45 追っ手の数が多すぎる?
ほっとしつつ、近い町で宿をとった翌日。
またすぐに傭兵らしき人達が襲って来た。
追い散らして、休憩をしてもまた出てくる。
それを繰り返すこと二日。
「なんかもう!」
もう馬車に乗る必要もなく、男装で騎乗していた私は、叫ぶように話しかけた。
「競馬でもしてるんじゃないかって気にならない?」
目前を駆けているトールが、振り返った。
「競馬ならいい方だろ! あれは終点が決まってる! こんなに遠くない!」
すると横から、だれきった声がする。
「終わりが……見えねぇ……」
惰性で馬を走らせているとしか思えない、だらりとした姿勢のディックだ。
それでも彼の馬は、私以上に速い。
彼の手腕に舌を巻きながら、私はちらりと後方を振り返った。
追いかけてくるのは五騎。
この二日の戦闘で、追従していた兵士達に任せて先を急ぐことを繰り返していたら、私とディックとトール、レゼクの四人きりになっていた。
少数の方が目立たないのではないかという意見があったからだ。
でも、今日も見つかってしまった。
進路にあたるだろうあちこちに、同時に敵が張り付いているとしか思えない状況だ。
そしてこの視界に入っている五人を、私達で倒せないわけではない。
ただ、さっきも数人の傭兵を振り切って来たばかりなのだ。
この五騎を相手に立ち回りをしているうちに、確実に後続の傭兵達に追いつかれてしまう。
「殿下」
トールは自分の隣にいたレゼクに声を掛けていた。
「そろそろ潮時かと。今までは先を急ぐことを優先してきましたが、今日の様子からすると、この先にも伏兵がいるかと思われます」
「ああ。では、どうする? 考えがあるのだろう、トール」
レゼクの言葉に、トールはうなずいた。
「この先に分岐もあるので、別れればあの敵も二手に分かれるでしょう。そして俺達が、分岐の近くで戦って後続を引き付けます。その後、残してきた兵士達が追ってきてから、合流地点へ」
対処するために残っていた兵士達が追ってこられるのなら、もう後ろからの襲撃はない。
なら、数をそろえた上で伏兵に対処した方がいい。
トールはそう言っているのだ。
「そうだな」
うなずくレゼクを見ながら、私はくしゅん、とくしゃみをする。
「おい、またぶりかえしたのか!? ただでさえここ数日妙に寒いってのに、伝染すなよ!」
ディックが私から離れる。
完全な感染源扱いで、くしゃみの届かない所へ逃れようとしたのだろう。
「治ったと思ったんだけど……へっくし!」
再度くしゃみすると、トールが言った。
「おい、俺もこんな状況で伝染されたくないからな。感染源から遠ざからせてもらう」
確かに正論なんだが、ひどい言いぐさだ。
「じゃあな!」
二人は速度を上げ、途中の分かれ道を曲がっていった。
「俺たちはこっちだ」
レゼクに促されて、私は山道へ向かう土を踏み固めた道へ入った。
でも四騎がこちらに来てしまっている。
これじゃだめだ。
「殿下、足止めします」
今ならトールもディックもいない。
聖女の力を使ってもいいだろうと思ったけど、レゼクに止められた。
「この状況で能力を使わない方がいい。もし後続の奴らに見られて、一人でも取り逃がせば……。しかもこれを手配したのが、カールである可能性も高い。すぐに俺か君のどちらかに能力があるとわかってしまう」
そしてレゼクが馬足をゆるめた。
「俺が始末していく」
私が先行し、数歩も進まないうちにうめき声が聞こえた。
追いかけて来た傭兵達を、レゼクが一気に倒したのだろう。
振り返れば、主を失った馬が困ったように歩き回り、四人が血にまみれた地面に倒れ伏していた。
「先へ急ごう」
とても四人と戦ったばかりとは思えない、あっさりとした様子でレゼクが追い付いてきた。
うなずっきつつ、私は乗っている馬の首を撫でる。
走らされ続けた馬も大分疲れていたようで、息が荒い。
「もう少し辛抱しててね」
うっかり身震いしないようにと馬首を撫でていると、ふっと鼻がむずむずしてくる。
これはやばい。
私は急いで鼻を押さえる。
むずむずを堪えて涙目になっていると、レゼクが珍しく動揺した表情で手を伸ばしてきた。
「おい、耐えるんだっ」
しかし時既に遅し。
レゼクがとっさに伸ばした手を振り切る勢いで――大きなくしゃみが辺りに響き渡った。
しばらくすると、後方から馬の駆け足の音が聞こえてきた。
こちらに人がいるとわかったせいだろう。
しかし坂道の上から伺ってみれば、数が十数人。
さすがにこれを連続でレゼクが倒すのは骨が折れる。
彼だって、ずっと馬を走らせ続けているのだ。
私達はやむなく、木立に入って息をひそめ、やりすごすことにした。




