ボムの樹
ダジャレです
元ネタのお店を知らないと意味がわからないかもしれません
「どわあああああああああ!」
ライリーとレナの体が宙を舞う。
タウン大陸の南西部、ショピン地方の海岸線にほど近い街道を歩いていた二人は、突然の出来事に目を白黒させた。
故郷の村を出て三年あまり。
大陸の南部の街、イーオンを拠点に冒険者として活動を行っていた彼らは、依頼を受けて旅の途上にあった。
普段はあまりイーオンから離れることはないのだが、今回は遠征とも言えるほどの距離を移動している。
遠征仕事を選んだのは単純に報酬額に目が眩んだからだ。だが、初めての遠征の旅は二人に様々なものを見せてくれた。
風光明媚な景色、見たこともない動物や鳥、あまり知りたくなかった新たな怪物たちとの遭遇。
田舎の村とイーオンの街しか知らない二人にとっては、見るものすべてが新鮮で、大変なこともあったがこの遠征仕事を受けて良かったと思えるものだった。
タウン大陸は広い。
南部から南西部への移動にすでに三か月の時を要していた。
これほどの距離を移動すれば、気候も変わる。そして気候が変われば植生も変わるのだった。
ライリーの視界が目まぐるしく変わっていく。
空、大地、空、大地、空。
何度も繰り返した挙句、最後は尻に大きな衝撃が走った。
「いでっ」
全身に走る衝撃に遅れて、尻に鈍い痛みを感じる。
「んもぅ。なんなのよ」
ライリーの傍らには仰向けにひっくり返ったレナが転がっていた。
ライリーは尻をさすりながら起き上がり、レナに手を差し出した。
「大丈夫か?」
レナがライリーの手を掴み体を起こす。
「なんとかね」
落ちた場所が草原だったためか、二人とも特に怪我はしていないようだ。
もっとも、そのせいでレナは草まみれになっている。
着ていた紫のローブには草の汁による染みができていた。
「最悪」
ローブについた草を払いつつ、あちこちについた染みを見てレナが悪態をつく。
「一体何が起こったんだ?」
ライリーは立ち上がりあたりを見回した。
先ほどまで歩いていたはずの街道が見える。
数メートルは飛ばされてきたようだ。
「あー、あれじゃない?」
ライリーの隣に立ったレナが街道のほうを指さす。
その先には白煙を上げる一本の樹が立っていた。
「前の街の酒場で言ってたやつ。ボムの樹」
「ああ、言ってたな」
ボムの樹。
大きな実をつける常緑樹で、一見すると普通の樹に見える。
しかし、その特徴は一風変わったものだった。
「旅人が通りかかると自爆する、か」
「まさにあたしたち、それでやられたのよ」
植物学者の研究によると、ボムの樹は自身の種子散布に人を利用するという。
近くを通りがかった旅人に種を飛ばし、服などにくっつけて遠くへ運んでもらうのだ。
近隣で繁殖しては、親兄弟が競争相手になってしまう。
遠い地で根付き、勢力を広げる。動けない彼らの生存戦略と言えた。
「いや、それにしたって」
「威力考えろってーの」
種を飛ばすのはいいのだが、ボムの樹のその威力はいささか過剰だったようだ。
まさに彼らがそうだったように、爆風で大の大人も数メートルは飛ばされてしまう。
打ちどころが悪ければ、怪我をすることもあるだろう。
スンスン
「ねえ、なんかこの匂い」
レナが鼻をヒクつかせている。
ライリーにもレナが言わんとすることがわかった。
玉子の焼ける香ばしい匂い、潰したトマトを煮詰めた、酸味のある甘いソースの匂い。炊いたライスにトマトのソースが絡んだ光景が目に浮かぶ。
ボムの樹の爆風が残した匂いだろうか。
「あー、もう! お腹空いてきた!」
「確かに」
レナが草をかき分け歩いていく。
「あ、おい、レナ」
「ねえ、ライリー! 街が見えるよ」
ライリーがレナの隣に並んだ。
「おお、本当だ。結構近いな」
「あそこで何か食べよ?」
「何が食べたい?」
「んー、オムライス!」
タウン大陸南西部のショピン地方にある、モールの街の食堂では、オムライスの注文が絶えない。
旅人たちが街につくやいなや、食堂に駆け込み、オムライスを注文するのだ。
いつしか、オムライスは街の名物と呼ばれるようになり、人々に親しまれていた。
「もう、我慢できない! 先に行くね!」
レナが街に向かって走り出す。
「レナ、待てよ!」
ライリーも後を追って駆け出した。
「ライリー! 早く!」
オムライスの街、モール。
名物の誕生には、一本のはた迷惑な樹が関与していたのかもしれない。
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