3日前のバレンタイン
「あ、やっべ。日付、書き間違えた」
提出物の日付を書くところに、3日前の日付を書いてしまった。
また連れて行かれる。
そう思った時には、3日前の教室にいた。
日にちを書き間違えると、その日に飛ばされる。
ミスする度に連れて来られるけど、何かがあるわけじゃない。
その日と同じように過ごしていると、1時間くらいで元の日付に戻れる。
これは俺にだけ起こる現象だった。
だからこの日も恙無く過ごせばいいと思っていたんだ。
「チョコがない!」
教室でそう叫んだのは、津辻さんだった。
それを自分の席で見ながら、戻ってきたのがバレンタイン当日だと気づいた。
そうだ、あの日は普段と違っていた。
津辻さんのチョコは見つからないまま、終わったんだった。
「今朝は鞄に入っていたの、せっかく持ってきたのに…」
津辻さんが泣きそうで、クラスのみんなで手分けして探したんだった。
悲しげな津辻さんを見て、3日後である『今日』の津辻さんと重なった。
「金曜日は告白したの?」とクラスの女子に訊かれていた。
それで曖昧に笑って、「チョコないからやめた」と言っていた。
告白って、勇気のいることだよな…。
チョコ持ってくるぐらいだったんだし。
気になるから、ちょっとだけ違う行動してもいいかな。
「忘れ物届けにないか、聞いてくるよ」
俺が立ち上がるとクラスから注目を浴びたが、そのうちの一人、谷くんが手を挙げた。
「じゃあ、オレも行くよ」
「谷くんも、チョコの行方が気になるの?」
誰かがついてくるとは思っていなかったので、つい訊いてみる。
「まあ、忘れ物だったら誰も犯人にならなくていいしな」
「そうだね。でも持っていった人がいたとして、何がしたかったんだろうね」
「何って?」
「義理チョコは女子が配ってくれたから、俺ら貰いはしたじゃん。わざわざ取る理由ってなんだったのかなって」
自分で言いながら、そうだなと思った。
3日前はそこまで考えなかったけど、盗った理由はなんだったんだろう。
しかも鞄の中から取るって、見えたから魔が差したとかでもないよなぁ。
「なかったね」
「だな」
「津辻さん、ガッガリさせちゃうかなぁ」
忘れ物届けに、チョコは一個もなかった。
違う行動をとってみたはいいものの、変わんないし、手がかりはゼロ。
「別に悲しませたかったわけじゃねえしさ」
「まぁ、そうなんだけど。誰かに渡したかったんだろうなと思うと可哀想だなぁ」
「まあ…」
谷くんは歯切れ悪く、パーカーのポケットに手を入れた。
「津辻さん、誰に告るつもりだったんだろ。クラスの奴かな」
「さあ…?」
「教室にもなかったら、どうしよっかぁ」
「そんなに親身になるなんて、関って津辻のこと好きなのか?」
意外なことを言われて、思わず谷くんを見た。
「え、そうなる?」
「違うのか?」
「違うよ。ただあんなにガッカリしてるから、さすがに気の毒だなぁって」
週が明けてもしょんぼりしてるんだぞ、気になるだろ。
「なんだ、違うのか…」
あからさまにホッとしている谷くんを見て、俺は口の端が上がるのを堪えた。
「谷くんは津辻さんのこと、好きなんだね」
「えっ、あ、…うん」
「そっか、じゃあ谷くん的にはチョコ見つからない方がいいのか」
「え」
「津辻さんが誰に告るかわかんないけど、谷くん宛じゃなかったら嫌だもんね」
あれ、もしかしてチョコ取った人も、同じ理由だったりする?
津辻さんの告白、阻止したかったとか?
「…それって、卑怯だよな」
「え?まあ、好きな人の好きな人なんて知りたくないし、仕方ないんじゃない?」
谷くん的に見つかってほしくなくても、それはそれな気がするけど。
「やっぱ、返さなきゃだよな…」
「ん?」
俺が首を傾げると、谷くんはパーカーのポケットから小さい包みを出した。
可愛らしいラッピングのチョコだった。
「これ、オレが津辻の鞄から取ったチョコなんだ…」
「えっ!?」
いたよ犯人、しかもここに。
「津辻が他の奴に渡すって思ったら、つい…」
これは、俺が過去を変えたことになってるな…?
責任取るかぁ。
「それ貸して」
「…?」
「俺が返しとくからさ」
「津辻さん、忘れ物で届いてたよ」
俺が包みを手渡すと、津辻さんは泣きそうに笑った。
それを見て、俺は今日に戻っていた。
「関くん、金曜日はありがとう」
目の前には、『今日』の津辻さんが立っていた。
「これ、お礼のチョコ。3日過ぎたバレンタインだけど」
「え、よかったのに。ありがとう」
「ううん、おかげで告白できたの。関くんのおかげ」
そっか、告白できたんだ。
谷くんは、どうしたかな…。
そのことがチラついた時、津辻さんを呼ぶ声がした。
「津辻、一緒に帰るだろ?」
「谷くん!」
谷くんに近づいていく津辻さんを見て、すぐにわかった。
なんだ、チョコ取る必要なかったんじゃん。
谷くんと目が合うと、気まずそうに笑っていた。
「それにしても関くんが見つけたの、ちょっと怪しかったよね…?」
クラスの女子の囁きが、俺の耳に入った。
あ、そっちに未来変わるの…!?
了
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