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捕まったのはどっち?

作者: 月城うさぎ
掲載日:2014/11/23

大人の制服萌え企画参加作品です。

 そろそろ三十路に突入、という年齢になれば、親戚一同が集まるお正月なんて帰省するのも面倒になる。

 子供の頃は無邪気にお年玉をもらい、豪勢なおせち料理を堪能できて、久しぶりに会える従兄弟や祖父母と楽しい時間を過ごせたけども。微妙なお年頃の今じゃ、おせっかいな身内の心配というのは正直かかわりたくない物なのよ。

 必ず話題になるであろう質問を想像しながら、今年もまた新しい年を迎えた。顔出し程度に帰省した私を見て、記憶の中より少し老けた母方の伯父が、シミュレーション通りの台詞を口にする。

 「吉野ちゃん、そろそろいい人はいないのかい?」

 ――やっぱり来た。

 内心ため息を吐きたいのを堪えて、私は笑顔でお酌をしながら微笑んだ。

 「いないわね。私は理想が高いのよ」

 やんわりと笑いながら、でもきっぱりはっきりそう答えると、微妙な顔つきになる伯父さん。それから理想について追求され、無難な答えで逃げた私は台所へと引っ込んだ。

 「仕事に真面目で誠実で人間的に尊敬できて……ってのはまあ、最低限の条件よね」

 そう呟いた私、田中(たなか)吉野(よしの)、29歳。どれが苗字で名前かわからない、性別も曖昧な名前の平凡なOL。

 見た目は派手でもけばくもなく、どちらかと言えば清楚で大人しいと評される。こういった集まりでは多少オシャレもするが、普段一人暮らしだと全く着飾らない。でも外出する時は、とりあえずワンピースを着ることが多い。一枚でそれなりに見えるから。

 ぶっちゃけ先ほど伯父に告げた結婚相手の条件なんて、実はそこまで重視していない。あったら嬉しいけどなくてもいい物かしら。というか、私が求めるのは一つだけ。”萌え”よ。

 相手から萌えをもらえれば、それだけで十分幸せ。傍にいられるだけで、その姿を見られるだけで、私は満足できる人種なの。そしてその条件をクリアする人間は、意外と多いけれど、いかんせん職業が特殊で知り合う機会がなかなか少ない。

 でも別に、結婚願望が強いわけじゃないのよね。個人的に知り合う機会がなくても、時折街中ですれ違えるだけでときめきをチャージできるなら、それもいいわ。


 酔っ払い用にいくつかお水を注いでキッチンから居間に戻ると、いつの間にか来客者が増えている。思わず立ち止まってしまった。

 「あら、吉野。お水もって来てくれたの? 気が利くわね~」

 トレイごと受け取った母が、今さっき来たばかりの青年を私に紹介する。

 「ふふ、実は(いずみ)君がさっき来たのよ。あんた知ってた? 彼、パイロットになったんですって。兄さん達が制服着て見せろってせがむもんだから、律儀に制服持ってきて今見せてくれてて」

 「泉? って、あの泣きべそ泉?」

 私よりいくつか年下の従弟、大森(おおもり)(いずみ)。なにそのマイナスイオン垂れ流しの名前、という印象の彼と最後に会ったのは、私がまだ大学生の頃かしら。その時泉は確か高校生だった気がする。

 親戚一同に囲まれている輪の中心に目を向ける。成長期に彼はぐんぐん背が伸びて、伯父さん達より10cm近く高い。短髪の黒髪に男らしい精悍な顔立ち、凛々しい眉毛。だがその男らしい見た目に反して、泉は明るく人懐っこく、まるで大型の子犬のような男の子だった。

 「あ、吉野ちゃん」

 私に気づいた泉が、ふわりと笑う。変声期前は可愛らしい男の子の声だったのに、今じゃすっかり重低音のイケメンボイスだ。だがバリトンのセクシーさは、背後で大きな尻尾を振っている為半減している。黙っていればキリリとしたいい男に成長したのに、中身は変わっていないらしい。

 人懐っこくって、私を変わらず「吉野ちゃん」と呼びかける。やっぱり従弟は従弟だった。一人っ子の私にしてみたら弟のような存在。

 私の目の前まで来た彼は、母が言ったとおりパイロットの制服を身につけていた。航空大学に入った事は知っていたけれど、彼がパイロットの制服を身に着けている姿を見たのは初めて。帽子を脱いだその姿を見て、ごくりと唾を飲み込み凝視してしまう。

 ……あら、あらあらあら。

 こんな間近で魅惑的な制服を拝める日がまさか来るなんてっ。空港で遠めからちょこっと拝見できればラッキーだったパイロットが、自分の目の前にいるとは。何たる幸運。相手が泉なのが驚きだけど、今はどうでもいいわ。とりあえず、ご馳走様よ!

 という興奮は心の中だけに収めて、私はいつも通り年上のお姉さんとして接する。

 「久しぶりね、泉。元気そうじゃない。パイロットになったなんて、吉野お姉ちゃん知らなかったわよ?」 

 こてん、と首を傾げて見上げれば、泉はパタパタ幻影の尻尾を振った。

 「うん、驚かせたかったんだ。ずっと会えなくてさびしかったよ」

 どうやら甘えたで年下気質、おまけに直球な所もそのままか。この子、ずっとこんな調子だったら、女の子を勘違いさせるトラブルとか起こしてるんじゃ。

 後でちょっと話を聞くとして。今は従姉として、この特権を使ってやろうと思う。ぺたぺた制服に触れる機会なんて、一生に一度あるかないかの出来事よ。泉、でかした! と私は心の中で叫んでいた。

 「あの、吉野ちゃん?」

 「ん? 何かしら」

 ぺたぺた濃紺の制服を触っていると、泉は頬を赤らめる。

 あら、結構純情な反応。まさか女慣れしていないのかしら? 

 ……いえ、そんな事ないわよね。だってこの容姿でこの制服姿よ。モテないはずがないじゃない。

 「制服のラインが3本。副操縦士になったのね」

 「よく知ってるね」

 ええ、一応制服マニアとしては、その位は当然把握しているわ。ちなみに機長の制服はラインが4本とか。海軍の軍服がもとになっているらしい。

 写真撮りたいわね……ちょっと記念に後で撮らせてもらおうかしら。

 ぺたぺた触りながらそんな事を考えていると、私の手をほんのり頬を赤く染めた泉が片手で握った。

 「よ、吉野ちゃ、」

 「おーい、お水もう一個追加で持ってきてくれー」

 何か言いかけた泉を置いて、「はーい」と酔っ払いに返事を返す。ゲラゲラ笑っている親戚一同は、まだ飲み続けるのだろうか。

 「ごめん、また後でね」

 パッと手を離してもらい、私は再びキッチンへ戻った。


 ◆・◆・◆


 酔っ払い共が寝静まった丑三つ時。ようやく私も自室に戻り一息つける――と思ったら、一体この状況は何かしら。

 「吉野ちゃん」

 草木も眠るこの時間、起きているのは私と泉の二人だけ。話があると言って私の部屋に来た泉に、何故か壁ドンされている。魅惑の制服姿のまま両手を壁につけて私を囲む泉の目は、ほのかに赤く染まっていた。

 あら、あらあら、あら?

 目の前にはおいしい制服。驚きや困惑よりも、自分の欲望がうずうずと疼き始める。

 何これ、抱き着いてもいいって事よね。存分に抱き着かれても文句は言えない状況よね! 

 だが醸し出される雰囲気が、どこか淫靡で少しおかしい。泉はお酒に弱いのかしら? と顔を上げれば、いつものワンコ気質が鳴りを潜めて、私をじっと真摯に見下ろしていた。

 「やっと二人きりになれた」と掠れた声で囁く泉は、私が知らない男に見える。

 ふわり、とワンコがパタパタ尻尾を振って嬉しそうに微笑む姿とは真逆の、男の色気を感じさせる情熱的な眼差し。流石に私もこの状況を楽観視できなくなった。

 「もしかして酔ってるの? うちの父さん達、結構飲ませたでしょう」

 「いや、酔ってない。俺は正気だよ」

 壁ドンしたままそう言う彼からは、至近距離だと言うのにお酒の匂いが感じられない。じわじわと緊張感が高まるが、ここは少しでも大人の余裕を見せたい所だ。何て言ったって年上だし、今までの立場が覆るのは面白くない。動揺するわけにはいかないのよ。

 「正気、ね。それで? こうやって私を壁ドンして拘束する理由は何かしら?」

 くすりと微笑み、私より頭一個分高い泉を見やると、甘えたな大型犬が強気な狼に変貌した。

 「ようやくここまで来れた。子供の頃の夢を叶えられた。だから、吉野を貰おうと思う」

 いつものちゃん付けから、呼び捨てに。低められた声と相まって、少しだけドキッとしたのは内緒。でもそれを知られるのは私のプライドが許さない。

 弟のようだと思っていた存在は、いつの間にかしっかり知らない男になっていたらしい。その成長ぶりが嬉しくもあり、寂しくもあり、そしてやっぱり面白くもない。私はふふ、と小さく微笑んで見せる。

 「貰う? どういう意味かしら?」

 怯えた様子もなく、動揺もしない私を見て、泉は軽く眉を潜めた。男として意識されていないと感じたのだろう。腰をかがめて顔を近づけ、至近距離から私を見つめて来る。

 「俺はずっと、吉野が好きだよ。だから、俺の物になって欲しい」

 泉の告白は、やはり直球だった。

 胸の奥でキュンとする自分に気付き、内心戸惑いつつも苦笑する。

 あらやだ、私ったら。弟としか思っていなかったのに、この制服姿でこんな男前に成長した従弟に迫られていると思うと、知らないうちに胸の鼓動が早まっているわ。

 今にも狼になって私に襲い掛かろうとしているのに、身の危険を感じないのは彼が優しい事を知っているから。そして本当はがちがちに緊張しているのに頑張って虚勢を張っているのも、気づいている。

 キリリとした表情は好み。精悍な顔立ちにバリトンのセクシーな声も、ストライク。そして極め付けはこの制服――。思う存分眺めて触って視姦しては脱がしたい。彼に触りたくて堪らないのは私の方だ。

 自分の変態さに気付きつつも、止める事はしない。だって私は欲望に従順な女。この絶好なチャンスをみすみす逃すほど、愚かではないのよ。

 壁ドンされたまま、私は泉に思いっきり抱き着いた。突然の行動に、驚きでびくりと身体を震わせた泉の背中に、両腕を回す。そして掌で、制服のジャケットの背中を上下に撫でた。

 「よ、吉野ちゃん!?」

 「ふふ、なぁに? 吉野って呼び捨てにしてたのに、口調が戻ってるわよ?」

 見上げれば、泉の顔は真っ赤に染まって私を見下ろしていた。硬直して壁に両手をついたままの手が、私の背中に回る。

 「吉野……」

 掠れた声で呼ばれる名前は、甘く響く。はじめは怖々と、だがギュウっと力強く私を抱きしめてきて、私も存分にその力強い腕の感触を味わっていた。

 ああ、制服……パイロットの制服が頬にあたってる……!

 意外と逞しい胸板を制服越しに感じられて、きゅんきゅんする。何ていい具合に成長したのかしら、泉ったら。転んでは可愛く泣いてたあの頃は、すっかり遠い過去の事。吉野ちゃんと呼ばれるのも好きだが、吉野と呼び捨てにされるのも悪くない。 

 「好きだ、吉野。ようやく捕まえた」

 囁かれる声に、私の胸の疼きはますます加速する。泉を男と意識したのは今日が初めて。甘えん坊気質の泣きべそ少年だと思っていた彼が、まさか自分好みのドストライクに成長しているとは。思いもよらない誤算だった。

 私は艶然と、彼を虜にする微笑を浮かべる。

 「私も好きよ? 可愛い泉も、男らしい泉も。その制服姿もとってもセクシー」

 ――当然、中身もセクシーよね?

 そう小さく呟いた声を拾った泉は、身体を小さく反応させた。目は潤み、顔は先ほどよりも真っ赤に熟れている。

 くすりと笑う私は、普段被っている地味で大人しい猫をすっかり脱ぎ去って、彼が逃げないようにそのジャケットの背中をギュッと握りしめた。逃がさないように、逃げられないように。


 ……ねえ、泉。

 捕まったのは、どっち?

 

 







ワンコ気質な年下の大型犬が頑張って強気な狼に変身しようとしたけれど、気づけば大人しく地味な猫を被っていた女豹に捕まってしまう話…? です。


お読みいただきましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  うまくは言えないのですが……。  この手の読み物は、始めて見ました。  女性の、女性による、女性のための作品。読了後もにやけが止まらず、恋の気分に浸ることができました。  内容、文章とも…
2014/12/26 13:44 退会済み
管理
[一言] 企画に参加して頂き、ありがとうございました! ふぉぉぉぉ! パイロット!パイロットですか!! 国内線ですか、国際線ですか?!← 年下の大型犬がオオカミになりそこなって、結局はワンコに戻っ…
2014/11/30 01:08 退会済み
管理
[良い点]  パイロットの制服は萌えますねよねヽ(^o^)丿  可愛い大型犬をゲットできて羨ましいです。
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