24 パーティーに出席しました
「お待たせしまして」
扉の外に出て、急いで頭を下げる。
一瞬だけ可愛いところあるじゃないと思ったりはしたけど、やっぱりまだ怖い人だなと思っているので、なるべく怒らせないようにしたいのだ。
しかしなかなか「ああ」とか、返事もせずに「行くぞ」みたいな言葉が来ない。
内心で首をかしげながら頭を上げる。
すると、少し呆然としたようにじっとこちらを見ているレゼクの姿があった。
(……虫でも頭についてるのかな)
まさにそんな表情に見えたのだ。
だから手を頭にやろうとした時、動かした右手がふいにレゼクに捕まれる。
「どうして赤を着ているんだ?」
次いで聞かれたのは、不思議な問いだった。
「ええと、侍女の皆さんが私に一番似合うだろうと相談して貸してくださったドレスなので」
選んでこの色にしたわけではない。
が、恥ずかしくないドレスを着て行けることも、思いがけず上等で美しいドレスだったことで内心とても嬉しいのだ。
でも正直に言って、ちょっとでも似合わないというようなことを言われたら、気分が下がってしまうので、選んだ状況だけ話した。
でもそれで良かったようだ。
「そうか。……では、行くぞ」
「はい。あ、失礼します」
左腕を浮かせるように差し出されて、私はそこに自分の手を添える。
女性をエスコートする正式な動作なのに、他人に触れるということがなんだか気恥ずかしい。
私の意識は、さっきのレゼクの質問よりそっちに引きずられていったのだけど、レゼクの方はそうではなかったようだ。
パーティー会場へ向かう中、すでに他の貴族達は移動をしていて、通りがかった回廊にも人影はない。少し後ろから、警護の騎士がついてくるだけだ。
そんな中、ぽつりとレゼクが言った。
「聖女は赤が好きなのかと思っただけだ」
(聖女?)
不思議な答えだった。でも、前に他の聖女を見たことがあるような話をしていたな、と思い出す。
「以前にお会いしたことがある方も、赤い服を着ていらっしゃったのですか?」
「…………そうだ。たぶん、一番目立たせるためだと思う」
聖女だということを公にしている人なら、そういう選択をするのかもしれない、と私は思った。
「だから、一瞬見間違えたように思ってしまった」
どうやら、レゼクは弁解しているらしい。
鈍い私でもようやくそれがわかった。だから理由を話しているんだろう。
(うーん、女性の服装を褒めるでもなく、その色好きで着てるのか、とぶしつけに言ってしまったのを後悔してるのかな? 一応悪かったなという気持ちはあるってことね)
私はあまり気にしてなかったけど、ものすごく嫌がる女性はいることだろう。
ましてや、これからパーティーに一緒に出席し、仲について邪推してもらわなくてはならない相手だから、気遣ったんだと私は考えた。
それにしても、見間違うほどその聖女は似ていたんだろうか。
私の知らない、親戚だった?
それなら顔も似ていてもおかしくはない。なにせ私は母の方に似てるから。
「見間違えるってことは、顔や髪の色も似てたんですか?」
すると、レゼクは少し長く私を見下ろした。
何かを思い出すようなまなざし。
「ああ、髪の色は近かったような気がする。顔立ちも少し似ているかもしれないな」
そうすると、やっぱりレゼクは私の親戚と会ったことがあるんだろう。
色々聞きたいな、と思う。
そのうちレゼクの用事さえ終わって、侍女を辞めても大丈夫な状況になったら。レゼクが国を滅ぼす前にヴァール王国へ逃げようと思っていたのだ。
その時には親戚に会ってみたいし、どんな人達なのか先に知りたいと思ってしまう。
だけどその前に、会場の扉が見えてきてしまった。
人の姿もある。
もう、聖女に関する話なんて危なくてできない。
そんな頃合いになってから、ふいにレゼクが言った。
「言い忘れていた。似合っている」
「ふぉっ?」
驚いて変な声になってしまった。
まさかこの人が誰かを褒めるなんて!
しかも女性の服装を!
「……明日、雪が降るんじゃないですかね」
思わずそう言ってしまった。
「もうすぐ夏だが?」
もちろんレゼクには、冗談が通じなかった。
結局私は、レゼクをからかったのだとは言えず、他の言葉を探す。
「ええと、殿下も真っ黒な衣装がよくお似合いです」
正直、男前なので灰銀の髪や顔立ちが映える黒は、悪役っぽくてとても良い。
長い銀のマントも、本当に銀糸が使われているみたいで、動くたびにきらきらと明かりの中できらめていている。
だけど美辞麗句を言ったら、なんだかこの人に媚びるみたいになるし。
そうじゃないとしたら、好意を持ってると勘違いされるのも恥ずかしい。
で、そんな表現になったのだけど。
「色の表現がひどいな」
どストレートに批評されたので、ちょっとむかっとしてしまう。
詩心もなにもないのは本当だけど、しばらく一緒に行動するんだからもうすこし相手の気分を落とさないようにできないものか。
皇子だから、そのへん気にしなくていいと思ってるの?
とはいえ、今更言い合う時間はない。
「……精進します」
それだけ告げた時、扉を小さくあけて侍従が顔を出し、「ご案内いたします」と言う。
大広間の、重たい扉が開かれる。
木なのに分厚くて、床の上をすべる音すら重厚だ。
そして侍従が中へ向かって高らかに言った。
「レゼク皇子殿下、ご入場です!」
一歩足を踏み出す。
その時思ったのは、(私の名前まで叫ばれなくて良かった!)だった。
この国は、同伴者の名前を言わんでもいいだろう文化のようだ。
ランヴェール帝国のいいところを一つ見つけたかもしれない。
大広間は、真昼のように明るかった。
天井から吊されたいくつものシャンデリアもさることながら、壁にはめ込まれた透明や白の輝石が光を反射し、夜の舞踏会場とは思えないほどだ。
そのシャンデリアの下には、沢山の人々。
帝都にいる貴族達のほとんどが参加しているのかと思うほどの人数だ。
彼らの全てが、レゼクと私を見ている。
会食パーティなのでテーブル席についているが、目だけこちらに向けているのだ。
視線に、ちくちくと刺すような感覚があるのはどうしてだろう。
不思議だなと思いつつ、私は極力無視する。
反応したって、相手が喜ぶだけ。
例のセレーナに勘違いしてもらうために一緒にいるだけなので、実際に婚約者になるとか恋人とかになるわけではないし。
大人しくしていた方が、今一時だけ話題になっても、すぐに興味を失ってくれるだろう。
(ノエリアも、また侍女を婚約者候補にしてみたけど、上手くいかなかったんだろうって言うはずよって、言ってくれたし)
帝宮の歩き方がよくわからない私は、上級者であるノエリアの助言を守るのが一番だ。
そうして会食の席へ、使用人が案内してくれる。
皇子とその連れの相手なので、侍従がやってきていた。
レゼクはもちろん、皇帝の席の隣。
私は皇太后の隣の席をもらった。
(食事の間はこれで、一息つけそう)




