12 帝宮のサロンへ 3
「あ、ご親族なのですね」
ノエリアはうなずく。
「ユーリアス様も、皇子殿下も皇太后陛下にとっては孫にあたるの。今日はお菓子を食べるだけのサロンだから、色々話ができると思ったのだけど……」
ノエリアはちょっと面倒そうにユーリアスの移動先を見る。
ユーリアスが指定されたテーブルは、女性の先客がいたようだ。
貴族夫人と令嬢……たぶん親子だろう。
でもそこに彼が加わったら、お見合いみたいじゃないか? と思ったら。
「今日はベラ伯爵夫人が、ユーリアスに出会いを設定してしまったようね。たぶんあの親子に頼まれたのでしょうけど」
ため息をつくノエリア。
「ユーリアスの顔に恋してしまったんでしょうね。後でもう一度話をする機会を持たなくちゃいけないなんて、面倒だわ。これが皇子殿下なら、絶対に同席者のセッティングなんて行われないのに」
「それは、皇子殿下ですから……」
結婚だって国策ってことになるだろうし。
ご本人が気に入ったら、すんなりと結婚できるわけでもないに違いない。
まぁ、これが恋愛ゲームだったら、没落寸前の令嬢を気に入った皇子が悪役令嬢を押しのけてその人と結婚したがるとか、そういう話もあるだろうけど。
(RPGだものねぇ)
そんな世界観と、これまでのリリとしての記憶でも、この世界の皇子の結婚では、一目ぼれした相手と結婚なんて夢物語だと思う。
しかしノエリアは首を横に振った。
「ほら、愛人でもいいって女性もいるのよ。実際今の皇妃ウルスラだって、元は愛人だったのですもの」
声をひそめながらの話に、私は目をまたたく。
ウルスラ妃って、元は愛人だったんだ……。
「皇子殿下のお母上がまだご健在だった頃からの愛人よ。そういうわけだから、皇子殿下にもそういうお話をする方がいても、おかしくないのだけどね」
「いないんですか?」
ノエリアは真剣な表情でうなずく。
「無理よ。不愛想、無遠慮の権化ですもの」
「そこまで……?」
「気に入らないと、『その話はいつ終わるんだ?』とか平気でおっしゃるのよ……」
「うわ」
棘むき出しの発言だ。
でも言いそう、と思ってしまう。
ただ不思議だ。
あの人、貴族も下っ端兵士も対応が分け隔てない感じなんだよね。
女性にそこまで容赦ないのは、女嫌いなんだろうか? 皇子なのにそれは大変そう。
にしても、ノエリアはかなりレゼクに厳しいなと感じる。
たぶん、何らかの言葉の棘の被害を受けたのだろう。
そんな話をしているうちに、件のお菓子がやってくる。
給仕されている間に、ベラ伯爵夫人がお菓子の説明をしていた。
「こちらははるか東の国から渡ってきております、赤小豆を煮たものをゼリーのケーキにしましたの」
ほほぅ、と私は内心でびっくりした。
この世界はとても洋風だから、まさか似たアズキを見かけることになるとは思わなかったのだ。
他の人達は、奇妙な物を見る目でケーキのスポンジの上に重ねられた、ゼリーで固めたアズキを観察している。
初めて見た人は、そんなものかもしれない。
ノエリアも「これは……美味しいんですの?」とややこわばった表情をしている。
「たぶん、いつものケーキとは風味が違うと思いますけど、甘くは作ってるんじゃないでしょうか?」
甘く似た豆料理ならこの世界にもある。
ノエリアにそういう感じじゃないかと伝えてみる。
「食べてみますね」
ベラ伯爵夫人の説明も終わったので、さっそく一口。
うん、アズキ。砂糖を混ぜているので餡子らしい味がする。
料理人も、豆は甘くしないとお菓子としては食べられないと思ったのか、その分下のスポンジの方は甘さがほとんどない。
おかげで一緒に食べるとちょうどいい感じだ。
そして砂糖なしのお茶とも相性がいい。
私が平気そうに食べているのを見て、ようやくノエリアもケーキに手をつける。
一口食べてみて、首をかしげている。
マズイわけではないけれど、いつも洋菓子を食べている人には違和感があったのだろう。
でも食べられないわけではないらしく、その後もちびちびと食べ続けている。
そうしながら、ノエリアはウルスラ妃の弟、カールの近くに知り合いがいないか視線で探していたようだ。
「あの周辺の声が聞きたいのよ。何か手がかりになりそうなことをしゃべってくれるかもしれないわ。ここからでも誰と交流しているのかは見えるけれど、ちょっと情報として足りないし」
ノエリアはとてもまじめな人なので、しっかりと情報収集したいようだ。
そうこうしている間に、音楽が流れ始めた。
最初はベラ伯爵夫人が手配した楽団。
けれどその後、参加している貴族達が合間に演奏し始める。
どうやらお菓子のお礼に、と申し出ているみたいだ。
私は「へー」と他人事のように見ていた。
なにせ転生後は、楽器なんて触っていない。
それを予想しているだろうノエリアだって、私に演奏を勧めたりしないだろうと思ったから。
が、それを打ち破るとんでもない事態が発生した。
演奏した貴族の推薦で、カールがヴァイオリンを弾き始めた。
ここまではいい。
大変お上手ですねーと思っていたら、だ。
「僕も推薦してもいいのかな」
なんて言い出す。
でも仲間内で回すだろうと思ったのに。
「よろしければ、皇太后陛下に新しく仕えることになった伯爵令嬢にも、何か一曲お願いできるといいな」




