23 パーティーの日
今はランヴェール帝国でも飛躍的に暖かさが増し、パーティーの機会も増える頃だ。
皇帝は特にパーティーをしたがる。
そこに毎回皇太后やレゼクが出席するわけではない。
ただ、公的な行事が重なる場合などは顔を出す必要があるようだ。
今回のパーティーに関しては、『星祭』という儀式に続いて行われる。
流れ星の多い日に行われる祭だ。
流れ星によって神の恵みが届く日として、枝を捧げて恩恵が宿るように祈るのだ。
願いが叶うように、と。
民衆はその行事に乗じてお祭り騒ぎをするのだけど、私はお祭り騒ぎの方に馴染み深かった。
だからその日、私は初めて神殿での静粛な儀式に参加した。
高く緩やかな円錐状になっている屋根は、青と緑だけを使われた硝子の光を透かして、聖堂の中央に美しい模様を描き出している。
色つきの光のベールをくぐり抜けるようにして、皇帝、主要な大臣や貴族達は祭壇の前に、常盤緑の枝をささげた。
合間にささげられる神官達の聖句。
ゆっくりと進む儀式を、私は歩き回るのを避けて座る皇太后の後ろからそっと見つめる。
(どの世界でも、儀式ってちょっと退屈)
ついそんな風に思う。
とはいえ、神の存在を全く信じていないわけでもない。
ゲームの世界なんてものに、私を移動させたのが神様の仕業じゃなかったとしても、そんな風に様々な世界を誰かが作ったのだとしたら?
そして世界が自発的にできた物だとしても、魂が移動できる状態を作り出したものは何?
考えれば考えるほど、神の存在を全く抜きにはできなさそうな気がするのだ。
そんな風に考えている間に、ふっと視線を感じる。
小さく首を動かして周囲を見れば、少し離れた場所にカールの姿を見つけた。
(え、なんでこっち見てるんだろ……)
嫌な予感がする。
けれど儀式の間に動くわけがないし……目立ちすぎるもの。
この後のパーティーでは気をつけよう。
(あ、でも私に上手い立ち回りなんて無理だから、ノエリア様達にも言っておかないと)
ひとまず儀式が終わり、パーティーまでの間の休憩時間になる。
皇太后と一緒に控室へ移動し、そこにメイドが運び込んでくれた物で、皇太后に軽食を取ってもらったり、化粧直しをしてもらう。
同時に侍女である私達も、身支度を整えた。
付き添いとして皇太后と一緒に、パーティーへ出席するからだ。
「やっぱりネックレスは、こっちの真珠の方が良くないかしら?」
水色の可愛らしいドレスを着ているエルシーが、首元を鏡で確認している。
昨日まで悩んで決めたらしい、アクアマリンのネックレスがどうも気になるようだ。
「そのままでいいと思うわ。それより髪飾りを変えてみたら? そちらの真珠との釣り合いのせいで、気になるんだと思うわ」
「うーん、この髪飾りやめる」
ジェニスに助言を受けて、エルシーは髪飾りを外す。
それから一応悩んだ時用に持ってきていた、他の髪飾りと合わせ始めた。
「リリは大丈夫?」
ノエリアに聞かれて、私はこくこくとうなずいた。
もうすぐだと気づかされると、改めて緊張してくる。
皇太后と一緒にパーティーへ参加するのも初めてだったのに、それをすっ飛ばして皇子の同伴者になるというのは……。
品定めの視線を受けて、ひそひそされると思うと、怖くなってくる。
やっぱり悪意のある物というのは、心によろしくない。
「あらあら。手を握りしめ過ぎよ、リリ」
ルドヴィカが私の手を持ち上げて、開かせた。
「はい、一口でも甘い物を飲むといいわ」
横からジェニスが、ジュースの入ったグラスを差し出してくれる。
有難く飲むと、甘いりんごの味がした。
これはきっとはちみつも入っているな。
この世界のリンゴ、前世みたいにすごく甘い品種はないみたいだから。
甘酸っぱい、が普通。
思えば前世でも、元のリンゴはもっと酸っぱい物ばかりだったとか、他の国では果物はもっと甘くないのだとか聞いたことがある。
「ありがとうございます。少し、落ち着きました」
甘さで緊張が少しほどける。
そんな私からジェニスがグラスを取り上げた。
「さ、一回転してみて」
言われるままくるりと回る。
点検をしたジェニスは「よし」とうなずいた。
「ドレスもよく似合ってるし、宝飾品も皇太后陛下から借りたルビーがとてもいい感じだわ」
「ほんっと綺麗よね、耳飾りとセットで! 髪飾りもしっかりセットがあるの、ほんといいわね」
横から髪飾りを選び終えたエルシーが顔を出した。
「やっぱり私より合うわ。その赤、眺めるのには綺麗なんだけど、私に合う感じじゃなかったから良かったわ」
しげしげと見ながらそう言ったのはノエリアだ。
「あの、本当にいただいて大丈夫ですか? そうしてくださると、汚した時の心配が減って有難いのはたしかなんですけど……。あ、もちろん大事に着ます!」
人の物だと思うと、正直どこを引っかけるかわからなくて気が気ではない。
なまじ宝石まであしらわれたドレスだったから、なおさらだ。
でもノエリアは何でもないことのように言う。
「もちろんよ。サイズが合わなくなったら、下賜するしかないと思っていたぐらいだし。似合う人がいて良かったわ」
ノエリアの言葉にほっとする。
なるほど、彼女から下賜してもらったと思えばいいのか。
ドレスを決める時に、ちょっと表情がおかしい気がしたけど、今は綺麗になくなっているのも安心ポイントだ。
そんな話をしていたら、扉がノックされた。
中にいたメイドが用事を聞きに行く。
そうして聞かされたのは、彼の到着だった。
「皇子殿下がお迎えにいらっしゃいました」
わ、私の出番だ。
また緊張してきた。
ずっこけたりしないで、上手くやれるだろうか。
そんな不安が湧き上がった時、優しい声をかけてくれたのはソファーに座って休んでいた皇太后だった。
「気楽になさい。あなたが難を避けるための儀式なのだから、それさえできたらいいのよ」
「はいその、任務を果たして参ります」
混乱した上で、思わずそんなことを言ってドレスの裾をつまんで一礼してしまった。
まるで出征する騎士みたいな物言いだ。
すると皇太后がどこか懐かしそうな表情で、うなずいた。
「パーティーの間、あの子をよろしくね」
「はい、私の方がご迷惑をかけそうですが……」
なんて言っていたら、しびれを切らせたのかレゼクの声がする。
「まだか?」
「はいただいま参ります!」
私は慌てて部屋の外へと駆け出した。




