで威力変わるタイプじゃないだろ。」
「そんなことないよ!私は変わるよ!」
「じゃ、お前はそれな。俺は…」
「海人くん海人くん!これどう!?[天使の腕輪]!運5アップだって!しかもなんかシークレットがあるよ!」
ふむ。[運]なんてステータスはないが、それだけに気になるものではある。いいチョイスだ。
「ほう。じゃあそれと対象に、俺はこれにしようかな。[悪魔のネックレス]。攻撃に炎を付与できるそうだ。値段は…2つ合わせて2W!?こんな装備が!?何か裏があるのか…?」
「海人くん、いいから買おうよ。ほらほら!」
舞に引っ張られる。いてて…
「すいません、これください!」
どうやら舞のテンションはMAXのようだ。水を指すのも少し悪いし、買うか。
「…あんたたち、本当にそれを買うのかい?」
店員の婆さんが何か言う。警告のようだ。
「なにかあるんですか?こんな装備に。」
「[天使の腕輪]は天使と、[悪魔のネックレス]は悪魔と契約を交わすことになるんだよ。」
つまり、これをつけると(舞はともかく俺は)不幸な目にあうかもしれない、ということか。
「いいです。はやく会計してください。」
どうせゲームの中だ。せいぜい取れなくなるくらいだろう。
「…わかった。あたしに責任は無いからね。それ、サービスしたげるよ。タダだ。」
おお。すごいサービスだ…と言いたいところだがよく考えたらめちゃめちゃ安いんだった。
「それと、まだ買います。えー、これとこれとこれと…」
武器を次々と買っていく。舞の分のピアノ線も買っておく。全部でまあ5000掛からないだろう。
「えー、鋼の剣、ランボーナイフ、クロスボウ、トンボ切り、魔術の杖、手裏剣、クナイ、投げナイフにストーンメイス、それにピアノ線。合わせて4980Wだよ。…こんなに多彩なパーティなのかい?」
「いや、ピアノ線は彼女が。それ以外は俺が使います。」
すると婆さんは眉を吊り上げた。
「そんなに多彩な武器を使える職業なんて、あたしゃ数えるくらいしか知らないよ。それに、どれも素質がある人が極端に少ない。例えば重力師、移動術師、それに、暗器使いくらいじゃないかい?」
「ああ、俺は重力師です。だから使えます。」
「ますます訳がわからないね。暗器使いならわかるけど、重力師がなんでこんなの使うんだい?」
「使えるからです。俺には他の人と違う力があります。使いこなせるもの全てを取らないといけませんから、これだけ買うと決めたのです。」
そう言うと婆さんはため息をついた。そう。他の職業限定のスキルだろうと使える。これはすごい技能だろう。聞かれたら言ってやる。この婆さんにはなんだか負けたくない。
「…今、[鑑定]であんたのステータスを見た。ついでにあんたの中の能力も。こんなのあるなら使えるだろうね。よし。あんたにはアレを譲ろう。ちょっと待ってな。」
そう言い残して、婆さんは奥に行く。ほんの2.3分で戻ってきた。何か箱を持っている。
「そのクロスボウは、弓だ。そんなのよりこっちの方が強いよ。」
そう言って、箱の中から銃を取り出した。銀色のフォルムのリボルバー。見ただけで分かる、有名な銃。
「コルトパイソン…?」
「よく知ってるじゃないか。あたしが冒険者だったころ取ったものだよ。弾は無くなったら内に買いに来な。この辺は売ってるところ自体無いからねえ。安くしとくよ。6つで1Wだ。」
安い。呆れるほどに安い。これが人情というものか。これが優しさというものか。舞以外で、初めて見た気がする。…いや、そんなことはない。見逃していただけだ。
「…人間も悪くないな。」
「ああ?何か言ったかい?要るのかい?要らないのかい?」
婆さんがしつこく勧めてくる。いいだろう。
「買った!」
本当に、悪くない。
「さて。あとは日用品だが、これは明日ギルドの帰りに買いに行こう。やることがある。」
あのあと、婆さんに「これはいらない」と言われたものが多く、買ったのはランボーナイフ、魔術の杖、手裏剣、クナイ、投げナイフのみだ。ちなみに弾は600個買った。遠慮?しないよ?
「さあ、今日はあのバカ店員に一矢報いる。まずこれを見ろ。」
婆さんから買った専用の弾。当たった相手を眠らせることができる弾だ。一発5wした。高えな…
「これをあいつに打つ。そのあと、顔にしこたま落書きをする。分かったか?」
「やめようよ。かわいそうだよ。」
「シャラップ!あいつにはやり返さないと気がすまない。この程度ほんのイタズラだろう。」
「…じゃ、家に帰っとくから、手短にね。」
やはり舞も思うところがあるようで、それ以上止めることはしなかった。
「しめしめ…そらっ!」
撃つ。思ったより大きな反動。しかし、きちんと狙った場所に飛んでいき、狙い通り手の甲に直撃する…と思われた。
「…は?」
弾を、摘ままれていた。指で。
店員は何も無かったかのように笑顔で話しかけてくる。
「ああ、あなたでしたか。どうです?住み心地は。いいでしょう?あの家。」
「は…はあ…それで、なんでそんなこと…?」
「これは申し遅れました。私、冒険者ギルドの業績一位、要は最強の冒険者です。以後、お見知りおきを。」
「は…はあああああああああ!!!!!????」
この糞店員、なんと凄い人だった。…イタズラはやめよう。そう心に誓った。
次回、「舞と流行りの猥褻犯」お楽しみに!