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少年がいた。
少年のほかには何もなかった。
少年は何も分からなかった。
どうしてここにいるのか。
ここはどこなのか。
自分が誰なのか。
何も、わからなかった。
少年はじきに、退屈を覚えた。
何もない世界に、退屈を覚えた。
退屈を覚えた少年は。
退屈を紛らわすために、何もない世界を作った。
少年しかいない世界に、何もない世界を作った。
何もない世界に少年は、何かを芽吹かせてみようと思った。
少年は髪を一房噛み切ると、それを何もない世界に流し込んだ。
黒い髪はさらさらと流れて、それはやがて世界を黒く染め上げた。
少年は続いて、爪を噛み切ると、それを黒い世界に落とした。
爪はやがて黒い世界で光を放ち、瞬くようになった。
何もない世界に世界ができて。
しかし少年に救いはなかった。
少年にあるのは黒い世界に光る爪だけ。
見とれていた少年も、次第にそれに飽いていった。
少年が青年になり、もはやそれを見ることもなくなったころ。
それは突如として起こった。
まるで何の変化も見せなかった世界が。
ただ流転を繰り返し停滞していた闇が。
たった一つの生命体という存在で変わってしまった。
初めはそれに、青年は気づかなかった。
小さいそれは、青年も気づけなかった。
それは猛烈な早さで進化を遂げていった。
時には絶滅し。
時に栄華を誇り。
時には食らい合い。
それらは進化していった。青年すら、気づかないままに。
そして。
何もない世界で。
青年はただそれを見ていた。
ただ、それを見ていた。




