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不気味な館2

「……どうかした?」

「どうもしないわよ」


 サナが僕への視線を、自分の食事に戻す。

 僕らは今、昼と同じところで夕食中だ。会話は少なく、ギクシャクしている。店に入ってからずっとだ。ユニに至っては、この二人と会話すらしたことがないんじゃないのか。

 サナは無言で食べて、サギスもあまり話さない。考え事でもしているんだろう。

 いつになったら空気が和らぐことやら。


「明日は、次の町に行こう」


 長い沈黙を破ったのは、サギスだった。食事のほとんどを食べ終わり、待たされそうだったから丁度良かった。


「本当にあのじいさんのことを信用するの? いかにもインチキ臭かったじゃない」


 不機嫌そうに、サナは口を開く。この人ずっと不機嫌だな。


「もし本当だったらどうする気だ? 俺達は全滅だぞ」


 そんなサナを気にも止めず、サギスは言う。でも言葉は、切迫詰まっているみたいだった。


「逃げるの?」

「自ら危険に飛び込む必要はない」

「じゃあ、魔王の情報分からないに決まってる。前もそうだったじゃん、危険だから行かないって言って」


 サナの言葉に、サギスは黙り込む。

 見知らぬじいさんに危険だとか言われたんだろうね。別に気にする必要ないのに。

 それとも、そのじいさんが魔物だったとかいうオチかな。

 事情を聞きたいけど、正直それほど興味がない。この会話を割って入ってもやけどしそうだしなぁ。


「こいつら仲間にして、どこへ行くつもり? 仲良しごっこでもしたいの? そんなんだから魔王に近付けないんだよ。ザコでも戦力が増えたに違いないんだから、多少の危険で怖がってちゃあ、おかしいよ。行こう」


 いつもより口調は優しいけど、結構グサグサ言う。サギスにも言うね。

 確かに逃げてたら始まらないけど、結構危ない場所なんだよな、あそこ。


「……ああ、そうだな」


 言い返せず、言い包められるサギス。自分でも分かってるんだろう、このままじゃダメだってことを。

 でも納得はできていないみたいで、険しい表情のままで考え込んでいた。



 で、さっさと済ましてしまおうということになったらしい。

 まだ夜なのに、館へと来てしまった。バカじゃないの。


「サナ、僕傷口が痛むから帰るね」

「何言ってんのよ。あんたは戦わないんだから、傷口なんて関係ないじゃない」

「ねぇ、傷ってさ、戦わなくてもキツイものなんだよ?」

「いいから行くよ」


 実は、館で戦った敵とはカタが付いていない。

 戦闘の流れを説明すると、僕が魔法を使おうとして傷を負う。魔法を使う。失敗する。相手が姿を消す。

 なめられたもんだ。僕は戦うまでもないと判断されたんだろう。

 いつの間にか、本はなくなっていた。知りたい魔法はもうなかったからいいけど。

 傷は、脇腹をザックリ。ユニに治療してもらったから、応急処置は終わっている。

 もう少し時間があれば、完治できただろうに。

 サナは乱暴に、扉を蹴り破る。中に入ると、昼の陽光は月明かりに変わり、綺麗な館に見えた。


「ほとんど壊れてるな。戦闘でもあったのか?」


 サギスが、壊れた階段へと近付き、触れる。魔力の残りでも探しているんだろう。

 ユニに頼めば一瞬なんだけど、黙っとこ。

 前回同様、バタン、と大きな音が響いた。サナとサギスの二人が振り向く。すぐに驚きの表情に変わった。

 破ったはずの扉が、元に戻っていたんだろう。

 あの扉、簡単に開くけどね。


「ほらユニ、目を瞑ったほうが怖いから、ね? ほら、手。」

「……うぅ」


 怯えて目を固く瞑っていたユニに声をかけ、手を握る。早くも涙目。


「閉じ込められたようね。レイト、警戒を怠らないように」

「あ、初めて名前呼ばれた」

「分かった?」


 どうでもいいことを言った僕を睨めつけるサナ。


「う、うん。分かった」


 一々怖いなー、ほんと。そんなに嫌わなくてもいいだろうに。


「血痕があるな。この出血量だと、下手したら死んでるぞ」


 後ろから聞こえてきたサギスの声。そちらを見ると、地面にある大きな赤い染みに、手を当てていた。

 それ、僕のだ。


「上にも行けそうにないしな。ひとまず、ここを探すか」

「了解。こっちは、僕とユニで行くよ」

「待ちなさい、あたしも行く」


 サナが、昼は無視した奥の廊下へ行こうとする僕達を止め、前に立つ。

 暗闇を見ながら、僕達に背を向く形で言う。


「あんた達だと、死ぬかもしれないでしょ。勝手に行動しないで」


 心配してくれたのかな。それだけ言うとサナは暗闇へと消えていった。

 とりあえず、僕らは後をついていく。



 長い廊下だ。僕らの足音が聞こえるだけで、他の音はなく、おまけに視界は真っ暗。

 手を伸ばせば壁にぶつかる。戦闘には不向きな通路だね。

 しばらく歩くと、光が見えてきた。壁に掛けられた燭台の蝋燭の火だ。まだ薄暗いけど、ないよりはマシか。

 そこで、初めて気が付いた。

 壁には茶色くなった、大きな血痕がある。

 壁には、へこんでいる箇所がある。争いでもしたんだろうか。どう見てもこれは、誰かが壁を壊そうとしてやったものだ。

 貫通していないところを見ると、この壁は相当厚いらしい。

 床にも、血痕がいくつかあった。奥に進むにつれて、瓦礫が多くなり、血痕、燭台の数が増えていく。


「どう、少しは怖くなった? 旅をするからにはこういうの、たくさん見ることになる。覚悟はしておいてね」


 サナは、意地の悪い笑みを顔に浮かべながら、僕を横目で見る。

 怖がらせたいのかな。旅を甘く見るな、とか思ってるのかな。


「そうなんだ……」


 何か言おうと思ったけど、続きが出てこなかった。何か言われるかと身構えたが、そんな僕を見て満足そうに、サナは前に向き直る。

 よく分からないなぁ。


「ユニ、近くに人の……」


 ふと、ユニに魔法力を探知してもらおうと声をかける。

 顔色を青くして、今にも泣き出しそうな目でこちらを見る少女の姿が目に入った。

 言ってくれれば良かったのに。話す気力さえなかったのかな。


「はい、幽霊なんていないからね」


 ポンポン、と背中を叩く。ビク、と身体を震わせただけで、表情は固まったままだ。


「サナ、もうすぐ着く?」

「どこによ」

「どっかに」


 ユニを抱えると、強い力で服を掴まれた。


「余程怖かったんだね、よしよし」


 頭を撫でてあげても、あまり反応はない。限界寸前だな。


「なんでこんなところに子供連れてきたのよ。こんな血なんて見せられたら、怖いに決まってるじゃない」


 僕の質問には答えず、バカじゃないの? とでも言いたげな言葉が代わりに飛んできた。


「一人で置いていくわけにはいかないでしょうに。それに、この子がこんなにホラー系に弱いと思ってなかったんだよ」

「ホラーって……血はホラーじゃないでしょ。可哀想だし、あの扉開けて、さっさと出るわよ」


 いつの間にか扉の前。意外と早かったね。

 前にいるサナが扉を雑に蹴って壊し、中を確認する。本当に警戒しているんだろうか。


「なんだかんだで、優しいんだね」


 僕の言葉に、反応はない。無言で部屋の中に入っていく。

 部屋の中は広かった。でも、置いてあるものは少ない。

 日の点いたランタンが置かれた、丸机だけだ。部屋の隅にポツンと設置されている。


「暗いわね」


 サナが一人、呟く。

 それでも、さっきまでの廊下と比べればマシだ。ギリギリ、部屋の隅まで見えるし。


「ここには、もうこれだけしかないのかな」

「……そうね。念のため、確認だけはしておかないと」


 サナが部屋の中を見回して、ランタンのほうへ歩いていく。

 そして何気ない動作で、机をコン、と叩いた。


「うん?」


 引っかかることでもあったのか、もう一度、机を叩く。


「ああ、そういうことか」


 今度は手のひらを、机に乗せる。

 すると、サナの手を中心から、机に亀裂が広がっていく。

 不思議なことに、その亀裂は机の足から部屋全体へと広がっていく。


「幻影魔法か」


 部屋に、元々かけられていたものを解除したんだろう。なんで机で気付けたんだろう。

 ガラスの割れた時のような音が響き渡ると、僕らはどこかの大広間に立っていた。

 無駄に広いだけで、何も置かれてはいない。

 見上げると、月の光が僕らを照らしていた。天井はなく、屋外にいるのと変わりはない。


「……何のようだ?」


 不意に、声が聞こえた。


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