美しい人。
大学の教室の片隅で、俺は語る。
長く光り輝く黒髪。
小さめの身長に、小さな足。
人形みたいに切り揃えられた前髪。
真ん丸の大きな目に、口は小さい方が良い。
服装は女の子らしい清楚なワンピースが似合って、何より笑顔がかわいい女の子。
好きなタイプについて。
「そんなヤツ、滅多にいないだろ」
必ずそう言われる。
だから俺は、
「知ってるよ。冗談に決まってるだろ、冗談」
と全てを冗談にしてしまう。
「いるよ」
目の前に座っていた女が振り返って言った。
「え?」
俺はあっけにとられて聞き返す。
「そういう女の子。私知ってるの」
「……え?」
「紹介してあげる。帰り、ついてきて」
その女は言った。
「佐倉くん、本当についてきた」
女は笑いながら言った。
「だって……君が……」
「私、佐々木。」
女は俺の言葉を遮り、佐々木と名乗った。俺の名前をもサラリと言ったその女は、
「学籍番号、隣でしょ?だから私はあなたの名前を覚えていた」
と言う。
その女……佐々木は、
艶々した綺麗な茶髪。
背が高く、手足も細くてすらりと長い。
大人っぽく流した長めの前髪。
目はつり目が魅力的で、鼻筋が綺麗。
服装はブラウスに細身のパンツ。
アナウンサー風の出で立ちだった。
「で、誰を知っているの?」
連れてこられたのは、大学内にある図書館だった。
「座って待ってれば、来るから」
佐々木は日当たりのよい窓側の席に座った。
仕方なく俺も黙って座ることにする。
「ほら、あそこ」
少しして窓の外を指差す。
そこには間違いなく、俺が言っていた条件が上手に取り入れられたといえる女の子がいた。
「いた、でしょう?
当てはまってて、気持ち悪いでしょう?」
「彼女は?」
「美術サークル?だったかな?
放課後よくあそこで絵を描いてる」
佐々木はそう言うと、どこかつまらなそうに両手を両頬にあて、机に肘をつく。
だから俺は、
「誰、なの?……名前、は?」
と聞く。
「佐々木」
「君じゃなくて、」
「……そうね、」
佐々木は一息ついてから再び口を開く。
「私は佐々木。
あの子も佐々木。」
と。
「どういう、こと?」
「ふたご。見えないでしょう?
かわいそうなのよ、私」
俺は失礼と思いながらも、目の前の佐々木と、外にいる佐々木を見比べる。
「みーんな言うわ。
ふたごの妹の方が良いって」
目の前の佐々木は、静かに涙を流していて、それを俺はとても美しいと思った。
「……なんて名前?」
俺は聞いた。
「妹はね、マナ。佐々木愛奈」
「妹じゃなく、」
「え?」
「君の名前を聞いている」
「……ミレイよ。佐々木美麗」
「俺、自分のタイプって、適当な事言ってたんだって気づいたよ。
でも、適当な事言ってたお陰で、君と出会えたらしい。」
「どういう事よ」
俺は自分が何を話しているのか。
半分自分でも理解できていないようだった。
でも、確かだった。
「俺のタイプは、君らしい」
驚いた顔をする彼女。
窓の外の女の子より、俺は知りたいと思った。
目の前の美しい人を。