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旅の準備中

 僕の背中に、ずっしりと重い荷物が乗せられる。食料、衣服、怪しげなもの等々、旅に重要なアイテムが詰め込まれているらしい。


「ほら、乱暴に扱うなよ。結構な値で売れるものもあるんだからな」

「分かったけど……こんなに暑い時間帯に出なくてもいいと思うんだ……」


 時刻は昼。丁度、気温が高くなっていく頃だ。

 今は宿の中にいるから日差しを浴びることはないけど、外はきっとそこそこホカホカしてるはず。

 その中をこんな荷物を担いで歩いたりしたら、暑くなるに決まってる。

 ただでさえ、なんかイライラしている人がいるのに。


「しょうがないでしょ。あんたはこの中で一番弱いんだから。こういう雑用もできずに、旅に連れて行ってもらえると思ってるの?」

「この中で僕が一番弱いと思ったら大間違いだよ。ね、ユニ?」

「え?」


 また姫の昔の人っぽい発言が繰り出されたので、ユニに話を振る。

 それまで僕の後ろにいただけなのに、とばっちりだね。


「子供が戦力に入るわけないでしょ!」

「んっと、誰もユニが弱いとは言ってないよ?」


 背中の荷物を地面に下ろす。こんなものいつまでも背負ってられない。

 ドサ、と地面に置くと、何かが割れた音が聞こえた。そういえば、貴重な魔物の骨も入ってるとか言ってたっけ。

 大丈夫、きっと大丈夫。


「……どういう意味?」


 一応中身を確認しようと手を伸ばす。うん、外側しか見てないけど大丈夫。


「そのままの意味だよ。それより、もうそろそろ出発の時間……」

「どういう意味かって聞いてんのよ!」


 姫は顔を真っ赤にして、語気を荒げる。

 手は腰の細剣に触れている。いつ斬りかかってきてもおかしくない、気迫を漂わせて。

 あれ、なんでそんなに怒ってるの? と言うのはさすがにバカなので、自分で考えてみる。

 やっぱ、さっきの言葉を嫌味として受けとったのかな。


「あたしがあんたより弱いって、そういうこと?」


 気持ちを落ち着かせるためだろう、一息吐く。

 そして、言葉の真意を尋ねられる。


「いや、えーっと……」


 あはは、と笑って頭を掻く。額に、冷や汗が垂れるのが分かる。


「どうなの?」


 僕に詰め寄り、姫は剣の柄を握る。なんで僕なんかの意見が知りたいのか。

 どういえばいいのかな、あんまり仲間内で敵対関係を築き上げたくないんだけども。

 いや、もう手遅れかな。でも、これ以上悪化させないためにも、最善の答えを選ばないと。

 多分、強さに固執する人なんだよね、この姫。

 僕の顔をじっと見つめてるんだから、表情の些細な変化を見逃さないはずないよね。


「はは、僕が悪かったよ。ちょっと、君の強さに嫉妬しちゃって……」


 顔を引きつらせながら、僕はよろめくように後ろへ下がる。

 そのまま尻もちでも付いたら効果的かな、そんなふうに思ったのだけれど


「演技」

「あ、うん」

 なぜバレた。

 いや、姫なんだから、人を見る目はあるか。


「いや、こっちのほうが効果的かなーって思っただけだよ。だって僕が素直に言ったところで、君信じないから。確実に。でも、本当に君の高圧的な態度が、嫌だっただけなんだ」


 自分で言ってて鬱陶しくなってくる。こんなんだから自分が嫌いになるんだ。言ってること全部嘘だし。

 こっちに来てからはマシになったと思ったんだけどな、こういう人間と合うとからきしダメだ。ダメダメ。

 でも、姫は僕を睨むだけで、それ以上は何も言わない。言い訳を並べただけなんだけどな。

 人の表面上の嘘は見抜けても、内心を読んだりはしないのかな。

 サギス、早く止めてくれ。部屋の隅で地図広げてないで。


「……また、こういう人間か」


 小声で呟くと、姫は柄から手を離した。そして、その手を僕に差し出す。


「え?」

「これから仲間でしょ? あたしはサナ、よろしく」


 これ、握った瞬間に電気魔法とか流し込まれるやつじゃないのか。

 反射魔法とか、防護魔法とか張りたいなー。でも僕は弱いって自己宣言しちゃった以上、仕方ないか。


「うん、よろしく。僕は……レイト」


 握ると、僕の身体に電流が流れ込んできた。やることが陰湿だよな、全く。

 姫が手を離すと、僕は笑顔のままで硬直し、横に倒れた。


「ふん、せいぜい死なないことね」


 まるでゴミを見るような目で、倒れた僕を見下す。そして、そのまま身を翻し、窓から飛び降りた。

 旅の始まる前からなんでこんな。

 でも、不思議と腹は立たないんだよな。なんでだろう。

 そろそろなのかも。


「レイト……」


 耳元で涙声が聞こえて、身体が揺すられる。あ、また心配させちゃったか。


「ごめんごめん。大丈夫、死んでないよ」


 身体を起こし、涙目になっているユニの頭を撫でる。すると目を瞑って、僕の胸に飛び込んできた。

 これくらいで動揺するなんて、意外。


「よしよし、大丈夫だよ」


 同じような言葉を繰り返し言うと、小さな身体が震え始める。

 そっと、背中を撫でる。


「すまん、あいつがここまでするとは思わなくてな」


 目の前に、黒いズボンを履いた男の足が現れる。


「雰囲気出てたじゃん。さっさと助けてよ」

「さっき決めたんだが、次はここに行く」

「無視?」


 僕と同じ高さまで屈んで、地図を床に置いて、ここから東に離れた町を指差す。


「なんでも、町外れの館によく幽霊が出るんだと。何か感じないか?」

「恋愛スポット? そんなことより、サギスって性格最悪だと思わない?」

「悪かったよ。恋愛スポットでもない」


 さらっと流す辺りが酷い。


「どうせどうでもいいことなんでしょ」

「どうでもよくはないだろ。何か魔王に関する情報を持っているかも知れないんだからな」


 心の底からどうでもいい。今更魔王なんて。


「幽霊が魔王の手先だなんて、安直だね」

「人が消えるんだとよ、その館に行くと」

「定番。流行りの本にそういう話あったよ」


 前に暇つぶしに買った本だ。この世界にも僕の住んでたところと同じような本がたくさんあるみたいで、暇つぶしにはなった。


「あの本のモデルがその館らしいな」


 実話か、あれ。


「へー、じゃあ入りづらいんじゃないの? そんな有名なところ」

「本なんて、暇人しか読まないぞ。後、貴族とかが世間帯を気にして読むくらいだろ。それに、あの本はこの国だけでしか売ってないしな。問題はない」


 サギスは地図を丸め、近くにあった荷物袋の中に雑に押し込んだ。


「行くか。サナもいつか戻ってくるだろ」


 サギスが立ち上がり、自分の分の物を持ち上げる。


「ユニ、大丈夫?」


 胸から顔を離そうとしないユニは、僕に何の返事も返さない。

 何かのトラウマでも思い出したのだろうか。普通あんなのでこんなになるわけないし。

 旅の前で、緊張していたのかもしれない。余計不安だったのかも。

 姫を刺激しなけりゃよかったな。

 でも、このままじゃいつもみたくずっと離れなくなってしまう。身体を掴んで僕から引きはがす。

 軽い力を込めて引っ張ると、簡単に離れた。僕の邪魔になることはすぐに止める。

 この子のいいところなんだけど、そういうところが子供っぽくなくて、大人と同じ扱いをしてしまう時がある。


「……」


 まだ潤んだ瞳で僕を上目遣いで見つめる。罪悪感が半端ない。


「ほら、そんな悲しい顔しないで。元気に行こう。表情を変えるだけでも、気持ちは変わるもんだよ」


 頭をポンポン叩いて笑ってみせる。ユニも頷いて、笑顔を作った。


「行けるね」


 うん、と頷く。

 僕はその言葉を聞いてから、荷物を背負って立ち上がる。サギスよりも二倍くらい大きいやつを。


「さてと」


 さっき出てった姫はサギスのいる場所はどこでも分かるらしい。そこのところの心配はいらないか。

 サギスのいる場所はそこでも分かるって、ストーカーを連想させる能力だね。


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