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私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです  作者: 奏多


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25 もちろんあの人はやって来る

 正餐の席では、周囲が侍女仲間で囲まれているので安心して過ごせた。

 私の存在が気になるのか、皇妃やそのご関係者みたいなあたりの貴族が、こっちを見ている気がしたけど、無視無視。


 問題は、食後だ。


 音楽は食事中も鳴らされていたが、楽団が交代した後、夫婦で来ている貴族達が正餐の席から離れた、大広間の半分にあたる空間でダンスを始める。

 星祭は儀式が主だけど、貴族達も一応、その日を恋人達の縁が結ばれる日という意味の過ごし方もするらしい。


 で、まず既婚者が場を温めたところで、未婚の令嬢や令息がそこに入って踊りやすい状況を作るらしい。

 まぁ、踊らなくても問題はない。

 問題はないけど、このパーティーにセレーナがしっかりと招待されていて、私はびびっていた。

 紫の大輪の花のようなドレス姿のセレーナの姿が、嫌でも目に留まるのだ。


「さっき皇子殿下と入場しましたし、あれで引いてくれましたかね?」


 不安でそう言うと、隣の席にいたルドヴィカが冷静な表情で答えてくれる。


「普通なら、同じ顔を見つけたうえで女性だと知り、しかも皇子殿下と一緒にいたことで、黙って遠ざかるでしょう」


「でもねぇ、なんかちょっと怖い気がするのよねぇ」


 異論をはさんだのはエルシーだ。

 ちらっと視線を向けているのは、例のセレーナがいる方向だ。

 他に招待された商人のような人物や、貴族男性と話している。

 皇帝の恋人ということで、彼女に取り入りたい人もいるんだろう。


 忙しそうなのに……ちらっとこっちを見ている気がする。

 私は慌ててみてないふりをする。

 気づかない。

 よってセレーナの探し人ではない。

 そんな風に見えてくれないかと思いながら。


「あれは……あきらめてなさそうね」


 ルドヴィカまでエルシーに同意してしまう。


「いえ、でも私は女ですよ?」


 おかしくない?

 いや、男女どっちでもいける人なのかもしれない、か?

 思わず悩んでしまう。

 そんな私に、エルシーが言った。


「なんか変な感じなのよね。執着みたいな……。同性でもあるじゃない? 恋とかそういうんじゃなくて、依存するみたいなの」


 ああ、とようやくわかった。

 エルシーは異常な執着だと言いたいんだと思う。

 すがる相手を定めて、母親のように全てを自分に与えてほしいとか、何もかも相手と同じにしないと安心できないとか、そういう執着の仕方だ。


「執着ね。ありそうな話だわ」

 

 ルドヴィカもうなずいた。


「それじゃ、皇子殿下と一緒にいるところを見せても……?」


「ダメかもしれないわね。やっぱり執着対象が変わるまで、離れた方がいいのかもしれないわ」


 ただの勘違いからの恋ではないかも。

 そういう推測に、私はびびってしまう。


「まるで亡霊のようね……」


 ノエリアの評にうなずいてしまいそうだ。

 まさに、とりつかれたようなものじゃないだろうか?

 と考えたところで、なんだかひっかかりを感じた。


 どこかで、そんな感じの話を見たことがあるような?

 こそこそ話をしていると、皇帝があちこちふらふらと人と話ながら、セレーナに近づいていくのが見えた。

 嫌がるようにセレーナがゆっくりと逃げて行く。


「パーティーから抜け出すのなら今ではない? 皇太后陛下と皇子殿下には申し上げておくから」


 ルドヴィカがそう言ってくれたので、私は急いで脱出をもくろんだ。

 じわりじわりと、相手がこちらを向いていないのを確認して移動。

 扉に近い場所まで来たところで、速足で出た。

 扉は出入りがしやすいよう、半分開けられたままだったので、目立つことなく脱出できる。


 扉の外へ出たところで、ほっとする。

 深く息をついて、早々に皇太后の棟へと帰ろうと急ごうとしたとたんのことだった。 


「なぜ女装をしてらっしゃるの?」


 セレーナがすぐ背後まで追いかけてきていた。

 思わず「げっ」と言いそうになった。

 そんな私に近づきながら、セレーナはささやきかけてきた。

 

「私の愛しい方。どんな姿をしていらしてもあなたは凛々しいけれど、できればちゃんと男性らしく……」


「ちょっ、人聞き悪っ、とにかくこっちきて下さい!」


 こんな大広間の側で、女装をしていると言われては困る。

 焦った私は、セレーナの手を引いてその場を離れた。


 大広間へ続く回廊から外へ出る。

 そこは帝宮の東の庭だ。

 人の姿はない。

 パーティーが始まったばかりなこともあって、ここまで人が出てきてはいないようだ。


 注目されない場所へ来て、私は心底ほっとする。

 一つ息をついて、セレーナへ向き直ろうとした。


「あのですね、私はほんとに……」


「積極的な方なのね」


 セレーナは妖艶な笑みを浮かべながら、私にしなだれかかってきた。


「ひっ」


 息を飲んで身をかわすと、セレーナは驚いたようだ。


「どうなさいましたの? 私が……触れるのはお嫌?」


 そんな哀しそうな表情をされても、困るのだ。

 可哀想だけど、いくらなんでもドレス姿なのに女装してると勘違いし続けているのも怖いし。


「あの、私ほんっとに女なんです! 皇子殿下とも一緒にいたのをご覧にならなかったのですか?」


「拝見しましたけれど、私にはとても信じられません」


 セレーナはきっぱりと言った。


「私をお助け下さった騎士様。抱きしめて下さった腕も、握りしめてくださって掌の感触もわたくしは覚えております。貴方が女性とは思えないのです」


「ひぃ……」


 私はさすがにぞっとした。

 なんだろう。妙な思い込みをしがちな人なの?


「もしかして、あなた様は皇子殿下の護衛をするため、女装をしていらっしゃるのですか?」


「いえ、だから本当に私は女なんです」


 さすがに性別を疑われた経験がないし、どう誤解を解いていいのかわからない。

 とにかく女性だとわかってもらいたい一心で、私は提案した。


「胸でも触って頂ければ、嘘じゃないとわかると思うんですけど」

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