20 パーティー出席の依頼
「ぱぱぱパーティーの同伴ですか!?」
おどろくのも仕方ないと思う。
だって普通、パーティーに貴族が異性の同伴を連れて行くなんて、婚約を考えてます! という間柄じゃないとしない。
しかも相手がレゼクだ。
彼はずっと、誰とも婚約もしない。
そのせいで、皇太后の侍女が側にいると、その人が恋人だと思われて毒を盛られたりされるという被害があったわけで……。
「あの、私をパーティーに同伴なんてしたら、もう言い訳が効かないのでは?」
質問すると、レゼクはなんてことないように言う。
「今更だろう。こちらがどうこう言っても、あちらは自分の信じたいことだけ信じるのだからな。そして、大騒ぎを起こしそうなその女は、皇子の恋人となればあきらめるしかなくなると思うんだが」
その女。
(あああ、父親の愛人だとそういう言い方になるよねぇ)
そういえば、レゼクが微妙な気分になるだろうという視点が抜けていたかもしれない。
うん、なんかほんとに可哀想だなこの人。
自分に関心ない父親が、愛人をこさえたあげくに味方に迷惑をかけたんだから、名前も呼びたくないのは当然か。
それに、顔で覚えていて私のことをどうこう言おうとも、皇子の恋人(かも?)という立場の時に突撃したら、堂々と排除できる。
本人も、突撃前に引いてくれるかもしれない。
「ところで私、ダンスはほぼできないのですが?」
付け焼刃令嬢で、代理出席はお茶会ばかり。
ダンスを習ったことなどない。
そんな私がパーティーに呼ばれて、ダンスをしろと言われたらこっそり逃げるしか方法がないのだけど。
するとレゼクがにやりと笑う。
「大丈夫だ。今回は舞踏会ではない。楽団を呼びはするが、踊ることはない」
「それを聞いて安心しました……」
レゼクの隣で音楽を聴いたり、食事をするだけでいいらしい。
それならなんとかなるかも。
「お話はあまりしなくても大丈夫ですか? 私がしゃべるとボロが出ますし、公の場でしゃべるのって得意ではなくて」
残る不安要素はそれだけ。
なにせ平民人生と騎士の娘だなんていう平民と変わらない経験ぐらいしかない私だ。
公的な場で相手とおほほと営業会話をする技術はほとんど期待できない。
正直にそう申告すると、レゼクが目をまたたいた。
「いや、いいが……」
「それなら喉が痛いことにでもしようと思います」
それならあまりしゃべらなくても不自然ではない。
ニコニコと発言すると、レゼクがふっと笑った。
「聖女の血族は、そんなに正直に言う者ばかりなのかな……」
私はその言葉に引っ掛かりを感じた。
「他にも、聖女か聖者と会ったことがあるんですか?」
「……そうだな」
ややためらった後、レゼクはうなずいた。
「基本的に、誰かを悪意から騙そうとすることはなかったと思う。人の心を操る力を得る人間というのは、無意識にでも誰かを陥れることをしないのかもしれない、と思ったな」
話を聞いていると、なんだか私はそんな大層な人間ではないから……違うのでは? なんて気持ちになる。
ただ、まさにこの世界の母は、そのような気質だったかもしれない。
自分の力を試したくて旅に出て、故郷を離れた土地で病気にかかっても、まぁ、誰しもそういうことはあるからという、あっけらかんとした感想を口にしていた。
父の方が諦めきれずに、もっと良い薬を手に入れられる力があれば、良い医者を知っていたらと嘆いていた。
私は……。
自分の身かわいさに、身代わりを受けたりもしてしまったし。
逃げるために兵士を倒したりしてることを思い出すと、なんだか後ろめたい。
「もちろん、必要があれば戦うし、一度決めれば誰かを害することもいとわないが」
それを察しているわけでもないだろうに、レゼクがそう続ける。
「君の祖母か曾祖母にあたるだろう人は、おそらくヴァールの聖女だ。彼女は何千ものランヴェール帝国兵を倒している。ヴァール王国を守ろうと決めたからこそ、敵を殺すと決めて実行したんだろう」
「私、本当に聖女の血を引いているんでしょうか……」
不安になってつい言ってしまう。
いまだ、はっきりと聖女の力を発揮できていない。
不思議なことは起こっているから、完全に違うとは言えないけど。
「大丈夫だ。聖女の力があることは、俺がわかっている」
レゼクの力強い言葉に、なんだか私は照れ臭い気分になる。
「そうだといいと、思います」
だからそんな風に答えていた。
※※※
とにかく私は、ジェニスの代わりにレゼクの手伝いをすることになった。
皇子の仕事というのが何をしているのかわからなかったけど、それほど忙しくしているわけではなさそうだ。
(そういえば、前世の中世の王様だって、一日中書類仕事してたわけじゃないし。違うのは明かりを魔法で作れる使用人が帝宮にはいることと、紙がそれなりに作られてることかしら)
とはいえ、紙だって前世で使っていたようにはホイホイ買えない。
書類を積み上げるような贅沢は、帝宮ならできるだろうけど、各地方領地や、そのまた末端の村なんかだと難しいはずだ。
そもそも細かな部分まで、上が決裁をするようなこともない。
それを処理するために官吏がいるし、その処理についての報告が、まとめられてレゼクや皇帝に渡されるという感じみたいだ。
というのを、この日書類を見て思った。
私の仕事というのは、書類の整理と簡単な代筆。
レゼクの代わりに、渡された物に署名していき、代筆だけど皇子の指示によるものだという証明になる印を押す。
と、その途中でふいに数字の間違いを見つけてしまった。
「この数字……合いませんね」
ぽつりとつぶやいたところで、レゼクと戻ってきていた官吏がどやどやとやってくる。
私が気づいたのは、報告書の一つにやたらと数字が並んでいる代物だ。
合計が微妙に合わない。
(たぶん、わざと誤魔化そうと思ったんだろうなって数字の羅列だもんね、この書類)
他の報告書では、こんな物は見かけない。
大枠の、さらに下から上がって来た数字を書いた物はあるけど、それはぱっとわかりやすい物ばかり。
でもこの報告書だけは、注釈として細かく数字を沢山羅列しているのに、それと注釈がついている合計との数字が違う。
「本当だ。数字にお強いのですね、クラウス伯爵令嬢は」
官吏の一人が、そろばんのような物で計算し直し、うなずく。
レゼクがうなずいた。
「ジェニスの代わりに来てもらって良かったようだ。今度はこういった数字に関しても、検算を命じる」
(あ、しまった。仕事増やしちゃった)
と思ったがもう遅い。
うっかり前世の仕事以来の書類を見て、雰囲気とか違うけど、なんか懐かしいなぁなんてつい暗算したのが悪かったようだ。
結局、私用の算盤を渡され、報告書の数字の検算も任されることになった。
が……これのおかげで、どうやら間違いを指摘されて叱責された部署から、私が見つけたということが広まったらしく。
数字に強いので、皇子の補佐の仕事を任されたらしいという話が広まった。
おかげで、急にジェニスから交代したことを不審に思われることはなかった。




