ラブホテルとしばしの休息
いやー、ホテルのネタすぐ終わらそうと思ってたんですけどね…失敗した。
「ふう。腹一杯だな……舞。そろそろやめてやれ。ご飯食べ放題といえど、限度はあるんだ。見ろ。シェフが涙目だ。」
旨い食事を食い終わり、舞の方を見ると、延々と塩ご飯を食べていた。確かおかわり32杯だったか…?相変わらずなぜ太らないのだろう。
「えー…ね、あと一杯だけ!いいでしょ!?海人くん!」
「子供みたいにごねてもダメだ!何合食ってんだよ!釜5つじゃ効かねえぞ!?無理があるわ!」
「えー…お願い…ねえ、シェフさん!いいでしょ!?」
なんと、上目遣いだ。こいつはこの魔性の女の必須技能を無意識にやるから怖い。…あ、ほら。シェフが米ついだ。ったく…
「ほら、あんま食ってると太るぞ。」
「うぐうっ!……分かったよ……」
こういう女子への必殺技、「太る」を使う。いやー……効くんだ……重箱使ってた奴に……
「さ、部屋に行くか?風呂に行くか?」
「お風呂……」
ズーン、と聞こえるようだ。いや、こいつ……
「お前、あんなの気にしてるのか!?考えてみろ。あれはつまり貸切だ。つまり、交代で入ればいいだろ。そうじゃなくても水着くらいあるさ。」
ラブホテルといえど、水着くらいあるのが当然だろう。いや、知らないけど。
「そっか……うん、そうだね!よし!じゃ、お風呂にいこう!」
風呂に向かって歩き出した時、レジのおっちゃんの声が聞こえた。
「あ、そうそう。今日は盛況でな。あんたらの風呂の時間は15分だ。一人一人入ってたら時間足りないぞ。」
舞がその場に崩れ落ちた。
「なんでこんなことに……」
さすがに脱衣所は分かれているようで、今俺は男用の脱衣所だ。俺は一日くらい入らなくて平気だ、と言ったら、舞に止められた。舞曰く、「お風呂は入ってくれないと私が嫌!」だそうだ。
「んー…ああ、流石にタオルはあるな。水着は…無いか。くそ。まあ、あいつはともかく、俺はタオルでも平気だしな。」
タオルを腰に巻けば、男全員とは言わないが、俺は平気だ。俺の[恥ずかしい]のレベルは他よりもかなり高い。何ならこれで往来を歩けと言われても、普通に歩ける。流石にマッパは嫌だが。
「さて…おお、結構きれいな風呂だな。この世界にシャワーとかあったのか。」
そう言って、シャンプーを使い、頭を洗う。うわ…転げ回ったからかな…?泡が黒い。気持ち悪っ…こりゃ、二回目が必要だな。一度流そう。
舞、遅いな…まあ、流石にギブアップかな?もうちょっとくらい金出しても支障はないし、俺が上がったら、追加料金で風呂くらい入れてやろう。そもそも、瞬殺で倒して金を稼いだのは、おおむねあいつだし。
「ま、来ないなら体洗うのにも支障はないな。」
そう思い、洗うのに邪魔な腰のタオルを外す。すると、ドアが開いた。
「ご、ごめん、海人くん…どうしてもタオルだけっていうのは抵抗…が……」
舞が固まっている。それもそうだ。今の俺はマッパなのだ。つまりその…股間の触手も丸出しだ。
「お…おっす。いやー、綺麗な浴場だよな。」
とりあえず誤魔化すため、触手を隠しながらフレンドリーに話しかけた。すると…
「き……きゃあああああああああああ!!!!!!」
舞にビンタされた。1.2.3.4.5…6回。これで済んでよかったと考えるべきか。
「わ……悪かった!よし、とりあえず隠してる!な!?お前が来ないだろうと思って外していたんだ!よし、落ち着け!な!?」
「うるさああああああああああああい!!!!!」
この世界初の風呂は、アザと恥辱にまみれていた。
「ふー……えらい目にあった…」
「それはこっちのセリフだよ!」
いや、どう考えてもこっちのセリフだ。
風呂から出た後、俺達は飲み物を買って(自販機まであった。もしかしてマースの悪ふざけか?)部屋に向かっていた。……正直不安だ。
「えーっと、ここだね。」
「よし、とりあえず外で待っとけ。」
舞が入ってこない様に、カードキーで解錠し、入ってすぐにしめる。ふう……これで大丈夫だ。
「さて、いかがわしいグッズは……あったな。」
それら全てを鞄に入れて、[処分]をする。すぐにアイテム欄から消えた。
「ってか、いくつか温かかったが……これ、使用した直後か……?うえ、気持ち悪。」
そんなものを握っていたとは、我ながら恐れを知らない。いや、気づかなかったんだけどね。
その後、すぐに舞を部屋に入れる。舞は怒りと恥ずかしさの入り交じった顔をしていた。
「…どうした?」
「海人くん、中で何やってたの?」
何やってた…って、そんなの…
「言えないが。」
すると、舞は絶望した顔をしていた。
「聞こえたよ…[いかがわしいグッズ]、[あった]、[温かい]、[使用した]…何やってたの!」
「お前はエロを気にしすぎだ!決してお前が考えてるようなことなどやっていない!」
こいつ、もしかして俺よりエロいんじゃないか?
「ほら、そこに歯ブラシがあるから、歯を磨いて寝ろ。ベッドは使っていい。」
何気にもう11時だ。そろそろ寝ないと明日に響
く。
「うん…って、海人くんはどこで寝るの?」
「ん?そうだな…まあ、その辺の床で寝るよ。」
流石に一緒に寝るのはまずいだろう。ラブホテルとはいえ。
「いいよ。ベッドに入りなよ。これ、ダブルベッドだし、そもそも床でも大して変わんないよ。ただし、Hなことはしちゃだめだよ?」
「でも…」
「いいから!私が良いって言ってるでしょ!」
「…わかった。ありがとう。」
「どういたしまして!」
そう言って舞は快活に笑う。こいつは本当に…身の危険を気にしたら普通は嫌だろうに。
「さ、寝よう!ほら、電気消すよ!」
「お母さんか。」
そう突っ込むと、舞は少し寂しそうに笑った。そうだった。一人暮らしということは、親と何かあったのか。
「さ、消すよ!」
そう言って、舞は電気を消した。すると、一面真っ暗になる。隣でもぞもぞとベッドに入る音がした。
「って、早っ!!」
もう寝息が聞こえてきた。っていうか…こんな状態で寝ろというのか…ああ、聞こえてくる。マースの笑い声が聞こえてくる…!
結局その晩はほとんど眠れず、3時間くらいたったところでソファーに移動した。
次回、「新築一軒家と酒場の人々」お楽しみに!