王子がそれやっちゃマズイでしょ!王宮にて。
何の気なしに勢いで書いた短編に恐ろしいほどのポイントとお気に入り登録がされており、ランキングで凄い処に入ってしまい、ビビりまくっております。
また、沢山の続編希望の感想を頂きましたので、書いてみました。
誤字脱字は笑ってスルーしてくださると助かります。
「なんでこんな事に…」
太陽が真上に来る少し前、澄み渡る青空の下 ジャンヌは足取り重く一人暮らしをしている自宅へ向かっていた。
昨晩、結婚を夢見て交際を続けて彼に、友人と二股をかけられた挙げ句、できちゃった結婚をするからと交際の破局を告げられ絶望したジャンヌは、やけ酒を煽り泥酔していた所、ひょんな出来事でこの国、クロスクロウ王国の第一王子アレクサンドル・ヴィ・クロスクロウと一夜を共にしてしまい、あろうことか王子の初めてを奪ってしまったのだった。しかも、酔った勢いで王子を婿に迎える約束をしてしまい、なんとかそれを無かったことにしてもらおうとしたのだが、王子の「僕の初めてを奪っておいて責任取りません。…なんて言ったらどうなるか分かってるよね?」という笑顔の強迫により責任を取る事になってしまった。
その後、王子は婿入り準備をする為、王宮へと戻って行った。ジャンヌが逃げ出さないよう、“王族の証”である名入の指輪を渡して…。
………どうしてこんな事になってしまったんだろう。
もし、昨日の自分に戻れるのなら、自分で自分を殺してやりたい…。
どす黒い負のオーラを撒き散らしながら自宅の前に着くと、見覚えのある馬車が玄関を塞いでいた。そこには三人の人影。
げっっっ!!!!!!あっあの人達はっ!
馬車の前で青ざめた顔をしている、茶色い髪の優しげな顔立ちの壮年の男。その隣にはこの国では珍しい漆黒の髪と瞳を持った小柄な女性が男とは真逆、般若の形相で仁王立ちになっている。そしてさらにその隣にはジャンヌに良く似た焦げ茶色の髪に黒い瞳を持つ青年が所在無さげに立っていた。
なんで、父さんと母さんとシンがここに居るの!?
てか、母さんのあの顔は本気怒ってる顔だ。ヤバイ!!捕まったら確実に殺されるって私の第六感が叫んでる!!
こっ…こうなったら、回れ~右!…そしてダッシュ!!
殺られる前に逃げるしかない!!
「…シン…」
母さんが弟に声を掛ける。
「ッハイッ!!」
裏返った声で返事をした弟がこっちに向かって走ってくる 。
「うおぉぉぁぁぁぁ…ちよっ!!こっち来ないでよシン!!」
「母さんの命令だ!!大人しく捕まれ!!じゃないと俺が母さんに殺される!!」
「嫌だよ!私まだ死にたくない!!」
「俺だって死にたくない!!」
22歳の男が涙声で話すな!!泣きたいのはこっちだ!!
くっ…ダメだ、昨日の行為のせいで腰が痛くて早く走れない!!
でも、ここで捕まったら確実にこの世から消される。さっきまでは消えてなくなりたいとか思ってたけど、やっぱり死にたくない!!
「こーなーいーでぇぇぇえええぇぇぇぇ!!」
「姉さん、覚悟!」
「ぎゃぁぁぁあ…がぶっ!!」
弟がタックルしてきやがった!!
か弱い姉に対してなんたる仕打ちっ!!
見損なったぞ弟よ(涙)
「離してよ!!お姉ちゃんまだ死にたくないんだって!今まで散々助けてあげたでしょ!?姉さんに何かあったときは俺が助けてやるって言ったのは嘘だったの!?」
「ごめん、姉さん!!今までの事は凄く感謝してる。でも俺は何より自分がかわいいんだ!!骨は拾ってやるから大人しく成仏してくれ!!」
なっ…なんて恩知らずな弟なんだ!
っていうか、私はまだ死んでない!!勝手に殺すな!!くっ…止めろおぉぉ…お姉ちゃんを引きずるなぁぁあぁぁぁあぁ(泣)
弟の、鬼の所業とも言える裏切りに合い、逃走に失敗した私は 、ボロボロになって母親の前に引っ立てられた。
「ジャンヌ…。」
母から地を這うような低い声が発せられる。これは完全に死亡フラグ確定の声だ!!
「…ハイ…」
「貴女、一体何をしたのです?王宮から早馬が来て、国王陛下が貴女に会いたいそうよ。しかも、家族を全員連れて早急に参上せよとのこと。」
は!?国王陛下が私に会いたい!?
私、なんかしたっけか?
…………。
………。
……ってアレか!
王子が私の所に婿入りする話か!!それしか私が王宮に呼び出される理由が無い。
それにしても話が行くのが早すぎないか?
王子が宿から出ていったのは確かに朝方だったけどまだ昼前だよ!?
でもあの王子、思い立ったら即行動しそうなタイプっぽかったもんな…。
多分帰って直ぐ、また馬鹿正直に私の婿になるとかなんとか陛下に言ったんだろう。
そんな、行きずりで出会った何処の馬の骨とも分からない女の婿になるなんて馬鹿げた話、陛下が怒らない訳がないだろう。
しかも、酔った勢いとはいえ王子と一夜を共にしてしまっているときた。
隣国の王女との結婚を控えているのにこんなスキャンダルなど赦されない。
これはきっと、家族全員を秘密裏に処刑する為の呼び出しに違いない。
「っ…父さん、母さん、今すぐここから逃げて下さい。王宮へは私とシンだけで参ります。」
「ハァ!?なんで俺も一緒なんだよ!!」
「アンタはさっき裏切ったから道連れ。」
「嫌だよ!行くなら姉さんが一人で…ガベッ」
あ。母さんの必殺アッパーがシンにクリーンヒットした。
「シン、黙りなさい。ジャンヌ、私達に逃げろとはどういう事です?貴女は私達が逃げ出さなければならないようなことをしたの?答えなさい。ジャンヌ。」
「………あ……それは……その…」
「なんです?」
「……………」
「ジャンヌ、黙ってないでちゃんと話しなさい、それとも…それほどまでに言えないことをしたのですか?」
言えない!!言える訳が無いじゃないか。
結婚を考えていた彼氏に振られたその日の夜にやけ酒して酔っぱらって、この国の第一王子の初めてを奪って、その責任を取るために、王子を婿にする約束をしたなんて。
「………」
「…解りました。ジャンヌ、今すぐ着替えてらっしゃい。そうしたら直ぐに王宮へ向かうわ。アナタ、ジャンヌの準備が出来次第出発します。そこで伸びているシンを馬車に詰め込んでおいて下さいな」
「えっ…?」
「どうしても言えないことなのでしょう?ならば私達家族は是が非でも王宮に行かねばなりません。ジャンヌ、貴女が何をしたかはもう聞きません。もし、貴女が私達家族を逃がさねばならないようなことをしたとしても、私達は逃げません。貴女と供に最期の最後まで側に居ます。…それが家族というものでしょ?」
「…母さん……。」
「さあ、早く着替えなさい。これ以上陛下をお待たせしてはなりません。」
そうして私は母に促され、急いで着替えると家族と供に王宮へ向かった。
「ルイス・フォルゲン準男爵と奥方のシノ様、ご息女のジャンヌ様、ご子息のシン様只今到着してございます。」
王宮に着くと、物凄く大きくて豪華な扉の前に私達家族はつれてこられた。
どうやらここが謁見の間らしい。
案内をしてくれた人が室内に声を掛けると中から「入れ」と声が聞こえた。
両親に続き恐る恐る扉の中に入ると、そこには豪華な衣装に身を包んだ国王陛下と王妃様と側室様らしき人が陛下の両隣に座っていた。
「よく来たな、ジャンヌ・フォルゲン嬢。」
国王陛下が私の名前を呼ぶ。
ひぃぃぃぃ!!初っぱなから名指しか!!
普通だったら父の方から順に声をかけてゆくはずなのに私から声をかけたってことはやっぱり私はここでサックりと処刑されて城の生ゴミと一緒に畑の肥料になるんだ…。いや、それならまだマシかも、もしかしたら汚物と一緒に汚物処理場に流されるかもしれない!
それだけは嫌だ!!せめて生ゴミにしてもらえるよう慈悲を乞おう。
「…はっハイッ…フォルゲン準男爵が娘、ジャンヌ・フォルゲン。陛下の勅令により只今御前に参上致しました。」
ぅう。声が震えてる!!
「挨拶だけはちゃんとしなさい」って母さんに躾られたのに…。隣の母さんから物凄い冷気が漂ってきてる!!前門の虎後門の狼ならぬ、正面の国王、左隣の母。右隣には裏切者の弟と背後には警備兵。どこに転んでも最悪の結果しか見えない!!
「うむ。フォルゲン準男爵、シノ、シン。そなた達も急に呼び立ててすまないな。」
「とんでもごさいません陛下。我らフォルゲン準男爵家のような末端の者にそのような御言葉もったいのうございます。」
今日、始めて父がしゃべった気がする。
普段はいっつも母の尻に敷かれ情けないことこの上ない父だが、こういった場では一応準男爵位を持つだけあって堂々としている。
「…堅苦しい挨拶はもうよい。本日そなた達を呼び立てたのは他でもない。ジャンヌ、君についてのことだ。」
きっきたぁぁぁあ…
ダメだ!!このままじゃ一家皆殺しになってしまう。それだけはなんとしてでも阻止しなければ!!
「大変申し訳有りませんでしたぁぁぁ!!」
一歩前に出ながら勢いよく膝と額を床に付ける。母の国に伝わる最上級の謝罪方法、スライディング土下座だ。
「此度の事は全て私の責任でございます。酒に酔い自我を失っていたとはいえあのようなこと…赦される筈もないとは深く、深く存じております。ですので私はどのような罰でもお受けする次第でございます。命をもって償う覚悟もございます。ですが、それは父も母も弟も全く知らぬところでの出来事でした。私の家族には一切関係御座いません。ですからどうか、どうか、どうか…家族だけは御許しください!!」
「………………」
床に額を擦り付けたまま一気に捲し立ててしまった。
部屋中がシン、と静まり返っている。
痛いほどの静寂を破ったのは国王陛下だった。
「…………何の事だ?」
「へっ!?」
思わず顔を上げてしまった。
国王陛下が首をかしげて怪訝な顔をしている。
「余は、そなたの類い稀なる仕事ぶりに対して叙勲を授けようと呼び立てただけぞ?」
「ぇぇっ?…し………ごと……で……ございますか…?」
「そうだ。そなたの両親達が開拓した東の島国、ネホンとの貿易を発展させたのは他でもないそなたであろう?
フォルゲン準男爵がシノ殿の国にたどり着き、かの国の巫女であったシノ殿と結ばれ交易が出来るようになったが、それは巫女であったシノ殿が交渉の橋渡しをしている間だけ。
かの国の人々は余所者をひどく嫌う。もし、シノ殿が万一居なくなれば、たちまちかの国とは取引が出来なくなるであろうと皆が懸念していた所、巫女の血を引くそなたが、かの国で認められたうえ、その国の姫君達に我が国の装飾品を広め、市政の民達にもその輪を広めた功績は大きく、また、我が国の民達にかの国の安価な反物を流行らせ、かの国との定期的な貿易を成立させることが出来たのはそなたの功績であろう。それを表彰しようと思ったのだ。」
…確かに、母はネホンの巫女という特殊な職業の人で、難破しかけた船でたどり着いた父と大恋愛の末、めでたく結ばれこの国に嫁いできた。そして、なんとかネホンとの貿易を二人でやってきたが、ネホン人との交渉は母でないと駄目だった。何故ならネホンの皇族と話をする事が出来る、民に一番近い存在が巫女なのだ。巫女は市政の中に紛れ、皇族の世相を占う。何人かいる巫女の中でも母は取り分け力の強かった 。母は皇族の頂点である天皇の信頼も厚く、父の妻のとなりネホンから離れてもそれは変わらなかった。だから、余所者を嫌うネホン人は母とだけは交渉してくれた。
そして、私と弟が産まれネホンへの旅に同行出来るようになり、母は私をネホンの天皇に会わせてくれた。
(しかし、母と同じ血を引く弟は会わせてもらえなかった。ネホンでは天皇と男性が顔を会わせるのは禁忌なのだそうだ。)
私は天皇に合った瞬間、“この国の姫達に会わなくてはならない”と頭に文字が浮かんだ。
それを母に話すと、母はそれを天皇に伝えた。どうやらそれが巫女の力らしい。巫女は皇族の瞳を見ると啓示が降りる。
そしてその啓示に従い私はネホンの姫君達に合い、話をするうちに、あれよあれよと事が進み、幾年かの年月を経て今回の定期的な貿易が成立した。
ただ、そのおかげで付き合っていた元彼となかなか会えなくなり、昨日の“友達と二股されたあげく、出来ちゃった結婚をされ捨てられる”結果となってしまった。
それでもって王子の童貞喪失と婿入りの話となるのである。
……………ん?
でも、今の陛下の話だと、私の失恋と王子の話には全く触れていないぞ?
てことは、まだ王子との関係は知られていない!?
「…ところで、先程そなたが言っていた罪を償うとかどうとかの話は何なのだ?」
デスヨネー。
やっぱりその話になっちゃいますよねー。
さっきの国王陛下の長話で皆、忘れちゃわないかな~…とか思ってたけど無理デスヨネー。
私、土下座までしちゃってその体制のままだし、しらばっくれるなんて出来ませんよねー。
「…………えぇと……あの…………。」
あー。墓穴掘った~。どうやって話そう…
なんて考えていると、後方のドアが思いっきり開いた。
その扉の音に思わず顔を向けると、そこには今朝合った王子が居た。
「ジャンヌ!!」
王子が私の方へ駆け寄ってくる。
……何て間の悪い時に来やがるんだこの王子はっ!!
これからなんとかして先程の話を誤魔化して、一家皆殺しを回避しようとしてたのに、王子が出てきてしまっては話の誤魔化し様がないではないか!!
「ジャンヌ、そんなところで何をしているんだ!?何故そんな格好をしている?何があった!?」
王子が私の隣に膝をついて捲し立てる。
…止めてくれ王子~。私に話しかけないでくれ~。ほら皆「えっ?何こいつ王子と知り合いなの?」みたいな空気になってるよー。
「アレクサンドル、そなたジャンヌ嬢と知り合いなのか?」
あぁあぁ~。ホラ~。だから言わんこっちゃない。国王陛下が聞いてきちゃったよ…。
「はい。僕は昨夜、彼女の婿になる約束をしました。」
………いっ・て・し・まっ・た・よ・この王子はっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「昨夜…!?………婿……!?」
国王陛下の顔色が変わる。
あっ。死神の足音が聞こえる気がする…。
「はい、僕はジャンヌに全てを捧げました。ですので、隣国の姫とは婚約致しません。ついでに僕はジャンヌの婿になるので王位も要りません。ですので、王位継承権第一位を弟のベルナルドに譲ります。」
王子、物事には時と場合と言うものが有りましてですね…今は、間違いなくそれを言っちゃならんタイミングだったと思うんですよ。ホラ、見えませんか?私の隣に死神が立ってるんですヨー。
「まさかそれで昨日…!?………アレクサンドル、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
陛下が私を睨む。
…………ダメだ…死神が笑って鎌を振り上げてるのが見える。自分の生きている未来が見えない…。
「ええ。分かっております。まず第一に僕は、愛していない女性とは結婚したくありません。王位継承権第一位となれば例え愛する者をめとったとしてもそれ以外に側室を作り子を増やさねばならない。僕は愛する者以外を抱く事は出来ませんし、ジャンヌに全てを捧げているのでジャンヌ以外の女性を抱く事はこれから先、死ぬまでありません。」
「馬鹿な事を申すな!!第一、隣国の姫との婚約はどうするのだ!?隣国フォンスとは国交の面で大事な局面を迎えておる、今更覆すことなど出来ないのだぞ!!」
「それにつきましては、先程も申しました通り王位継承権一位をベルナルドに譲りますから、ベルナルドと婚約させれば宜しいでしょう。確か、姫は14歳でしたよね。ベルナルドは16歳と歳も近く、4歳も年の差のある僕よりうまくやっていけるのではないですか?」
「屁理屈ばかり申すでない!!」
あーあ。国王陛下が完全に怒っちゃってるよ。
うちの家族なんて話に付いていけなくてボーゼンとしてるし…。死神は振り上げた鎌をいつ下ろせばいいかタイミングが掴めなくなってソワソワしている気がする。
いっそのこと帰ってくれないかな。っていうか私が帰りたい…。
「そもそも、僕が王位継承権第一位というのがおかしいのです。母上は確かに王妃ですが出自の位は伯爵家、しかも本来は孤児であったのを陛下が見初め、王妃とする為に伯爵家の養子にさせたのですよね?かたやベルナルドの母君、ファティマ様は側妃でありながらも南の大国アストリアの第二王女。血筋的には何の問題もありません。むしろ、ベルナルドが次期王になれば、南のアストリア、隣のフォンスとの更なる繋がりが出来、子でも産まれればその絆はより強固なものとなるでしょう。」
「……そこまでしてその女が良いのか…。」
「“父上”も“お爺様”に同じ事を言われましたよね?それでもあなたは母を“王妃”にした。妻にするのであれば側妃でも構わぬ筈なのに…。その“理由”と僕の気持ちは同じですよ。」
あ。なんだか嫌な予感がする…。
「……くっ、理由は解った。ならば彼女を王妃とし、フォンスの姫を側室に迎え、王位を継げ。」
ホラきた!!“仕方がないから王妃”フラグ
無理無理無理無理無理無理!絶対無理!
王妃様になんて、なれません、なりません、むしろなりたくありません!!
そんなものになったら、ドロドロとした王宮事情と愛憎劇に巻き込まれて絶対面倒な事になる。それに、私にはまだ沢山やりたいことがある。王妃なんて柵だらけの所ではそれが出来なくなってしまう!!
「ですから、先程から何度も申しました通り、僕は王位など要りませんし、ジャンヌ以外の女性を妻に迎えるつもりはありません。」
「あれも嫌、これも嫌と我が儘ばかり申すな!!」
陛下が立ち上がって怒鳴り付ける。
今にも私達の所まで来て殴りかかってきそうだ。その時、陛下の両脇からなんとも場違いな声が聞こえてきた。
「まぁまぁ…もうその辺でおよしになったらいかがですか?アナタ。」
「そうですよ陛下、もっと冷静になって話さなければアレクサンドル様に口喧嘩では勝てませんよ」
ほわほわとした声で王妃様が陛下の腕をそっと叩くと、反対側に座っていた側室様が陛下を椅子に座らせる。
「リン、ファティマ。」
「あらあら、こんなに深く眉間に皺を作って…。折角の素敵な顔が台無しよ?アナタももう若くないんだからそんなに怒って倒れでもしたらそれこそ一大事だわ。」
「リン様の仰る通りです。陛下の顔に皺が出来たり、怒り過ぎで倒れてしまって悲しむのはリン様なのですよ。リン様を悲しませるような事をしたら、いくら陛下といえども只ではおきませわよ。」
…あれ?王妃様が言ってることは分かるんだけど、側室様が言ってることは何か違くないか?
「ねぇ、ジャンヌちゃん。ジャンヌちゃんどうしては王妃になりたく無いの?」
「…えっ?」
王妃様が急に話しかけてきた。突然の話し掛けられてにちゃんとした返事が出来なかった。
ん?何故王妃様は私が王妃になりたくないと知っているのだろう?今までの話の流れで、私が王妃になりたくないなどとは一言も言っていないし、王子も話していない。
というか、陛下はあんなに驚いていたのに、王妃様方は全く動じていない。何故??
「あのね、ジャンヌちゃん。今朝がたアレクが帰ってきて真っ先に婿入りの話をしてきたのは私達だったの。だから、大体の経緯や事情は分かっているわ。今までアレクは王位継承権第一位として王に成るためずっと努力してきたわ。でも、アレクは婿になるって聞かないの。じゃあ何故ジャンヌちゃんは王宮に入れないの?王妃になりたくないの?って聞いたら理由は教えてもらえなかったの。」
「それは…」
酔った勢いで、王宮に行ったら面倒くさそうだから行きたくないって言ってしまったらしいです…とは、言えない!!
素面の今ならちゃんとした理由が有るけど、王子に話したらしいのは面倒ということだけ。そりゃあ王子も面倒だから来たくないんだって。とは言えないよな~。
どうしよう!?王子にも話していないことを理由として話していいもんなのか!?
「ジャンヌ…。昨日の君と話していて僕は君が王宮に入りたくない本当の理由をなんとなくは解っている。でも、僕は嘘、偽り、憶測の話をおいそれとは話さない。だから母達には王にならないと言った。勿論、それは僕の本当の気持ちだ。君と居るためなら王位など要らない。でも、君の本当の理由を…僕達に教えて貰えないだろうか」
「あ…」
王子が手を握って見つめてくる。
王子の右中指は指輪痩せして少し細くなっている。でも、そこには何も嵌まっていない。
そこにあるはずの指輪は私のポケットの中。王子が私に逃げないよう渡した指輪…。
そうだ、逃げられない。いや、逃げてはいけない。私より六歳も年下の王子がここまで言ってくれているのだ。私は約束したじゃないか!「責任を取らせて頂きます」と。
なら、取ってやろうじゃないか!!
見てろ死神!玉砕覚悟で言ってやる!!それでダメなら魂でも首でも持っていくがいい!
「畏れながら申し上げます。私は皆様がご存知の通り、東の島国ネホンとの定期貿易を結ぶことが出来ました。
しかし、それもまた母と同じ巫女の血と予言の能力が有ったからこそ。もし、私が死ねばまた外交は断たれてしまうでしょう。ですから、私はネホンへ生活の拠点を移し、ネホンでクロスクロウ国人の夫との子を産み、我が国との長期的かつ安定的な国交と貿易が出来るようにしたかったのです。本来であれば、交際していた男性にこの話をする予定でした。しかし、彼は私がネホンへ貿易をしに行っている間に私の友人と子を作り結婚してしまいました。それを知ってヤケ酒を煽り、意識も定かでは無くなったときに、
王子殿下から婿入りの話を頂き、その話を飲んだのだと思います。婿が居ればネホンで子を産める、ネホンに我が国のより濃い血を持った子を根付かせ貿易が出来ると安易な考えで…」
「ジャンヌ…。」
「すみません殿下…。私は最低な女です。我欲の為に貴方を利用してしまった。記憶が無くなる程酔っても、本音を隠して貴方を婿入りさせるほどに…。」
殿下がぎゅっと強く手を握ってくる。
「でも、今はそれだけの気持ちではございません。私は殿下を愛してしまった。たとえ、出会って間もなくても貴方の真っ直ぐさと正直さ、そしてこんな私の婿になるなるために王位まで捨ててくださろうとする深い愛に…私の胸は張り裂けそうな程うち震えております。ですから、殿下。どうか私の夫になって下さい!!
そして国王陛下、ならびに王妃様。無礼かつ身分不相応は重々承知しております。ですが私にはアレクサンドル殿下が必要なのです。私とアレクサンドル殿下の幸せのため、ひいてはクロスクロウ王国とネホン皇国との末長い安寧の為、アレクサンドル殿下を私の婿に下さい!!!!!!」
そして、二度目の土下座。
っっっっよし!なんとか噛まずに言い切ったぞ。あとはもうなるようにしかならない!
もう、煮るなり焼くなり好きにして!!
「……まぁぁぁ~なんて男らしいのジャンヌちゃん。ねぇ、そう思わないファティマちゃん、アナタ?」
「そうですわねリン様。わたくしリン様と言うものがありながら不覚にもトキメいてしまいましたわ」
「……………」
陛下だけが沈黙している。
やはり、赦してはくれないのか…。
「父上、僕からもお願い致します!!僕はジャンヌの強く快活で自分の道を見据え切り開く、その美しさに心引かれました。僕はジャンヌの夫に、婿になりたい!彼女の夢を支え、必ずやこの国を、かの国から栄えさせて見せます。ですから、どうか僕をジャンヌの婿にさせて下さい!!!!!!」
隣で王子が土下座をした。
ちょっ!!王子が土下座なんてしたらマズイでしょ!!やめて!綺麗な顔が汚れてしまう!!
「国王陛下。無礼を招致で、ジャンヌの父であるこのわたくしルイス・フォルゲン、からもお願い申し上げます。どうか、この二人を認めてやってくださいませ……」
「ジャンヌが母、シノからもお願い申し上げます。」
「ジャンヌが弟、シンからもお願い申し上げます…。」
私の後で父たちが土下座をする気配がした。
ちゃんと理由を話していないのに、それでも私の背中を押してくれる家族に涙が出た。
それから陛下は「少し考えさせてほしい」と一時退出され、暫くしてから再び謁見の間に現れた。
「クロスクロウ国第一王子、アレクサンドル・ヴィ・クロスクロウ。そなたをジャンヌ・フォルゲンの夫とし、婿入りを認めよう。ただし、王位継承権は第二位とし、王位継承権第一位ベルナルドに不測の事態が起きた場合には、速やかに王位に付いてもらう。その為、名はアレクサンドル・クロウ・フォルゲンと名乗れ。」
「はっ。陛下の寛大なお心遣い感謝至極に存じます。」
国王陛下から王子の婿入りが許された。
それからは、非常に忙しかった。王妃リン様と側妃ファティマ様からは祝福の包容を頂いたり、国王陛下がスネて口を聞いてくれなくなったり、それを見て王妃様が満面の笑みで指をポキポキしたら、陛下が青ざめて積極的に話し掛けてきてくれたり、家族には事の始まりからをすべて説明するように言われ、説明した後半殺しにされかけたり、王子の婿入り修行が開始されたりと、本当に大変だった。
そして、今日は結婚式…。
クロスクロウ王国の大聖堂には新しく夫婦になる二人を祝して大勢の人々が詰めかけている。
バージンロードには純白のドレスに長いヴェールを纏った美しい花嫁、その先には洗練された衣装に身を包む花婿。
手に手を取り合い愛の誓いを交わす
第二王子ベルナルドと隣国フォルゲンの姫がだけど…。
「何故ベルナルドに先を越される…」
「仕方がないじゃないですか…私達には柵が多すぎるんですよ。いくら陛下達が納得されても、周りを納得させなければ、アルは国を出ることすら儘ならないんですから。」
「でも、出会ったのも結婚が決まったのも僕達が先の筈なのに…」
「大丈夫ですよ。そう焦らずとも私はアルだけを、アルは私だけを愛しているのですから、必ず結婚式を挙げられますよ。」
「それもそうだな。いざとなったらコッソリ脱出してネホンで式を挙げるのも良いだろう」
「ちょ、王子がそれやったらマズイでしょ!!」
そうして、私達は笑い愛ながら唇を重ねた。
了
いかがでしたでしょうか?
一応、ハッピーエンドです。
この二人は結婚式を挙げるまできっと物凄くバタバタすることでしょう。
気が向いたら元カレ達の話しも書けたらいいなと思っています。
だって、ムカつくんだもん(笑)復讐してやりたいよね(笑)
それでは、ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。